月刊WAM 1997年4月号

経営最前線

情報のデジタル化等の推進で
業務内容・患者サービスを効率化

インターネット、オーダリングシステム等を駆使する医療法人


(前略)

バーコード管理など画期的なシステムを構築

神野理事長曰く、「デジタル化した情報を統合した電子カルテへの取り組みに向けて、着実にステップアップさせるための第一期の戦略」と位置づける、恵寿総合病院のオーダリングシステムは、これまで同院が取り組んできた種々のシステムを統合した、情報のデジタル化・共有化に向けたビッグプロジェクトである。

同システムの導入は「在庫削減、人員削減、経費削減には直接結びつかないし、導入経費までを考慮すると、民間病院の経営上、導入に踏み切る決断はたやすいものではない」と、神野理事長に言わしめるほどのシステムであるが、「病院のリエンジニアリングを旗印にした以上は避けて通れない。情報の共有化、転記作業の軽減(診療報酬請求の迅速・的確化の推進等)、物品管理業務の軽減ばかりではなく、業務全体のスピードアップ、患者サービス面などのメリットを挙げればきりがない」との判断から、同院独自のオーダリングシステムの導入に踏み切った。

恵寿総合病院のオーダリングシステムは、従来から独自に取り組んでいた診療材料・検査・薬品におけるバーコード管理の流れを統合し、診察券、カルテ情報、放射線デジタル画像システム、さらには職員の管理(出退勤等)までのすべての業務・事項を、同院独自のバーコードにより入力・管理する画期的なシステムを構築したところに大きな特徴がある。

院内の全部署に約230台のパソコン端末とバーコードリーダーを設置しており、神野理事長は、「例えば、患者様の診察券もいわゆるテレホンカードなどで使用されているプリペードカード型へと変更して、各々の診察券にバーコードを印字した。これにより受付から診察、検査そして会計までのすべての流れをバーコード入力によりスムーズな処理が可能となる。また、病院としても、患者様の情報や薬の処方等がバーコード入力で一元的に管理ができ、しかもリアルタイムで情報を把握できるメリットは計りしれない」などの効果を紹介する。

イントラネット・ホームページで情報を共有化

さらに同院では、オーダリングシステムの導入にあわせ、インターネットの院内版として最近話題のイントラネットサーバーの導入も行った。これにより、院内文書の電子メール化、院内で配布しているパンフレットなど、いわゆる診療報酬とは関係のない分野の情報を電子ファイリングし、院内のパソコン端末をオンラインで結んだ院内ホームページを開設した。「インターネットのホームページで培ってきたノウハウを利用したもので、例えば高血圧症の患者様に渡していた啓蒙用のパンフレットをはじめとするすべての印刷物を、画像やカラー化を施して電子ファイリングする。これにより必要があれば、モニターに映し出して患者様へ説明することも可能であるし、希望によりプリントアウトしたペーパーを差し上げればいい」と、その使途を神野理事長は説明する。また、院内では従来広報課でのみ見ることができたインターネットのホームページについても、「その内容はすべて、イントラネットのホームページにもファイリングする」方針であるという。

恵寿総合病院では、今回導入の一連のシステムを「患者様を中心とした球状の情報の共有化」という概念にもとずき、「恵寿・情報球体システム=Keiju Information Spherical System (略称:KISS 「キッス」)」と名づけており、本年1月から薬剤処方システムから部分稼動させ、この4月から全面稼働となっている。
(注):4月全面稼働の予定でしたが、7月に全面稼動となります。

システム稼動経費は総額3億円のプロジェクト

今回、恵寿総合病院が導入したオーダリングシステムとイントラネットサーバー稼動までの経費は、「ハード(パソコン本体、モニターテレビ、サーバー、プリンター、バーコードリーダー等)部分が約1億円強、ソフト(バーコード化のための独自のソフト、イントラネット用のソフト)の開発が約9千万円、さらに当院の場合、公道を挟んで三つの建物に分離しているための配線工事(光ファイバーケーブル工事も含む)費関係が約2千万円など、総工事費は約2億円強を伴った」と、神野理事長は説明する。 ただし、「コストをできるだけ抑えるため、ソフトはソフト、コンピュータはコンピュータ、配線工事は配線工事と、それぞれの専門業者のうち一番メリットの高い業者を選定した。また、コンピューターの設置から周辺機器との接続、さらにはソフトのインストールなどの作業は、ほとんど院内の若い職員が行ってくれたことで、その部分のコストも抑えることができた」ことも紹介する。

さらに、コンピュータ設置台数の増加に伴う電力供給の問題から、「従来の自家発電装置では、生命維持装置やエレベータ等を動かしつつもコンピュータを動かすとなると、停電や震災の時に稼動しない恐れがでてきたため、オーダリングシステム導入を契機に、日中の電力を自家発電するコジェネレーションシステム(燃料を炊いて自家発電を行うのと同時に、その際に生まれる排熱を給湯や冷暖房に利用するシステム)に更新した(夜間は電力会社の深夜電力の供給)」ため、これらの関係工事費を含めると総額約3億円のビッグプロジェクトになったという。

デジタル化は病院の生き残りに向けた経営戦略

これだけの経費を投入してリエンジニアリング=情報のデジタル化・共有化を推し進めた背景には、病院の生き残りをかけた、将来の競争に絶え得る設備投資の重要性を認識した結果によるところが大きい。この辺りについて神野理事長は、「当院の所在する能登半島地域には公立病院が数多く存在している。しかも、これらの公立病院では最近、順次、新築・移転の計画が進められている。公立病院がこうした戦術を取っているので、当院もアメニティ等を考慮すると新築・移転が最も望ましい手段でがあると考えているが、諸般の事情からすぐには実行できない。しかしながら、ただ指をくわえて眺めているだけでは仕方ないので、当院ができることを模索したのである。それが一連の“情報武装"であり、診療材料・検査・薬品関係業者の一社化である。つまり、民間病院ならではのスケールメリットを活かした取り組みである」ことを強調する。

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以上、恵寿総合病院におけるリエンジニアリング=情報のデジタル化・共有化の一連のシステム化の流れを見てきた。これらの取り組みは、経営戦略の一つの手段ではあるが、同院のシステムはその規模や独自のバーコード開発に見られるように、一味違うずば抜けたシステムである。

(後略)

月刊WAM:社会福祉・医療事業団 Welfare And Medical Service 発行


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