月刊「ナーシング・トゥディ」2001年3月号

和田ちひろのこんな病院あったらいいな・第27回

ハイテクを駆使したハイタッチ医療

恵寿総合病院


(記事)

ハイテク技術・ハイタッチな医療

 「今日もお孫さんからメールが届いていますよ。」恵寿総合病院では1999年夏から、ホームページで「お見舞いメール」を受け付けている。入院している患者さん宛てにメールが届くと、プリントアウトしたものを台紙に貼り、看護婦が患者の枕もとまで届ける。時には海外からメールが届くこともあるという。「始めた頃は月に40通ほど来ていました」(広報室・角屋幸志氏)。2000年11月からは広報の一環としてメールマガジンを発行し、地域の方への健康情報の発信を行っている。こうした例に見られるように、当院では様々なハイテク技術を駆使し、ハイタッチな医療・福祉を実現している。

先取りできる安心感

 「治療がどういう経過をたどっていくのかわからないと患者さんも不安です。経過が見えるようになったことは患者さんにとってよかった」。電子クリティカル・パス導入の効果を述べるのは産科病棟婦長の前浜静香氏だ。当院のクリティカル・パスは48あり、そのうち産科には12のパスがある。「今までは医師の指示をその都度手書きの指示書に書いてもらっていました。パスを導入したおかげで何をすべきか事前にわかり、計画的に仕事ができるようになりました」(前浜氏)。パスを適応できる患者が入院してくると、まずパソコン画面でパスを選択する。すると退院するまでの指示がすべて自動的に組み込まれる。薬剤や検査、食事など診療にかかわるすべてのオーダー伝票も自動的に発行される仕組みになっている。今まで行ってきた処置や処方、検査などの入力作業は一切不要となる。産科でのパス適応率は80%程度とのこと。膨大な量の書類作成から開放されることによって直接的看護が増え、患者満足度も上がったそうだ。

 クリティカル・パスをプリントアウトしてそのまま看護ワークシートとして使うこともできるし、パスがあれば経験が浅いスタッフでも適切にアセスメントできるようになっているため、看護の質の標準化にもつながっていく。人間でなくともできることは徹底的に効率化し、職員は体温ある人間にしかできないことのみ専念する。病院のこうした姿勢は、職員の満足度にもよい影響を及ぼしていると考えられる。

One to one サービスは情報の一元管理から

 「医療サービスを受けた患者が、ある時は福祉サービスの利用者となり、在宅ケアの利用者となることもある。患者に個別のサービスを提供するには一人の患者を軸として、医療や介護サービスの内容および利用頻度、院内の医療・福祉ショップでも購買履歴など、利用者の情報を一元管理する必要があった」というのは院長の神野正博氏だ。病院だけでなく、同列の介護老人保健施設、ケアハウスなど多岐にわたるサービスがあるが、この「けいじゅヘルスケアシステム(以下けいじゅ)」をつないでいるのが、「4優 ( for you) 」と呼ばれる医療データベース、介護業務データベース、物販データベース、イントラネット(インターネットの技術を利用して構築される企業内情報通信網)からなるデータベースである。けいじゅのすべてのサービス窓口は5人のオペレーターが対応する「コールセンター」で一元化されており、個別に問い合わせ内容やサービスの履歴がデータとして蓄積される。たとえば利用者の介護用品の購入履歴が入っているため、「おむつは足りていますか」という声かけをヘルパーさんにしてもらうこともできる。

 コールセンターでは「 I see 」という取り組みも行っている。これは昼間、家族が仕事などで家にいない慢性期の患者さんを、動画・静止画で定期的に観察するサービスである。ナースコールは電話になっている。「今は電話回線を引かなくてはいけないので長期の患者さんのみですが、将来的には携帯につなぎ、短期の患者さんにも応用したい」(神野氏)

院内コンビニに患者用マニュアル

 院内のPHS導入も日本初であったが、コンビニエンスストア「ローソン」の院内誘致もまた国内で初めての取り組みだ。店内は広さは20坪と日本で2番目に狭いローソンとのこと。町で見かけるローソンと違うところは、たばこの自動販売機をおいていないこと。対面販売のみで、寝巻きの方には「先生から許可が出ていますね」とひと言添えるマニュアルも作ってもらっている。24時間開いているのは患者さんにとっても便利だが、「公共料金が払える」などスタッフからも好評のようだ。今後、健康をキーワードにした商品開発や流通に結び付けていくことも期待される。

 神野院長に今後の抱負を聞いてみると、「各現場はスペシャリストの集団であるが、隣の部署のことがわからないようでは医療のプロフェッショナルとはいえない。しばらく拡大路線できたので、次年度は研修への出席率なども盛り込んだ職員の評価システムを整えていきたい」と、さらなる病院サービスの充実に向けて積極的な姿勢がうかがわれた。

電子クリティカル・パス(左上)、お見舞いメール(右上)、I see(左下)、診療材料バーコード管理(右下)

病院玄関とローソン(左上)、医療・福祉ショップ(右上)、入退院時宅配サービス(右下)、展望浴場と院長(右下)

著者
和田ちひろ
医療CS研究家、杏林大学保健学部助手

*和田さんがお世話するHCRM (Healthcare Relationship Marketing )研究会のホームページもご覧下さい。


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