「MMPG 医療情報レポート」 Vol.69

医療法人制度の課題と展望

〜問われる非営利性の根拠


記事

第1部 医療法人制度の現状と課題 医療の公益性と永続性を考える

第2部 実例に見る特定医療法人化、特別医療法人化による真のメリット

第3部 将来展望に不可欠な医療法人における非営利性の根拠


第2部 事例2

医療への再投資を目指した資本の充実のために果敢な挑戦に挑む

特別医療法人財団董仙会(石川県七尾市)

医療施設:恵寿総合病院(454床)・恵寿鳩ヶ丘病院(143床)・田鶴浜診療所・烏屋診療所
その他施設等:恵寿健康管理センター・介護老人保健施設和光苑・介護老人保健施設鶴友苑・田鶴浜町在宅介護支援センター・けいじゅデリカサプライセンター 等

 診療材料管理のSPD化、薬剤在庫管理システム稼動、オーダリングシステム稼動、電子クリニカルパス導入、患者別原価管理システム稼動、電子カルテ運用開始と、董仙会は、徹底したIT化により4〜5年間で約7億円のコスト削減に成功した経験を有しています。また、患者へのサービス強化として、クレジットカード払いやデビットカードを導入、恵寿総合病院内に24時間営業のコンビニエンスストアを開設し、医療費や介護保険料の口座振替を開始するなど、新たな試みに積極的に取り組んできました。こうした挑戦への原動力のひとつともいえるのが、理事長・神野正博氏の、同族を排除した理事会により自らの去就が決定される医療法人財団の理事長であることへの危機感と責任感です。神野理事長は、医療への再投資の可能な資本の充実を図るべく、特別医療法人の認可を受け、配食サービスや福祉ショップなどの収益業務に着手、平成15年の制度改正を受け平成16年5月には、レセプトと電子カルテをASPで提供するという新たな事業もスタートさせています。

■公益性・永続性を目的に医療法人財団を選択、特定医療法人へ

 昭和9年に神野病院を創設した先代の理事長は、昭和42年の法人化に際して、医療法人財団という形式を選択しました。その結果、後を引き継いだ神野理事長は、「設立者の子息であっても理事会が拒否すれば理事長職を追われ、法人が人手に渡る可能性がある」との危機感を抱きながら病院運営に従事、経営力の向上に努めてきたといいます。現在の董仙会の理事会には、商工会議所の会員も名を連ねます。董仙会では、理事や評議員に対する説明責任を果たすために、事業計画、予算、財務諸表などを開示しており、それらの情報が、商工会議所のメンバーという極めて地域に密接した人材を介して住民にも広がる可能性も考えられます。しかしながら、公益性の高い法人として経営情報を開示すべきとの考えから、情報の流布を阻止することはありません。こうした状況は、理事や評議員のみでなく、地域全体から納得の得られる医療の展開を董仙会が義務づけられていることを示すものです。これを証明するかのように、社会福祉法人徳充会などを含めた董仙会グループは、その総称を「けいじゅヘルスケアシステム」と名づけ、地域に対して、医療・介護・福祉を一体的に提供してきました。

 また法人化を果たしてから2年後の昭和44年、大きな障壁を乗り越えることなく医療法人財団董仙会は、特定医療法人の認可を受けています。

■特別養護老人ホームへの配食サービス実施を目的に特別医療法人認可

 特定医療法人との要件に大きな差異はないため、特別医療法人の認可を受けることを、制度創設当初から検討していた董仙会が、その認可取得に向け積極的に動き出したのは、平成11年に特別養護老人ホームを開設する計画が具体化したためです。地域ニーズに応えるためにグループ内の社会福祉法人徳充会が、恵寿総合病院に隣接する場所で特別養護老人ホームの建立を決断したものの、厨房を設けるスペースの確保が困難であるという問題に直面しました。そこで当時、恵寿総合病院の近隣には董仙会が建てた老人保健施設があり、ここでつくる食事を、社会福祉法人立の特別養護老人ホームに販売することで、問題解決を図ることを考えたわけです。食事の販売すなわち配食サービスは、収益業務に位置付けられるため、特別医療法人の認可を受ける必要がありました。平成9年の第3次医療法改正で法制化され、翌10年4月から認可が開始された特別医療法人制度は、創設当初から手を上げる医療法人の数が少なく、認可を行う側の都道府県にも戸惑いがあったといいます。こうした事情を背景に、平成11年9月に特別医療法人の認可がおり、特別養護老人ホームも開設に至ったのです。

■配食サービスの事業展開と福祉ショップめぐみの開設

 特別養護老人ホームへの食事の提供からスタートした配食サービスは、その後、デイケアなどの利用者にまで対象を拡大、現在では「けいじゅヘルスケアシステム」の食事を全て賄っているといいます。平成15年6月には、けいじゅデリカサプライセンターを建設、セントラルキッチンシステムを導入しました。同センターに厨房機能を集約させることにより、グループ全体での人員・コストの効率化を図り、衛生面でも高い基準を満たすことが可能になるというメリットを得られるからです。さらに今後は、真空調理を可能にすることで日持ちのする食事の提供を行い、サービスを在宅患者や他の医療機関・施設にまで広げることを計画しています。一般に、在宅患者などへの配食サービスは、人件費を含めた輸送コストが過大で利益の捻出が困難です。これに対し一括調理・配送が可能になれば、輸送コストの問題が解決されるわけですが、「ノウハウが不足している」(神野理事長)のが実状であり、新たなビジネスモデルの検討が必須だといいます。

 このほかに董仙会が取り組む収益業務として、介護保険導入に合わせて開設された福祉ショップめぐみがあります。店舗内には福祉用具のみでなく、健康関連の書籍やコンタクトレンズ、ヒーリング効果のあるCD、健康食品などが並び、一般企業との提携によりインターネットを通じた販売も実施されています。

■収益業務は他の医療機関との連携を築くのに奏功

 現在の董仙会における配食サービスの収入は1ヶ月あたり約1,200万円、福祉ショップめぐみの月間売上は500万円程度です。利益は確保しているものの、多大な額とはいい難いのが実状なのです。この要因として、神野理事長は、「一般企業に比べ、医療法人にノウハウや商才がない点は否めない」ことを指摘します。確かに公益性の高い医療法人の行う収益業務は、患者や住民から篤い信頼を得られ、大きな損失を計上することがなく、わずかではあっても利益を捻出し資本の充実に貢献します。しかしながら、その真の効果は、事業単体での利益確保というより、「医療を補完するものであり董仙会トータルで判断した場合に大きい」(神野理事長)といった性質のものなのです。

 こうした実態を踏まえ、新たな展開として董仙会がサービスを開始したのが、開業する医師を対象にした、レセプトコンピュータと電子カルテから成るコンピュータソフトをASPで提供する事業です。当該サービスを利用する医師は、董仙会を介してコンピュータ本体を購入することにより、安価な値段で開業に必要なIT機器を揃えることも可能です。董仙会は、これまで蓄積してきた医療に係るIT化というノウハウを生かすことができます。さらに重要なのは、開業する医師との連携を築くことができる点です。董仙会では、福祉ショップめぐみの延長線上に、近隣の医療機関にベッドや注射器などを安価に購入してもらえる仕組みの構築も検討しています。これもまた実現に至れば、連携関係の強化につながるものです。地域の他の医療機関との連携が、恵寿総合病院などに、平均在院日数の短縮、紹介患者の増加などの効果をもたらすのは改めて指摘するまでもありません。董仙会がMS法人を設立することなく、特別医療法人として収益業務を行うことにこだわる背景には、事業で得た収益を医療に再投下し発展させたいとの思いがあるからです。そういった意味においても、特別医療法人の収益業務は医療を補完するものなのです。


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