日経ビジネス 2003年11月10日号

シリーズ企画 動け日本! 第6回

医療の変革に挑む7人衆

「顧客主義」が閉鎖者機会に風穴を開ける

「顧客第一」。産業界に定着したこの考えと無縁の業界、それは医療界だ。
官によるサービス統制、大学医学部の支配構造、病院団体の既得権・・・。
規制緩和や構造改革と無縁だった閉鎖者社会に7人の医療者が挑んでいる。
今号では、医療の最前線で戦う彼らの姿を追った。
厚い壁に穴を穿つ原動力はただ1つ、顧客主義である。

(日経メディカル編集部)



顧客満足−病院にコンビニを
患者の視点で新サービス : 神野正博氏(恵寿総合病院・院長)

 CS(顧客満足)やCRM(顧客情報管理)は産業界では常識の経営手法だが、これを武器に経営の舵を取る神野正博は、病院として「全国初」のサービスを次々と生み出した。

 例えば、2000年6月に開設したコールセンター。「来週月曜日にMRI(磁気共鳴画像装置)検査の予約が入っていますが、予定が大丈夫ですか」。そんな電話がセンターから患者の元に入る。利用者が介護の相談を持ちかければ、「この前、介護ショップで購入された杖の具合はいかがですか」と、個々人の情報を基にしたきめ細やかな対応をする。

 コールセンターを作ったのは、「診療予約の確認や変更、医療の相談や苦情を受け付ける窓口が一本化されていれば、利用者にとって非常に便利」というごく自然な発想からだ。神野は特別医療法人董仙会の理事長でもあり、恵寿総合病院(454床)を核に32の病院・事業所を運営しているが、すべての顧客情報を一元管理している。

 消化器外科医として臨床の第一線で活躍していた神野が、3代目として恵寿総合病院に戻ったのが1992年。経営は赤字だった。民間病院では国公立病院とは異なり、補助金でホテルのような豪華な建物を新築することもできない。しかも、周囲に病院が多いという逆境。「少しでも多くの患者に来院してもらうためには何らかの差別化を、低コストで実現する必要があった」。

 全国初の“病院内コンビニ”として2000年8月にローソンを誘致したのも、こうした発想からだ。「病院内の売店が夕方には閉まってしまうので、患者からは不満が多かった。24時間営業のコンビにであれば究極の時間延長だ。病院としてスペースを貸すだけなのでリスクは少ない」。県への手続きはオープン後に行った。「法的規制はないが、事前に相談したら、『病院にコンビニなんて』と反対されただろう。確信犯だ」と笑う。

 そのほか、クレジットカードによる医療費の支払い、病院のホームページから入院患者に電子メールを送る「お見舞いメール」など、患者に優しいサービスを数多く手がけている。韓国ソウルの病院と提携し、観光を楽しみながらPET(陽電子放射線断層撮影装置)による最先端のガン検診を受けられるツアーも今年から始めた。

 神野は以前から三菱商事とパイプを持ち、その子会社であるライフタイムパートナーズがローソンを経営し、コールセンター運営のアドバイスなども行っている。同社社長の村山浩は神野をこう見る。「我々が新規事業の実験の場を求め、それを神野先生が提供するという関係にある。新しい事業に躊躇せずに挑戦できる先進的経営者」。

 患者満足を高めるためにあふれるアイデアをいかに実現するか。その秘訣を神野に尋ねると、「チャレンジ精神を持ち、汗を流し、知恵を絞ること」と明確な答えが返ってきた。

(その他の記事は本誌をご覧ください)


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