病院1998年6月号リエンジニアリングの展開と患者本位の診療体制づくり 週刊「医療タイムス」(医療タイムス社発行)1998年6月29日号

認定証を受ける−医療機能評価結果から23
オーダリングシステムですべての情報を一元化


医療タイムス1998.6.29

記事

石川県七尾市の医療法人董仙会恵寿総合病院(神野正博院長)は平成10年3月9日付で財団法人日本医療機能評価機構から病院医療機能評価の認定(一般病院B)を受けた。地域医療への取り組みや院内物流、物品管理が高く評価された。一般病院種別Bでは北陸地方初の認定となった。

「井の中の蛙(かわず)ではなく、日本の中で自院の位置をはっきりさせたかった」との理由から、機能評価を受けた。

恵寿総合病院は昭和9年9月、現正博院長の祖父・正隣氏が現在地に神野病院として創設した。その後、父・正一氏(現会長)を経て平成5年4月に現院長の体制になった。診療科は20科、一般病床は454床となっている。現在は同院のほかに2診療所、2老人保健施設、身体障害者更生援護施設を運営する。また、隣町の田鶴浜町老人デイサービスセンターへの人員派遣、同在宅介護支援センターの運営委託を受けている。

医療機器の共同利用が高い評価

認定項目のうち大項目の「地域ニーズの反映」が特に高い評価だった。
「地域ニーズの反映」のうち、在宅ケアに関する2項目全てが5点満点だった。小項目の「入院中の患者の退院後の療養環境の調整が行われている」の1項目が3となったが、そのほかはすべて4と高い評価だった。

在宅ケアの2項目については、デイサービスセンターや在宅介護支援センターなどへの取り組みが高い評価につながった。このほか、住民を対象の講演会、地元のFM局(ラジオななお)へ出演しての医療相談の実施や病床運営委員会による患者退院後の行き先確定、地域保健部による訪問看護の実施なども評価された。

中項目の「地域の他施設との連携」では、医療機器の共同利用が評価された。
医療機器の共同利用は高額な医療機器(CT、MRI、ガンマカメラなど)を地域の医療機関が自由に使うことができるシステム。通常の共同利用は、使いたい医療機関が使いたい機器を持っている医療機関に紹介状を書き、患者は紹介状をもとに機器を所有している医療機関を受診することになる。しかし、恵寿総合病院の場合は、患者が紹介状なしに直接同院の放射線部に行き撮影する。患者はレントゲン写真と読影所見を元の医療機関に持ち帰り、診断、治療を行う。患者の会計、レセプト請求は元の医療機関で行う。このため、他の医療機関は恵寿総合病院の機器を自院の医療機器と同様に利用することが可能になっている。
医療機器の共同利用は8年7月から実施しており、平均で月間30件程度の利用がある。

医療材料SPDにも特色

大項目の「病院運営管理の合理性」も高い評価だった。
このうち「物品管理が適切に行われている」、「物品の在庫管理が行われている」が最高の5点だった。「医療事故への対応が適切に行われている」が唯一3、そのほかはすべて4と高得点だった。

物品管理については、平成6年12月にバーコードを利用した診療材料院外SPDを導入した。9年1月からはパソコンサーバーをつかったオーダリングシステムを構築、院内情報の共有化、ムダな紙の排除などに効果を上げた。
バーコードをつかったSPDは在庫管理を簡素化し、発注業務の排除を可能にした。
たとえば医療材料は小分けした包装にバーコードがはられており、利用する時にバーコードをリーダーで読み込むことで、オーダリングシステムを通じて自動的に発注する仕組みとなっている。これによって医療材料の在庫が数日分で済むようになった。
医療材料は一括して1業者にまとめて発注、納入や支払いもその業者が仕入れた業者に対し一括して行っている。業者が医療材料のバーコードの貼り付けや小分け、院内各部署への配送も行っている。
9年に構築したオーダリングシステムとあいまって、現在では各部署からの発注伝票がなくなった。

7年10月には医療材料と同様にバーコードで管理する薬品在庫管理システムがたちあがった。複数の医薬品卸業者を1社化、受発注業務の合理化、加重平均価格の低減化に貢献した。

医療材料の院外SPDシステム、薬剤管理システム、バーコードシステムなどすべてのバックボーンとなっているのが9年1月に稼動を始めた統合オーダリングシステム「KISS (Keiju Information Sperical System)」。患者の会計待ち時間をホテルのチェックアウト並みにすることや、情報の共有化や伝票転記事務の削減により、限りない伝票の削減を目指した。
オーダリングシステムにより、患者、カルテ、医療材料、医薬品、職員など院内に流通する情報はすべてバーコードで一元管理され、誰でも必要な情報を必要な時に取り出すことが可能になった。「ピラミッド型の情報伝達から、患者を中心とした球状の情報伝達」と位置づけている。
統合オーダリングシステムは診療情報も取り込んでいることから、「患者1人1カルテ方式」をやめ、各科にカルテを常駐させることができるようになった。これにより、カルテ出しの待ち時間を大幅に短縮できることとなった。医師は診療内容をオーダリングシステムで確認するとともに、処方なども入力する。すべての情報がオーダリングシステム上にある。

フロアコーディネーターが患者の安心感につながる

フロアコーディネーター 大項目「患者の満足と安心」では中項目「患者サービスの配慮」の3項目がすべて4と高い評価だった。

患者サービスに関することではクレジットカードによる支払いができることも特徴になっている。クレジットカードによる支払いを開始したのは9年4月。人間ドッグだけではなく、保険診療にかかる支払いもすべてカードにより行える。

そのほか、ソーシャルワーカー3人を配置した医療相談室では、医療費の相談や家族の悩みを聞いている。

病院玄関にはホテルでいう“ベルガール”にあたる「フロアコーディネーター」をおいている。患者や見舞い客など、来院時の案内を行う。 通常の挨拶のほかに「どうしました」とか「どちらですか?」などと積極的に声をかけ、わからないことなどがあれば答えてくれる。初めての来院でも迷うことや戸惑うことがない。また患者が帰るときは「お大事に」と声をかけ、患者の安心感の向上に一役かっている。

このほか、食事の選択メニュー、行事食、季節食、院内の清掃、温度管理、地下通路の病院行事などの掲示物も高い評価だった。

受け持ち看護婦制も評価

看護に関する評価では、看護基準、看護手順、看護ケア改善の取り組み等が高い評価だった。同院では、看護婦にも主治医のような受け持ち看護婦制としている。1人の入院患者に対し、責任を持つ1人の看護婦を決めるというもの。これにより、患者の信頼もあがった。患者が在宅医療に移るときは担当する看護婦が必ず1回は訪問している。

本年度からは本格的にクリティカルパスに取り組んでいる。ベテランの看護婦でも新人の看護婦でもチェック項目があらかじめ決まっていることから、基本的な看護はほぼ同じように行えるという。
クリティカルパスについてもオーダリングシステム上においているため、必要があれば誰でも参照することが可能になっている。

「自院の使命を再認識」神野院長

機能評価を受けたことについて神野院長は「これまでやってきたことが自信につながった。機能評価を受けたことで文書の整備ができたこともプラスだった。さらに、地域における病院の使命を再認識した」と機能評価を受けたことが病院を見つめ直すいいきっかけになったとしている。

医療法人董仙会恵寿総合病院の総括(全文)

財団法人日本医療機能評価機構

昭和9年の創立で能登半島全域からの患者を受け入れ、「金沢にいかなくとも、自宅に近い能登で医療ができる」を目標に着々と整備され、先進医療に取り組んでいる努力を見せられた。
「1.0病院の理念と組織的基盤」では、地域ニーズに積極的に取り組む姿勢や患者の権利を尊重し、常に医療の質の向上を目指す努力は高く評価できる。
「2.0地域のニーズの反映」では、地域のニーズに積極的に対応し、保健・医療・福祉との連携も充実していることは高く評価できる。
「3.0診療の質の確保」では高度の医療への取り組み、各部門の機能についてはおおむね評価できるが、一部の診療録の記載、症例検討会の開催などについては今後の検討課題であろう。
「4.0看護の適切な提供」では、婦長・主任クラスがリーダーとなり、QC活動をベースに看護の向上や変革に向け努力されているのは評価できる。ただ薬剤の箱渡し方式については今後の検討を期待したい。
「5.0患者の満足と安心」では、高齢化時代および地域性に対応した関連施設を保持して患者・家族の意見や希望を尊重し、その期待に応えている点で患者との信頼関係を厚くしている。今後、患者のプライバシー保護や分煙など院内環境整備の見直しについて積極的な取り組みを期待したい。
「6.0病院運営管理の合理性」ではオーダリングシステムの導入、物品管理のJITSシステム化など同規模・同開設者の病院でコンピューターを最大限に取り入れる特徴ある合理化への取り組みは高く評価できる。人事・労務管理の面で週休や人材確保について今後の検討を期待したい。


参照:「病院の通信簿

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