病院淘汰の時代:日本経済新聞1998.4.11 日本経済新聞1998.4.11

病院も「淘汰の時代」

経営努力必要に


(記事) 病院が本格淘汰の時代を迎えた。厚生省が3年連続の薬価基準(薬の公定価格)引き下げで収益にかげりが出ているうえ、医療費の個人負担増から患者数も今後減少する見通しだ。不良債権処理を急ぐ金融機関は、経営が悪化した病院の支援には応じなくなった。高齢化社会に突入し医療費抑制という構造改革は待ったなしで、病院自らの経営努力が生き残りのカギを握る。

薬価差が縮小
貸し渋りも響く

記事(倒産事例)略:日経本誌をご覧ください。

厚生省は4月、薬価基準を平均9.7%引き下げた。医療機関は薬価と実際の購入価格の差である「薬価差益」を収入源にしていたが、1兆3千億円とされる差益は大幅に縮小している。大手病院幹部は「今までは薬価基準が下がっても、薬以外の診療報酬が上がってカバーできたが、今年は全く違う」と厚生省の方針転換に驚く。

バブル期に医療機関への融資を拡大した金融機関は「医療制度の大転換期に放漫経営を続けていれば、手を引くケースもある」(大手都銀)と融資体制を変えつつある。これに対し日本医師会(坪井栄孝会長)は「公共性の高い医療機関が貸し渋りの影響を受けるのは問題だ」と強く反発している。

有力病院

予防医療や介護など

新サービス探る

経営環境が厳しさを増すなかで大手病院は経営基盤の強化に必死だ。聖路加国際病院(東京・中央)は予防医療ビジネスを新たに収益源に育てる。97年夏に「予防医療センター」を新設、人間ドックの結果をもとに医師が成人病予防や健康維持のための生活指導サービスを始めた。年間15億円前後の収入増を目指す。同サービスは一部を除き医療保険の対象外のため、制度改革の影響を受けない利点がある。

国内最大規模の医療法人である明芳会(東京・板橋)は、グループ内に株式会社のハンドヘル・ケアを設立。営利事業として、在宅高齢者向けの介護サービスや福祉用具販売を始めた。

高額の機器を周辺の医療機関と共同利用、投資負担を軽くする試みも広がっている。石川県七尾市の恵寿総合病院は、高価なMRIやCT(コンピューター断層撮影装置)を、周辺の病院や診療所7施設にも開放した。

ただ病院の企業努力では越えられない“壁”があることも事実だ。診療報酬は国公立も民間病院も同じで、地価や人件費が異なる都市でも地方でも一律。病院経営者からは「巨額の設備投資をして高度な医療を提供する病院と、診療所の診療報酬が同じなのはおかしい」(東京・中野の中野総合病院の池沢康郎院長)と不満が出ている。

厚生省は2月下旬、社会福祉・医療事業団による医療機関向けの融資について、融資条件を緊急緩和。無担保融資の上限を3百万円から1千万円まで引き上げ、利息償還を始める時期を現行から遅らせた。


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