日経ヘルスケア1998年4月号 月刊「日経ヘルスケア」1998年4月号

保険・医療情報システム特集(特別広告企画)
知恵と熱意でつくり上げた
オーダリングシステム


日経ヘルスケア4月号

記事

意思決定支援、業務効率化を図る

「以前、私が大学病院に勤務していたころ、初期のオーダリングシステムが導入されていましたが、ユーザーインタフェースが悪く、非常に使いにくかった。医師にとってのメリットが感じられませんでした。その反省に立ち、昨年1月、私どもの病院では独自のオーダリングシステムを構築しました」。

こう話すのは、石川県能登半島の七尾市(人口約5万人)にある恵寿総合病院の神野正博院長(42歳)。オーダリングシステムは、大学病院や公立病院のような大規模病院での導入が一巡し、いま、民間病院への導入が本格化しつつある。民間病院は生き残りをかけた厳しい経営を強いられているだけに、本当に使いやすく、導入しやすいシステム、しかも導入メリットが幅広く現れる実践的なシステムを求めており、オーダリングシステムの成熟化をさらに促進させる結果になると思われる。

さて、KISSと呼ばれる恵寿総合病院のオーダリングシステム。Windows NT Server 4.0を搭載したパソコン5台をサーバーに据え、外来診察室34台など合計180台のクライアントマシン(Windows NT Workstation 4.0)から構成される。その特色は、ユーザーインタフェースに工夫がなされていること。ソフト技術の進歩という側面もあるが、アイコンやウインドウなどを活用し、医師がオーダーする上で必要なさまざまな指示や入力、参照などを随時表示できる画面設計になっている。

医師はオーダー入力の基本画面から患者情報や受診歴、全科の病名、投薬状況、検査結果などを参照しながら、投薬、注射、検査のオーダーが出せる。仮に別の科で同じ投薬や検査のオーダーが入っていれば、きちんとチェックされる仕組み。入院患者については、主治医別に患者がリストアップされ、投薬や点滴の内容もすぐに確認できる。

一見、電子カルテの仕組みに似ているが、あくまで機能はオーダー入力にしぼまれており、所見入力や画像表示などの機能はない。したがって、医師は紙のカルテに書き込むことになるが、オーダーシールとして出力されたオーダー内容をカルテにはることにより、以後の作業は大幅に簡素化される。

バーコードで情報と伝票類をリンク

各部署での業務効率化。これについては、バーコードを上手に利用しているのが最大の特色。たとえば、外来の場合、診療録、指示カード、採血用試験管、一般撮影照射指示書、お薬引換え券、診察券などにバーコードが印刷され、このバーコードを各部署がハンディスキャナーで読み取りながら、投薬、注射、検査などを行う。神野院長は、メーカーと相談し、磁気カード対応の医療機器をバーコード対応へ改造したほど。各スタッフが胸につけたIDカードにもバーコードが印刷されている。

バーコードに記録された情報が、さまざまな情報や伝票を結び合わせるので、それぞれが迷子になることはない。「オーダリングシステムではコンピューター上の情報ばかりに注意が向きがちですが、実はこうした情報と書類をすべてコントロールする仕組みが業務の効率化では特に重要なのです」と神野院長は強調する。このバーコードを利用したオーダリングシステムは、1994年12月実施の診療材料院外SPD化でのノウハウが活かされた形。

このほか、医師のオーダーに伴い看護ワークシートなども自動的に出力されるので、転記作業がスピードアップした。正確さも増し、患者サービスの向上につながっている。「ホテルでは朝食後すぐにチェックアウトできます。それと同じように、病院でも診察後すぐに薬が出て、お金を支払うことができるようにと工夫しました」と神野院長は話す。患者の待ち時間は半分に短縮されたという。

定額性、地域医療・福祉への対応

特筆すべきは、オーダーされた内容がすべてデータベース化されること。医師、看護婦、検査技師、理学療法士、栄養士などのスタッフが自分の部署の端末から必要な情報へアクセスできるようになった。「とにかくさまざまなデータを入力し、データベースを構築すれば、スタッフ全員がそれぞれの目的で利用できるシステムが必ず生まれるはず」と神野院長はその意義に触れる。情報共有化により、スタッフの参加意識が高まり、チーム医療やチームケアへの準備が進むというわけである。

1997年10月にはイントラネットを構築し、破損伝票、出張願伝票といった伝票類や文書類を登録。必要時にプリントアウトして、利用する環境が整った。また、会議の招集や議事録などの連絡事項を電子メールで送ってもいる。

システム構築にあたっては、医師の熱心さとスタッフの努力が原動力となった。たとえば、運用管理では常駐する技術者はゼロで、ソフトベンダーの技術者がリモートコントロールするだけ。「システムの立ち上げの際には若いスタッフが汗を流しました。自分たちが作ったシステムだという雰囲気が生まれ、かえって良かったと思います」と神野院長。神野院長は、オーダリングシステム構築にあたって県と交渉した際、県の担当者は『打ち合わせにメーカーの人間ではなく、病院長が来たことはなかった』と驚いたという。院長を始めとしたスタッフの熱意がこれからの病院経営には必要なのではないだろうか。

病院プロフィール 神野院長は、将来の医療改革にも準備を怠らない。「これからの定額性のために、標準的な診療内容を盛り込んだクリティカル・パスをシステム化する計画です」。これによりさらに業務効率化が図られ、患者へはインフォームド・コンセントの道具にもなる。

恵寿総合病院は、入所施設として和光苑(150床)・鶴友苑(50床)、通所施設としてはデイケアセンターを経営するほか、在宅介護支援センターの運営委託も行う。今後、介護保険導入を控え、医療と福祉の統合を念頭に置き、医療システムと福祉システムの継続性を模索中である。近々、15〜20kmほど離れた直営の診療所2ヵ所や老人保健施設にもオーダリングシステムやイントラネットをWAN接続する予定で、本院と診療所で情報共有できるようになる。

恵寿総合病院は、知恵と熱意で優れたシステムが構築できるという良い見本である。


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