月刊「ナース専科」2000年8月号:クリニカルパス 月刊「ナース専科」2000年8月号

特集:実践から学ぶ導入・作成法とその効果

徹底活用!クリニカル・パス


ナース専科

特集目次

Voice/活用しているナースたちに聞くメリット・デメリット
Q&A/疑問点や看護の役割を知って、パスに強くなる
Report1/ナース主体で進める治療・ケアの標準化・昭和大学病院
Report2/業務削減を目指し積極的にパスを導入・恵寿総合病院
Advice/失敗しないパスの作成と活用のポイント

Report2/業務削減を目指し積極的にパスを導入・恵寿総合病院

  クリニカル・パスの成否は、パスの目的がナースに浸透しているかどうかがポイントといえます。パスがナースのモチベーションを高めるものであれば、スムーズに活用できるはずです。ここでは、ナースの業務改善を目的として導入された例を紹介します。

オーダリングシステムと連動した医療従事者のためのパス

  恵寿総合病院は病床数454床。能登半島の中央部にあたる石川県七尾市に立地し、能登地区随一の規模を誇る病院です。

  クリニカル・パス(同院ではクリティカル・パスと呼称)の導入を決定したのは1998年4月のこと。神野正博院長の提案によるものです。まずは一つの科でひとつのパスを導入するという目標で進められ、準備の整った科から試行されました。99年4月には院内コンピュータネットワークの稼動に伴い、オーダリングシステムと連動したパスが本格的に導入されたのです。

  2000年1月1日から6月15日までのパス適用数は541件。同院で扱う症例の約20%です。パス適用の大半は正常分娩で、帝王切開、白内障、扁桃腺摘出術、子宮頚管縫縮術、腹式膣式子宮全摘術、大腸ポリペクトミーなどが多く、ミエログラフィーや脳血管撮影などの検査項目もパスによって行われています。

  同院のパスの特徴は、パスを業務改善のための一手段として導入した点です。パスを用いることで支持、転記作業の手間を削減し、医師やナースが「楽になる」ことを主眼としています。この結果、パスが適用できる患者さんには高品質でばらつきの少ないケアを提供し、パスが適用できない患者さんに対してはパスによって生み出された余力で充実したケアが行える体制が整えられました。

  またもう一つの特徴は、パスが院内コンピュータネットワークシステムの一部という点です。パスはオーダリングシステムと連動していますので、パスを選択した時点で、規定された日数分の薬剤、注射、検査項目が医師による指示書や看護ワークシート、処方箋、検査伝票に転載されます。

  パス策定したのは看護職と事務職でした。ナースの代表として取りまとめを行った川畑繁子看護副部長は次のように話します。
  「まず、医師とナースとで構成される委員会をつくり、科ごとにどの項目がパスとして適用できるか協議しました。初年度は、パスができた部署から患者様用のパス、ナース用のパス、アセスメント部分の関連図を使用しています。適用例は10件程度でした」

  導入当初は、パソコンにパスのデータを保存して必要に応じてプリントするというものでした。その後、オーダリングシステムの完成によって連携が取られ、医師がパスを選択すると同時に薬剤名などが記載され、その発注も完了するようになったのです。

  日々のケアについては、パスに準拠した医師指示書兼看護ワークシートが毎日出力され、これを参照することでその日に必要なケアを効率よく行えるようになりました。このシートは患者ごとにルーズリーフに閉じられ、裏面にはSOAPによる記述方式の看護記録がつけられるようになっています。翌日、ナースは前日の看護記録とその日のワークシートと照らし合わせることができるのです。

ナース用パス  患者用パス

パスの課題を克服し最良のケアを目指す

  同院で最もパスの適用率が高いのはやはり産科病棟で、その割合は全体の80%に達しています。同病棟のパスを作成した前浜静香婦長はその過程を次のように語ります。
  「当初、パスがオーダリングシステムと併用されることもあり、医師たちは『パスを使って標準化することは難しい』と話していました。そこで、過去の症例をもとにデータを作成してみると、ばらつきが少ないことがわかったのです。この結果を示すと納得し、作成に協力してくれるようになりました」

  パスの成否は、医師の協力が得られるかどうかだといわれます。なかにはパスをナース主導の計画だとして嫌う医師もいるといいます。しかし同院の導入の経過を見ると、院長主導ということもあるからでしょうか、良好な関係のもとに進められたようです。

  また、パス導入のネックとしてもう一つ挙げられるのが、パス作成作業が非常に煩雑だという点です。しかし前浜婦長は、「パスの作成にはあまり手間がかかりませんでした。カルテを参考に何日目に何を行ったかというように抽出していったのです」と言います。「正常分娩でいうと、パス導入前には入院日数が10日だったり8日だったりとさまざまでしたが、パスの作成によって一律6日間へと短縮することができました。私としてももっといろいろな症例にパスが適用できると思っています。医師にはさらに働きかけていきたいですね」(前浜婦長)

  パス適用時に問題となるのは、バリアンスといわれるパスからの逸脱です。
  「産科病棟では、5%程度の頻度で発生するバリアンスが生じた場合、パスを中止してしまうかパスを追加するようにしています。追加することが多いですね。ケア方針を変更するわけですから同時にカンファランスを行います」(前浜婦長)

  一方で、パスがうまく適用できない症例も多数残っています。
  「内科病棟ではあまりパスが作成できていません。というのも高齢者が多く、合併症など患者様の背景があまりにも違いすぎるからです」(川畑看護副部長)

  同じくパス適用症例が少ない小児病棟のナース竹下晶子さんは、「事例が少ないためにパスの利点や欠点がはっきりと表れていません。ただ、パスによって治療に対する患者さんの理解が深まったためか質問が少なくなりました。今後は、子供向けの内容のパスも必要かもしれません」と語ります。

  業務の軽減を目指して導入されたパスですが、そのメリットはさまざまな方面に及んでいるようです。患者さんからも自分が受ける治療や退院日がわかるようになったと好評だといいます。また、ナースたちにとっても業務が削減されると同時に看護スキルの向上を図ることもできたそうです。
  「パスによって新人ナースでもベテランナース並みのケアを行えるようになりました。また、これまでナースたちは患者様と同様に治療の方針がわからずにケアを行っていることがあったのですが、パスで全体像がつかめるようになりました。パスを導入して本当によかったと思います」(前浜婦長)


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