高知県山間部地域における胃アニサキス症
神崎雅樹 溝渕和久 矢野哲也 井上和男 沖 勇一 鈴木了司
1 はじめに
近年、内視鏡等の発達により胃アニサキス症の症例が増加し必ずしも珍しい疾患ではないとされるようになってきた。高知県の山間部地域に位置する嶺北中央病院において、昭和58年よりの4年間に経験した胃アニサキス症の23例についてその臨床症状を中心に報告する。
2 対象
昭和58年7月ー昭和62年6月に当院において胃内視鏡にてアニサキス症と診断された23例について調査した。男性13名、女性10名であった。年齢は24才から68才にわたり、20代5名、30代7名、40代3名、50代6名、60代2名であった。
3 結果
A 季節性
季節的には、ほぼ1年中に分布していた。1、5、11月には発生が見られなかった。2月から4月にかけて10例とやや集中しており春先に多い印象を受けた。(図1)
B 原因
サバの刺身、サバ寿司、しめサバ等のサバの生食に18例と大多数を占めた。その他では、アジの刺身によるものが2例、カツオの刺身によるものが3例であった。いずれも自分で釣ったもの等の新鮮なものであり、冷凍物による発生はなかった。(表1)
C 臨床症状
症状は主に腹痛で多くの例(95%)では上腹部の激痛を訴えた。その他吐き気や嘔吐が7例に見られ急性胃炎の症状を示していた。また3例では尋麻疹をともなっていた。また腹痛を訴えなかった1例は上腹部の不快感を訴えた。(表2) また生魚の摂取後、発症までの時間は短いものでは2時間、最も長いもので22時間であった。発症までの時間がはっきりしている13例のうちほぼ半数の6例が4時間以内の発症であった。(表3) 一般的な例では夕食にサバ等を摂取しその後夜間に激しい痛みで覚醒し翌朝来院したものが多かった。
D 虫体
虫体数は20例と多くの例では1虫体のみであったが、3例においては2虫体の迷入が見られた。なお虫体の分析では破損により同定不可能だった2虫体を除き残りの24虫体はアニサキス1型であった。
E 内視鏡所見(図2)
虫体の迷入部位は26虫体のうち22虫体が胃体部に見られ、またその全てが大弯側のひだ内に迷入していた。その他噴門部に2例、前庭部に1例見られた。なお1例のみであるが、食道胃接合部に迷入していたものがあった。食道及び前庭部の2例を除き、他はすべて大弯側に見つかった。虫体の迷入したひだは腫大及び発赤を示した。このことは虫体を捜すさいの1つの手がかりとなった。また症例によってはひだの腫大及び発赤が胃全体に及びBorrmann4様に見えることもあった。
F 経過
内視鏡により虫体を摘出した後、多くの症例では速やかに症状の消失を見た。しかし一部の症例では虫体摘出後も数日間上腹部の不快感を訴えた。また58才の男性で3年間に2度アニサキス症になった症例があった。
4 考察
小山ら1)による全国集計によればアニサキス症は北海道及び本州の日本海側に多い傾向がみられるが、大分県に166例の報告2)があるなど、日本南部においても必ずしも珍しい疾患とはいえない。我々の施設ではサバによる発症がもっとも多かった。これは北日本ではタラ、イカによる発症が多く、西日本ではサバによる発症が多いとするこれまでの報告と一致する。
どの報告においても一致するように、自覚症状については心窩部痛がほぼ全例に見られ、これに悪心、嘔吐を伴うものが多かった。また尋麻疹も時にみられた。これらより、いわゆるサバにあたったとされていたものの中にはかなりアニサキス症が含まれていたと推察される。
アニサキス幼虫は、加熱などには弱いが酢酸や胃酸などの酸性環境には強く、しめサバなど酢による調理法では死滅せず、それらの摂取により発症する。 この予防には加熱するのが良いが、また低温にも弱いといわれ冷凍した場合には死滅する。 オランダではニシンを−20C゜で24時間冷凍することを義務づけて予防に成功している。
アニサキス症の診断は病歴より疑えば内視鏡により比較的簡単に行える。 またそれが治療にもつながる。心窩部痛を主訴に来院した者に対しサバ等の生食の有無を問診し、それがあるものには積極的に胃内視鏡を行えば、今後もアニサキス症の症例が増加すると思われる。





文 献
1)小山 力、荒木 潤、町田昌昭他:アニサキス症に関する最近の問題点:モダンメディア、28巻:(9)434−443,1982
2)高尾善則、柴田興彦、工藤輝俊他:急性胃アニサキス症:日本医事新報、No.3086:26−31,1983
3)波多野 裕、内田善仁、廣田和子他:日本消化器内視鏡学会雑誌、27巻:(11)2306−2313,1985
この論文の要旨は、昭和63年の高知県医学会で発表しました。
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