このような現状を踏まえ、平成11年4月に医療保健福祉審議会がまとめた「診療報酬体系のあり方についての意見書」では、高額医療機器について「無秩序な導入を避け、共同利用の促進などによって、その利用の効率化を図らなければならない」とし、医療提供体制の効率化という観点から、診療報酬上で何らかの措置を取るべきことが示唆されました。
そして、この意見書をベースに内容が検討された平成12年度診療報酬改定では、高額医療機器の共同利用を評価する点数として、「特殊CT撮影」と「特殊MRI撮影」が新設され、一定水準以上の共同利用がなされている高額機器については、従来よりも高い点数が算定できるようになりました。また、旧式の機器と高性能の最新機器が同一点数で評価されている、といった矛盾を解消する意味も、この点数には込められています。
(中略)
ただ、「共同利用」とひとことで言っても、連携そのものが思うように進展していない現状では、機器の共同利用もまた、一朝一夕には成果をあげることはできません。特殊撮影の要件となっている「共同利用率5%」という基準についても、自前の外来患者が多い医療機関ほど分母は大きくなり、「正直、厳しい」という声も多いのが実態です。
今後は個々の医療機関が、それぞれの機能や地域における役割を活かしつつ、積極的な取り組みを実践することが必要でしょう。
特別医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(石川県七尾市)では、平成8年7月から「医療機器共同利用システム」の運用を開始しました。
このシステムが通常の患者紹介と異なるのは、受け入れ側となる同院で、医師の診察が発生しない点です。具体的には、機器の利用を希望する医療機関が申し込みを行ったあと、患者が直接同院の放射線部を訪れ、CTやMRI等の撮影を行うというもので、撮影後は患者にフィルムと専門医による所見が手渡され、患者はそれをかかりつけの医療機関へ持参します。
このシステムでは、診察料は発生しませんので、同院での会計はなく、カルテも作成されません。撮影された画像もパソコン上のデータとしては保存されていますが、フィルム自体は患者に手渡され、同院では保存されません。
保険請求は、同院からの撮影内容等を記した報告書をもとにそれぞれの医療機関がレセプト請求を行い、同院はフィルム代、撮影料を翌々月に利用医療機関に請求します。
また、機器の予約は使用機器や撮影部位、造影剤使用の有無、臨床所見などを記した利用申込書をFAX送信するだけで済むようになっており、面倒な手続きは患者や送り先の医療機関でも発生しません。
同院の神野正博院長は、「地域の医療機関の先生方が、自院の設備と同じように当院の機器をご利用いただく、というのが基本的な考え方です」と説明しますが、もともと、このシステムの運用のきっかけは、地域における連携の推進にあったと話します。
同院のように、地域で中核的な役割を担う病院には今後も連携の推進が重要な役割となり、CTやMRIなどの検査紹介はその中心になるものです。ただ、通常の外来紹介の場合は、検査や画像診断に伴って診察を行うため、それによって「患者をとられてしまう」と不安に思う医療機関があることも事実です。同時に診察料を算定することによって、同院での支払いも発生するため、中には「病院へ検査に行くと高くつく」と不満に思う患者もいます。
同院の共同利用システムは、このような問題を解決することが第一の目的で、神野院長は「良好な連携関係の構築を考えたとき、先生方にも患者さんにも、できる限り不安や不満を払拭した形で当院の設備・機能を利用していただきたかった」と語ります。
実際のシステムの立ち上げにあたっては、圏の担当部署からシステムの可否について確認を得るとともに(*)、地区医師会にもシステム利用についての理解を求めたそうで、現在では、約40名の地区で開業する医師会会員のほとんどがシステムに登録しています。(*編註:神野院長によると、同院にあったシステムの問い合わせの中には「当県では認められないといわれた」という内容もあったそうで、地域によって行政の対応にも差があるようです)
システムの利用件数については「地域における(MRI等を利用する)症例数自体が少ないという問題もありますが、当初考えていたより少ないのが現状」と苦笑する神野院長ですが、コンスタントに利用してくれる医療機関も定着していると言います。また、採算面では、「正直言って割の合わないシステム」だそうですが、「長い目で見たとき、地域の医療機関と良好な連携関係を構築するために、決してマイナスにはならないと考えています。もちろん、患者さんの負担が少なくなる点も大きなメリットだと思っています」と、関係強化の手段としての価値に意義を感じています。
さらに同院では、今年から24時間体制のコールセンターを立ち上げる計画があり、医療・介護・福祉の幅広い範囲で、医療機関や患者からの相談業務や物品販売(同院は特別医療法人であるため可能)を行う予定です。その中で、検査や画像診断の問い合わせに応じていき、これを共同利用システムに結び付けていくことも検討されており、連携医療機関の増加が期待されます。