Medical Management 1998年6月号ここで、この1年半のテーマを「総索引」として記録しておく。その時々の話題をできるだけ取り入れたつもりである。
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先にも触れたように、面白いように医療を取り巻く環境は変化している。医療に関する問題として、少子高齢化をはじめとして、医療費削減、薬価引き下げ、病床削減など制度上のマイナスシーリングは続き、また日本社会全体としては戦後最大の倒産件数と最高の失業率を記録している。そのような中で情報化の進展の波は押し寄せ、介護保険制度、特別医療法人制度なども生まれてこようとしている。
右肩上がりの成長の時代から成熟の時代に入り、そのなかでは業界全体が護送船団的に伸びるのではなく、勝ち組みと負け組みに別れてくるといったこととなる。国の無策ぶりを批判しても始まらない。また、先々の不透明感を嘆いても始まらない。いわば、漫然とハードさえあればどうにかなる時代は終わった。これからは、頭を使う時代、「ソフトの時代」に突入したといえるのではないだろうか。モノがなくとも、頭でビジネスチャンスをつかむことができる時代となってきたのではないだろうか。
近視眼的にみると、ここ数ヶ月から1−2年の間に、介護保険制度への対応が第一に挙げられる。同保険制度には多くの民間企業の参入が報じられている。介護保険に向かって、企業、医療、福祉関係者が入り乱れてパイを奪い合う図式が想定される。そこに果敢に見を投じるべきか、それとも介護保険の対象から漏れた人々のニーズに対して付加価値を持ったビジネスチャンスを模索すべきか、自らの戦略というものが試されるの時ではないだろうか。
第二に今年の4月から、特別医療法人制度が誕生した。設立要件でハードルは存在するものの、医療費削減で疲弊した医療機関に対して初めて収益事業で救いの道が示されたわけである。ここには、まず、駐車場業に関しては遊休資産の有無が大きな因子を占める。また、関連施設として健康施設やクアハウス的なものを有している機関では浴場業というものが直営でできることになる。そういった意味で、この二点に関しては、もの(ハード)を持っているか否かによる選択で、敢えて戦略というものは存在しないと考えられる。
これに対して、ソフトの面での各医療機関の戦略の優劣が問われてくる分野が存在する。医薬品販売、医療用具販売、医業経営相談事業、情報サービス業が可能となった。病院内における装具、衛生材料や市販薬の販売から始まって、他の医療機関を対象にした薬剤・材料販売やそれらの運用システムのコンサルティングサービスまで可能なことになる。すなわち、物流管理とその運用システムというノウハウを持った医療機関がそのシステムを他の医療機関に収益業務として販売可能となる。さらに、各受注医療機関における運用情報をオンライン化し、情報サービスとして管理することが可能になってくる。いわば、医療機関が主導権をとったフランチャイズチェーン、ボランタリーチェーン化の幕開けであると思われる。
また、飲食業、配食サービス、患者搬送サービスの解禁は、介護保険制度導入へ向け、民間企業と最も競合する分野である。従来、医療の供給者として蓄積してきた患者情報と医療福祉情報を、ここで最大限に活用することが可能となると思われる。
新しい制度を批判するのではなく、その制度の中で何が実行可能か選択肢を広げていくことができる時代となった。医療だけではなく、自信を無くした日本の経済全体でもハード中心という旧い考えを捨てて、「ソフトの時代」に対応できれば強いニッポンは再び訪れるものと確信している。