月刊「Phase 3」2002年12月号

特集:会計準則見直しで全病院が赤字に転落する!?


特集目次

Part1 新会計システムの導入でここが変わる

Part2 病院経営者は根拠に基づいた経営実態をこそ注視すべき

Part3 資金の流れの明確化が対外信用向上を実現

Part4 「会計情報」は自院を知り知らせるために不可欠な指標

(記事)

Part3 会計の明確化に取り組む病院事例

資金の流れの明確化が対外信用向上を実現する

会計基準の見直しの必要性が叫ばれる中、会計の明確化にいち早く取り組む病院もある。PART3では、先進事例として、特別医療法人財団董仙会(石川県七尾市)と宗教法人在日本南プレスビテリアンミッション淀川キリスト教病院(大阪府大阪氏)を紹介する。

退職給付会計の導入で約11億円の債務が顕在化

 恵寿総合病院(454床)を中心とする特別医療法人董仙会(石川県七尾市、職員数960人)は、2000年度血算で外部監査法人に監査を依頼。以後、それまでの会計処理方式を改め、グローバルスタンダードである企業会計原則の導入に踏み切っている。この会計原則では有価証券、固定資産の減価償却の評価原則に時価会計の概念が取り入れられ、同時に「退職給付会計」や「税効果会計」なども採用されている。

 これまで指摘してきたように、このような取り組みに対しては、いわゆる「隠れ債務」の顕在化が経営面で大きな影響を与える危険性も囁かれている。同院総務部企画開発課長の梅田信一氏は当時の心境を、「法人全体をいわば丸裸の状態にすることを意味するわけで、恐ろしいという思いも確かにあった」と語っており、従来のものとは大きく異なる会計方式の適用に対しては、法人内部で逡巡が全くなかったわけではないようだ。

 では、不安を押してまで会計方式を一新した理由はどこにあったのだろうか。理事長・院長の神野正博氏は次のように話す。

 「当方腎芽一般企業と合同でプロジェクトを進めていく機会も、これから先増えるはず。企業との間に共通言語がなければ、そのような事業展開も実現できないだろう」

 同院では2000年8月、院内に全国初となる24時間営業のコンビニエンスストアをオープンし話題となったが、これなど神野氏が言う企業との合同プロジェクトの代表例といえよう。このような事業展開を進めていくうえでは、企業同様の会計原則は不可欠−との判断がまずあったわけだ。

 そしてもう一つ、長引く不況により銀行の破たんが相次ぐ経済不況に対する危機感も、企業会計原則の適用に踏み切る大きな要因となっている。

 「メーンバンクの破たんにより経済的に行き詰った医療機関の話は、北海道などではかなり聞かれる。このようななかで銀行からの間接金融以外の資金調達法を確立しておきたいという考えもあった」

 病院債の発行に代表される直接金融は、現時点では現実味に欠けるものの、欧米ではすでに一般化している。国内でも土壌が整いさえすれば、病院経営の安定化を図るうえで有効な手段となるはずだ。病院経営の安定化を図るうえで有効な手段となりうるはずだ。しかしこのような方法で資金調達を行うためには、対外的な信用を高めることが非常に重要となることはいうまでもない。企業会計原則の導入は、この点をクリアすることも大きな狙いだったのである。

 だが、今回の試みが一方で法人全体の経営に大きな影響を与えたのも事実だ。同院事務局次長・総務部長の花村進一氏によれば、もっとも大きな影響がもたらされたのは退職給付会計の導入だったようだ。

 「同期期末日における退職給付債務は約24億1942万円で、これに対し年金資産額は12億6760万円。つまり。差し引き約11億円が新たな損失として発生したことになる」

 顕在化した債務は、特別損失として一括償却を行った。自己資本比率の急激な低下などを考えれば、やや無謀との印象もぬぐいきれないが、あえてこのような方法をとったのは、「先の見とおしがまったくきかないなかで、余力のあるうちにすべてを処理しておきたかった」(神野氏)ためだ。

 この取り組みにより、現在では銀行との交渉がスムーズに進むようになるなど、成果は確実に実を結びつつあるという。だが、企業会計原則が病院の導入された場合、顕在化する債務の処理がすべての病院で可能とは到底言えまい。神野氏はこの点について、「苦しい状況に追い込まれる病院が出てくることも確かに考えられるだろう」としながらも、「対外的な信用を高め、退職後の職員の生活を考えるうえでも、導入には意義があるはず」と語ってくれた。

資金の流れの明確化により対外信用の向上が実現

 淀川キリスト教病院の例(略)

(恵寿総合病院分のみの記事です。その他の記事は、是非本誌をご覧ください)

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