日経産業新聞2003年8月1日朝刊医療・バイオ・介護面

医療・介護 改革の主役たち(連載)

V字回復へ無駄排除

恵寿総合病院(石川県)


(記事)

 「けいじゅリバイバルプラン」。石川県能登半島の中部にある恵寿総合病院(七尾市)で今年4月、こう銘打った経営改革プロジェクトが動き出した。カルロス・ゴーン氏の改革で業績のV字回復を果たした日産自動車に病院をなぞらえる。

 患者一人当たりの単価や検査機器の稼働率などは他の病院の後塵を拝し、人件費などコストも高い−−。

 あおぞら銀行が3月にまとめた経営評価リポートが改革のきっかけになった。同リポートは20数病院の各種経営指標をランキング化。「うすうす気づいていたが、他病院との数字比較は説得力がある」(神野正博理事長)。厳しい評価を“外圧”として職員の意識改革を迫る。

 もっともこれまで漫然と経営してきたわけではない。さまざまな経営改革や新規事業に取り組んできた。同病院の約10年の動きを追うと「日本初」が並ぶ。例えば1994年に三菱商事子会社と組んで医療材料の院外での在庫管理を始めたほか、医師からの検査や投薬の指示もいち早くコンピュータ化した。

 2000年に開設したコールセンターはグループの医療、介護に関する利用者の注文や要望を一括管理し“顧客”囲い込みにつなげる。院内に24時間コンビニエンスストアを開業したほか、介護用品のネット通販も始めた。6月に稼動した「けいじゅデリカサプライセンター」も初の院外調理施設。グループ内の病院や介護施設向けに1日約3000食をまかなう。

 こうした取り組みは一定の成果をあげてきた。神野氏がトップに就任した94年3月期は赤字だったが、以降は黒字基調が続いた。2001年3月期から企業並みの時価会計を導入し、退職給付債務を一括償却。このためこの期は赤字を計上したが、「会計の透明性を高め、企業との提携を進めやすくするための前向きの赤字」(神野理事長)と位置づけた。

 しかし、2002年3月期から2期連続の赤字は様相が異なる。2003年3月期は診療報酬引き下げという要因もあったが、法人収入87億円のうち64億円を占める恵寿総合病院だけで5億円の経常赤字。基幹病院が足を引っ張る構造が鮮明になってきた。

 神野理事長はずさんな収益管理が赤字の原因と見る。例えば、血液凝固を防ぐヘパリン生理食塩水。本来は診療報酬が請求できるにもかかわらず、記録を怠り月間20万-40万円の請求漏れがあった。その分は病院の持ち出しになる。

 「リバイバルプラン」では、各部門ごとにコスト削減幅の数値目標を作り、月次で達成状況を管理する。複数あった外来受付の統合や、自動精算機導入による外部委託人員の削減なども進め、2004年3月期で前期比1億2000万円のコスト削減を達成する計画だ。

 診療報酬引き下げ、患者の自己負担拡大と環境が厳しいだけに、新規事業などの知恵と筋肉質の経営を両立させて初めて成長軌道が見えてくる。

(堤篤史)


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