Phase3.1998年4月号 月刊フェイズ3.1998年4月号

インサイドレポート:マネジドケア導入に向けいま何をすべきか!

コスト管理を徹底し改めて“質”の担保を


(記事)

「マネジドケア」への注目が高まってきている。このところの制度改革の方向性や、診療報酬における定額性導入といった動向からも、その先にマネジドケアへの流れが見てとれる。「マネジドケアは、医療提供者が前向きに取り組んでしかるべき、医療の本来の姿である」といった積極的な意見や、「抜本改革の流れの中で避けて通れない事実」としての受け止め方など、それぞれのスタンスの違いはあるものの、現実問題として、医療機関はその対応策を講じるべき段階にあるとの認識は共通のものとなっているようだ。本レポートでは、マネジドケアの本質にできる限り迫りながら、その導入に向けて医療機関が求められるポイントを探っていく。

項目の目次

(全文は掲載紙をご覧ください)


主眼は「QC」にあり。単なる費用削減手段ではない

支える手法の確立はこれから。保険者強化には課題も

日本の医療がおかれている現状を踏まえ、マネジドケア進展の可能性を考えたとき、それを左右するポイントには、「前向きの要素と後ろ向きの要素とがある」とメディアーク研究所の須磨忠昭氏は指摘する。

まず、前向きの点としては、さまざまな制度改革の動向がある。一つには、診療報酬体系における急性期集中化、平均在院日数による点数傾斜配分などといった、急性期医療現場の効率化の流れである。また、介護保険の創設で短期型の保険と長期型の保険に別れたことにより、その間の整合性を図る必要性が出てきたことがある。このほか、定額性の導入がマネジドケアの考え方を必要とするのはもちろん、医療費抑制、さまざまな規制緩和の流れ、ヘルスケア市場の活性化なども、マネジドケアへの追い風となる。

「問題は後ろ向きの要素」と須磨氏は続ける。
一つには、医療現場の問題として、質のよいケアを最短距離で(最も適正に)提供していこうとする体制が整っているかどうかである。
「はたして医師たちが、現在の状況下に『生き残れるか』ではなく『どうあるべきか』という視点で、自分たちの医療をどう考えているのか。患者や国からのプッシュではなく、あくまで自らが、最短距離でケアとコストを適正に提供することへの意欲があるか。同様に、看護婦ほかコ・メディカルについても、チーム体制の中でそれぞれ、その意識があるかが問われる」
外側から見る限り、その点はやや不安に映ると須磨氏はいう。

また、マネジドケアを支えるさまざまなシステム、手法が日本の現場でいかに根づくかということもある。「ケアマネジメント、ケースマネジメントなど、言葉だけが先行して内容が伴っていない現状がある。クリティカルパスについても、日本の医療現場ではまだスタートしたばかりの段階」(須磨氏)。

さらに、マネジドケアの核となる保証体制、保険者機能のあり方の問題がある。須磨氏は、「マネジドケアが患者サイドに立つものである以上、その保証体制も効率性を備え、患者サイドに立った保険者でなければならない」と指摘。そのためには、「保険者、つまり健康保険組合がもっと各企業の従業員の立場に立ち、医療機関やサービス利用者に対して積極的に啓発、アプローチできるよう機能を向上することが求められる」という。具体的には、医療機関に対し、良質な医療を適正なコストで効率的に運用するよう協力を求める一方、サービス利用者に対しては日頃から疾病の予防・健康増進・ライフスタイル改善などを重視するよう教育・啓発していく働きである。さらに、それらがきちんと実践されているかどうかを評価、チェックするのも保険者の役割である。

ただ、この保険者機能強化には、実際問題として難しい点もある。特定医療法人董仙会恵寿総合病院の神野正博理事長は、「現段階で、保険者はマネジドケアのチェック機関たり得るだけの機能を持ちあわせておらず、機能向上を図るには、人員補充など新たにコストがかかることも考慮に入れなければならない」と指摘する。

クリティカルパスの確率やケアの連続性も求められる

こうした追い風と向かい風の入り混じるなか、医療機関には、具体的にどのような取り組みが求められるのだろうか。意見を求めた病院関係者各氏は、それぞれ次のような見方をしている。

医療法人禎心会病院の徳田禎久理事長は、「効率的によい医療を提供するという観点から、現在行っている医療を見直してみる必要がある」とし、具体的にはまず、「コスト管理の徹底」を挙げる。「部門別の管理にとどまらず、さらに綿密に原価計算を行うことで、どれほどのコストをかけ、その患者にどの程度の効果をもたらされたかを振り返ることが大切」と徳田氏。そのうえで、「国際疾病分類に基づいて診断・処置を管理でき、クリティカルパスに沿って計画的に取り組める体制を整えることが必要。当然、診療録をきちんと管理することも求められ、それはコスト管理の重要な資料としても意味を持つ」という。さらにケアの連続性という観点から、自院のスタンスを明確にすることの必要性にも言及。急性期、慢性期、さらには在宅など、患者のあらゆるステージに対応する施設を複合的に有する場合を除いては、「自院がどの部分を担うのか、また他施設との連携をどうするのかを考えていかねばならない」(徳田氏)と語る。

前出の神野氏は、「後ろ向きの話としては、従来行ってきた医療について原価計算を徹底することが必要」としたうえで、「前向きな取り組みの一つとしてクリティカルパスを確立することが求められる。そうした準備があれば、マネジドケアが導入されても対応しやすいだろうし、反対にそれがない病院では粗診粗療となる可能性が懸念される」と指摘。さらに、総括的な意見として、「マネジドケアの導入如何にかかわらず、今病院としてなすべきことは、自院の提供する医療の品質を保証することであろう。そうすれば、いざマネジドケアとなっても対応していけるのでは」(神野氏)との考えも示す。

医療法人愛仁会本部の山門和明局長は、「医療の質の確保をどのように担保し、いかに評価していくかが課題」と話す。具体的には、「カルテの開示、インフォームド・コンセント、情報公開、患者主権などとのリンクをどのようなシステムで確立するかという点で、医療提供者側の意識改革が必要である。それがなければ、社会のシステムとしての(マネジドケアの)定着は困難ではないか」というのが山門氏の見方。さらに、「マネジドコンペティションという概念があるが、医療機関の公正な競争環境(公私間格差の是正)が必要」とも語る。

様変わり見せる選ばれる病院の条件

マネジドケアは終わりなきイノベーション

こうして見てくると、各氏の論理的なアプローチの仕方に微妙な違いがあるのは当然のことながら、マネジドケアを念頭に、病院として成すべきことの方向性には一定のベクトルを見出すことができる。すなわち、「医療の質の3ファクターとしての計画・標準・評価」という須磨氏の言葉を借りれば、それらのファクターを取り込むことで保証される「良質な医療」をいかに「効率的なコスト」で提供するか、という本来的な目標へ向け努力していくこと。そこにインセンティブを与えるものとして、マネジドケアという一つの仕組みが生きてくるのである。

医療の「コスト抑制」と「質の向上」。この両者は、ある意味矛盾する関係にある。医療費高騰の原因はさまざま挙げられるが、質の向上が求められてきたなかで、両者のジレンマもまた一つの原因であったはずだし、ときに、「医療費の抑制がマネジドケアの目的」という言い方がされるのは、このジレンマの本質を無視した的外れな指摘といえる。あえてその目的を言うならば、相反する両者の“均衡”を患者サイドに立ってより適正なレベルに見いだしていくことではないだろうか。

須磨氏は語る。
「マネジドケアは常にイノベーションを繰り返す“生き物”であり、その取り組みは終わりのない勝負。ある一時点での評価をもとに、よいか悪いかを論議すべきではない」

よい医療を少しでも安く−このどこまでも最終形の見えない命題に向かって、病院自体もイノベーションを重ねていく必要があるのかもしれない。


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