第1段階:意識の向上を図る
「危険な状態」を職員が認識することがポイントです。
事故防止対策の必要性や実際に起こった事例などを医局も含めた各職場で話し合うなどし、認識を高めていきます。“チーム医療”の意識を定着させるために、全職員参加の横断的な委員会活動(感染防止、教育、薬事など)なども積極的に展開していく必要があります。
また、看護婦については上位下達方式ではなく、自身の療養管理責任を認識し、主導性をもって患者のケアに当たることが必須」(森院長)となります。
この他、病院全体における組織的な取り組みが評価される「病院機能評価」の受審、学会などにおける職員の発表なども意識の向上には効果的だと指摘します。
第2段階:事故防止のための委員会設立
第1段階で、ある程度意思統一が図れれば、第2段階として、他職種の参加による、事故防止を担当する委員会を設立します。委員会では、事故・ミス報告のファーマットを作成し、報告に基づいた原因の分析や対策を講じていきます。
第3段階:リスクマネージャーの専任
これら活動が活性化されたのち、第3段階として事故防止の担当者であるリスクマネージャーを専任し、能動的に事故やミスの掘り起こしをしながら、事故防止活動のチェックや訓練なども行っていきます。
特定医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(石川県七尾市)も、今年7月からこの報告制度を導入し、事故やミスの実態把握に乗り出した病院のひとつです。
同院の「ヒヤリ・ハット事例集」は、全部署・関連施設を対象にした報告制度。同院の特徴でもあるコンピュータ・ネットワーク機能(イントラネット)を活かし、ネット上で職員からの報告が行われています。「意識付けの意味も含めて、全職員への公開が原則」と同院の神野正博院長が説明するように、内容はすべて職員が制限なしに閲覧することができます。
収集された報告は、院内の主任クラス約35名からなる「リーダー会議」で内容の分析や対策が検討され、ここで決定した対策や提案についても、ネット上で公開され、職員への周知徹底が図られます。
ヒヤリ・ハット事例集の導入に際しては、批判めいた声は上がらず、特に以前から同様の報告制度を実施していた看護部では、「是非、全部署で」といった積極的な姿勢が目立ったといいます。医局でもおおむね肯定的に受け入れられたようで、意義や目的が浸透する前に変わってしまうことが多いローテイターについても、大学側に報告のないようを情報提供するといったアプローチをすでに始めています。
ただ、このような報告は、最初はなかなか件数が集まらないのが、どの病院でも頭の痛いところです。同院の場合は、まずは月に1部署1件の報告を義務づけました。
「(ヒヤリ・ハットが)ないはずはないのだから、月に1部署10件ぐらいは集まらなければいけないと考えていたのですが…」と苦笑する神野院長ですが、何よりも“継続”に重点を置いたこと、さらに看護部位外は、初めての取り組みだったことなどを考え、“1部署最低1件”からスタートすることにしました。
その成果については、7月に始まったばかりということで「自慢できるようなものはまだまだ…」といいますが、実際に事例を分析し、適切な対策を検討していくことが「ミスや事故を防ぐ大きな力になると確信している」と手応えを感じています。
もちろん、そのために「報告を出す者が事故防止に貢献しているのだということを、繰り返し言っています」(神野院長)というように、職員の認識を一層高めていくことに力を注いでいます。
恵寿総合病院の神野院長は「事故やミスの報道は頻繁になされる中で、職員も従来以上に危機意識が高まっています。患者さんの視線も痛いと感じているでしょう。取り組みの意義を説き、行動を開始するには、最も効果的な時期」と、今が事故防止対策に取り組む好機だと指摘します。これは逆に言えば、今始めなければ手後れになるということでもあるのです。
いま医療機関には、「始めること」こそが求められているのではないでしょうか。
恵寿総合病院の「ヒヤリ・ハット事例集」。最下段の空欄は、リーダー会議でも検討結果を踏まえ、病院としての決定事項を記入する。