日本経済新聞1997.8.29 日本経済新聞1997.8.29朝刊

病院生き残りへコスト削減

医療機器取り引きを“改革”


(記事)

医療保険改革で淘汰の時代を迎えた病院が、医療機器の購入コスト削減に本格的に取り組みはじめた。病院同士が購入価格を開示しあってメーカーに値下げを迫ったり、高額機器の共同使用、内外価格差に目を向けた並行輸入など、全国で様々な動きが広がっている。医療機器の不透明な取り引き慣行は日本の医療の高コスト体質を生む一因になっている。病院の取り引き改革は患者サービスの向上にもつながりそうだ。

医療機器の内外価格差(単位:万円)

日本米国
ペースメーカー150.989.537.0-70.3 -22.0-53.7
PTCAバルーンカテーテル 25.7 7.1 7.7-14.7 3.4- 5.7 5.3- 8.7
人工肺 21.914.318.5 7.9 -
眼内レンズ 5.2 1.4 1.7 - 0.7- 1.5
(注)海外価格は購買力平価による円換算、厚生省調べ

価格開示し値下げ要請
高額機器は共同使用
並行輸入で安く調達

全国20の中規模病院で組織する「地域中核病院研究会」(本部・芦屋市)はこのほど、注射器、レントゲンフィルムなどの消耗品を中心に約200種類の物品の購入価格を相互の開示しあう試みを始めた。
医療機器はメーカーの希望価格があるものの、実際の取り引き価格は病院ごとの個別交渉で決まるため、「同じメーカーの同じ商品で価格差が5倍近くになるケースがある」という。同研究会は交換したデータをメーカーや卸業者との価格交渉に役立てる考えで、ある会員病院は「年間で4000万円以上の削減効果が出る」と見ている。

東京の7病院が発起人となって今年5月に設立した東京医療情報サービス(東京・千代田)は消耗品の共同購入を始めた。全国30の民間病院から購入価格のデータを集め、価格が最も安い業者に一括発注する。

石川県七尾市の恵寿総合病院は、それぞれ1台数億円する磁気共鳴画像装置(MRI)とコンピューター断層撮影装置(CT)を、周辺の7病院・診療所と共同利用し始めた。恵寿総合病院は他病院への貸し出しで投資負担を軽減、周辺病院は低コストで機器が利用できる利点がある。

板橋中央病院(東京・板橋)グループは、ペースメーカーやPTCAバルーンカテーテル(心臓冠動脈を拡張する管状の治療用具)の並行輸入で欧米メーカーとの交渉に入った。医療機器の並行輸入には輸入販売業の資格認定が必要だが、実現すれば「両製品への年間支出は現在の約10億円から少なくとも5億円に圧縮できる」(布施篤総局長)としている。

厚生省の「医療機器の流通慣行に関する調査」によると、ペースメーカーやPTCAバルーンカテーテルの内外価格差は欧米との比較で最大8倍近くある。病院ごとの納入価が異なる不透明な流通慣行が背景にあり、厚生省は日本の医療の高コスト体質を是正する立場から、病院に取り引きの透明化と低コスト化を求めている。

収入減少に備え

患者サービス向上効果も

病因が医療機器流通の透明化に自ら乗り出した背景には、医療保険制度抜本改革等の流れがある。制度改革でコスト競争力のない病院は倒産も覚悟しなくてはならない時代に入ろうとしており、機器調達費の低減は生き残りに待ったなしの課題だからだ。

2000年度にも実施される薬価基準の廃止や定額払いの対象拡大は、病院にとって薬価差益の消滅による収入源を意味する。診療・検査・投薬をすれば儲かる「出来高払い」のもとでの“どんぶり勘定”は通用せず、「いかに支出を押さえるか」を真剣に考えざるをえなくなっている。

病院の総支出の内訳は一般に人件費5割、薬の購入費2割、医療機器調達費1割などといわれる。人件費はすでに事務の外部委託(アウトソーシング)などの合理化策が進んでおり、今後は制度改革に合わせ、いかに医療機器や薬の購入費を削減していくかが生き残りのポイントになる。

帝国データバンクによると、今年1ー7月の病院・医院の倒産件数は19件で、昨年同期の15件を上回った。患者の負担増を盛り込んだ9月1日からの制度改革をきっかけに「患者の病院選別の目が厳しくなり、淘汰はさらに進む」(神尾記念病院=東京・千代田=の神尾友和院長)とみる向きが多い。

患者つなぎ止めのため、コスト削減で浮いた経費は他病院と差別化できるような最先端の医療機器購入や入院環境をよくするための投資に回すという病院も多く、患者サービスの面でも病院間のコスト削減競争が活発化しそうだ。


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