Medical Management 1998年6月号

甦れニッポン

昨年の1月から始まった本連載も最終回を迎えた。お引き受けした時点で、もの書きの経験もなく、また小学校以来一貫して(!?)作文が苦手であった者にとって続くかどうか大変不安であった。しかし、編集部の孫氏の励ましと、幸いにして(!)財政構造改革と医療・福祉制度の激変期に遭遇し、話題には事欠かなかった。また、並行してバージョンアップしていったインターネット上の個人的なホームページ「医療経営のホームページ−医療を考えてみよう−」(http://www2.meshnet.or.jp/~kanno/)においても国内ばかりではなく、海外からも貴重な意見を頂戴した。

ここで、この1年半のテーマを「総索引」として記録しておく。その時々の話題をできるだけ取り入れたつもりである。

1997年

1月号 豊かな国ニッポン
2月号 質とやる気を落とさないリエンジニアリングの試み−その1
3月号 質とやる気を落とさないリエンジニアリングの試み−その2
4月号 医療ビックバン
5月号 欲望という名の・・・・
6月号 在宅サービスの世紀
7月号 足し算と引き算の医療費
8月号 インターネットはからっぽの洞窟!?
9月号 ミッション・コアの時代
10月号 西暦2000年
11月号 HONG KONG 1997
12月号 フェーズ5

1998年

1月号 マーケッティングからコスト管理へ
2月号 品質保証
3月号 グローバルスタンダード
4月号 “めりはり”の医療
5月号 3つの構造改革

(*バックナンバーはJAMICへお問い合わせください。また、上記インターネット上でも公開いたしております)

先にも触れたように、面白いように医療を取り巻く環境は変化している。医療に関する問題として、少子高齢化をはじめとして、医療費削減、薬価引き下げ、病床削減など制度上のマイナスシーリングは続き、また日本社会全体としては戦後最大の倒産件数と最高の失業率を記録している。そのような中で情報化の進展の波は押し寄せ、介護保険制度、特別医療法人制度なども生まれてこようとしている。

右肩上がりの成長の時代から成熟の時代に入り、そのなかでは業界全体が護送船団的に伸びるのではなく、勝ち組みと負け組みに別れてくるといったこととなる。国の無策ぶりを批判しても始まらない。また、先々の不透明感を嘆いても始まらない。いわば、漫然とハードさえあればどうにかなる時代は終わった。これからは、頭を使う時代、「ソフトの時代」に突入したといえるのではないだろうか。モノがなくとも、頭でビジネスチャンスをつかむことができる時代となってきたのではないだろうか。

近視眼的にみると、ここ数ヶ月から1−2年の間に、介護保険制度への対応が第一に挙げられる。同保険制度には多くの民間企業の参入が報じられている。介護保険に向かって、企業、医療、福祉関係者が入り乱れてパイを奪い合う図式が想定される。そこに果敢に見を投じるべきか、それとも介護保険の対象から漏れた人々のニーズに対して付加価値を持ったビジネスチャンスを模索すべきか、自らの戦略というものが試されるの時ではないだろうか。

第二に今年の4月から、特別医療法人制度が誕生した。設立要件でハードルは存在するものの、医療費削減で疲弊した医療機関に対して初めて収益事業で救いの道が示されたわけである。ここには、まず、駐車場業に関しては遊休資産の有無が大きな因子を占める。また、関連施設として健康施設やクアハウス的なものを有している機関では浴場業というものが直営でできることになる。そういった意味で、この二点に関しては、もの(ハード)を持っているか否かによる選択で、敢えて戦略というものは存在しないと考えられる。

これに対して、ソフトの面での各医療機関の戦略の優劣が問われてくる分野が存在する。医薬品販売、医療用具販売、医業経営相談事業、情報サービス業が可能となった。病院内における装具、衛生材料や市販薬の販売から始まって、他の医療機関を対象にした薬剤・材料販売やそれらの運用システムのコンサルティングサービスまで可能なことになる。すなわち、物流管理とその運用システムというノウハウを持った医療機関がそのシステムを他の医療機関に収益業務として販売可能となる。さらに、各受注医療機関における運用情報をオンライン化し、情報サービスとして管理することが可能になってくる。いわば、医療機関が主導権をとったフランチャイズチェーン、ボランタリーチェーン化の幕開けであると思われる。

また、飲食業、配食サービス、患者搬送サービスの解禁は、介護保険制度導入へ向け、民間企業と最も競合する分野である。従来、医療の供給者として蓄積してきた患者情報と医療福祉情報を、ここで最大限に活用することが可能となると思われる。

* * *

新しい制度を批判するのではなく、その制度の中で何が実行可能か選択肢を広げていくことができる時代となった。医療だけではなく、自信を無くした日本の経済全体でもハード中心という旧い考えを捨てて、「ソフトの時代」に対応できれば強いニッポンは再び訪れるものと確信している。

昨年1月の「豊かな国ニッポン」から始まった本連載を
甦れニッポン!
で締めくくりたい。


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