児島完治のCT読影入門講座 (2003.09.11)

キナシ大林病院 放射線科 児島完治


研修医のための手引き書です。

 2004年から新しい臨床研修制度が始まります。どうすれば、要領よく、そして研修医も満足する研修をおこなえるのだろうか。2-3ヶ月間の放射線科研修でCTの読影がどの程度できるようになるのだろうか。まだ未知の世界です。

 研修では、教科書を読んでもらうのは勿論ですが、CT読影の常識をまず知ってもらわないと前にすすみません。本来ならば1〜2年上の先輩が教えるのが理想です。屋根瓦方式です。こんなことまでいちいち教える時間は忙しい放射線科医にはありません。

 3カ月で(常識=基本)がしっかり頭にはいれば、あとは沢山の疾患を経験することだろうと思っています。


内容
基本的事項

腹部CTの読影

胸部CTの読影

頭部CTの読影


基本的事項

1.CT値について知っているか

 学生時代に胸部X線写真を教わったからといって覚えている訳ではない。もう一度CTの基礎知識を勉強する必要がある。CT値の単位はHounsfield unit (HU と略す)である。CT値は、空気をミ1000HU、水を0HU、固い骨を+1000 HUとして物質の密度、すなわち X線吸収値(density )を2000分割している。CT画像の横にGrey scale というBarがある。真っ黒から真っ白までの間を灰色に区分したBarで、CT画像は、黒、白とこの灰色で表示されている。高いCT値のものほど白く表示している。人間の目では灰色の程度は16段階程度しか区別がつけれないと言われている。

2.Window Width (WW) と Window Level (WL)

 CT画像は -1000HUから+1000HUまでのデータがあったとしても、人間の目では約100HUの差がないと区別ができない。そこで、CT写真は、必要とするCT値あたりだけを灰色にして画像を表示し、診断できるようにしている。

 例えば、頭部CTで観察したいのは脳の実質の変化である。そこには、脳室の液体(0 HU)白質、灰白質(平均35HU)、脳出血(50-80HU)、脳梗塞巣(0-30HU)の物質が存在する。このような場合には、約0 HUから+100HUあたりのCT値を区別すればよい。脳実質のCT値35HUを中心にする。この中心となるCT値をWindow Level(WL)という。これより上50HUと下の50HUの部分だけ、上下あわせて100HUを灰色にして脳実質を観察する。従って85HU以上のdensityはすべて真っ白に、-15HU以下のものはすべて真っ黒に表示される。この時の表示するCT値の幅(ここでは100HU幅)のことをWindow Width (WW)という。

 モニター上では自由にWWやWLを変化させて観察することが可能で、慣れればモニターで観察したほうが診断はし易い。

 胸部CTでは、当院では肺野を見るためにWW1700 、 WL-750、縦隔を観察するためにWW300、 WL0とふたつの画像表示をしたフィルムを用いて診断している。

3.画像の見方

 肝や脳のような臓器のなかの濃度変化を見る場合には狭いWWに設定し、基本となる臓器のCT値を中心値する。

 従って腹部では肝が約50-70HU、脾が約50HU、筋肉・膵などが約45HU、腎・血液が約35HUなので中心値は45-50HUに設定する。WWは探すものにあわせ設定する。例えば、HCC は 35-80HU、転移性腫瘍50HU前後、血管腫は血液とほぼ等濃度の40HU前後であることより肝腫瘍描出には120-160位の狭いWWがよくWW/WLは120-160/50が適切である。

 膵癌の神経周囲浸潤のように脂肪内にある微細なものであれば、WLを落とし-30-0 HU、WWは250-300前後に拡げる。

 CT画像では肝臓の中に血管が肝臓より黒くみえ、さらに胆嚢は血管より黒く表示される。この灰色の違いを見て診断をおこなう。肝腫瘍は正常の肝臓より少しCT値が低い、そのため肝臓より黒く見える。この灰色の差を識別することで診断をおこなう。

 画像を作っている単位をピクセルという。CT画像は個々のピクセルのCT値を輝度に変えたデジタル画像である。従って、どんな部分でも計測により数値を得ることができる。例えば、腎嚢胞の内部が透明な水(0HU)なのか、少し濁った水(>10HU)なのかの区別は肉眼的に区別しにくいときには計測すればはっきりする。

4.Partial Volume Effectについて

 CT読影のうえで絶対に知っておかねばならないアーティファクトのひとつである。一般にCTは1cmスライスで撮影される。大きな嚢胞(0 HU)は、肝臓(50-70HU)の中でははっきりとしたlow densityの腫瘤として区別できる。しかし、1cmより小さな嚢胞は、1cmのCTスライス厚のなかに肝臓の組織もあるため、0 HUでなく10-30HUのものとして表示される。そのため、はっきりしたlow densityではなく、淡いlow densityになって、肝癌などとの区別が困難になる。また、大きな嚢胞でも辺縁部では、スライス厚のなかが全て嚢胞でないために、辺縁が不鮮明になる。これをPartial Volume Effectという。

5.造影剤について

 CT検査では、造影剤を用いて臓器や病変の血流状態をしったり、血管と病変の区別、さらに造影剤が腎臓から排泄されるので腎機能、尿路の状態を観察することが可能である。

 造影剤は、血管造影や尿路造影に用いる造影剤と同じヨード造影剤である。因みにMRIで使用する造影剤はガドリニウムであり、ヨード造影剤ではない。

 一般にCTで使用する造影剤は、300mgI〜370mgI/mlの濃度であり、100ml〜150ml使用する。従って、ヨード量は30〜55gになる。入院患者の普通食のヨード量が1.5mg/日であるので、非常に大量のヨードを投与することになる。正常者では甲状腺にヨードが存在するため、甲状腺のCT値は高く、周囲にくらべ明らかなhigh densityを示す。

 日常使用しているイオン性ヨード造影剤には、約4%程度の副作用がある。造影剤の副作用には軽度のじん麻疹から、重症のショックまで様々である。造影剤の使用にあたっては十分な知識と、救急カートの用意が必要である。

 使用絶対禁忌は、造影剤アレルギーの既往のある人である。そのほか原則禁忌として重篤な甲状腺疾患、重篤な心障害、重篤な肝障害、急性膵炎、マクログロブリン血症、多発性骨髄腫、テタニー、褐色細胞腫およびその疑いが添付文書にあげられている。

 造影剤の投与にあたっては、少量の1〜2ml投与後、1〜2分様子を見た後全量を注入するのが原則である。

6.造影剤の投与法について

 点滴静注法、急速に静注するbolus注入法があるが、最近ではインジェクターを用いて1秒間に一定量を投与する方法で行っている。

 検査の目的により造影剤の注入方法と撮影のタイミングが異なる。以下に例を示す。

 肝腫瘍の鑑別、HCCの検索では、単純CTもあわせて4回の撮像を行う。まず単純CTを行った後、造影剤3ml/sec、total 100mlを投与する。造影剤注入開始後30秒後に肝臓の上部から下部までを撮像する。これを肝動脈優位相、あるいは造影早期相と呼ぶ。次に60秒後に撮像する。これを門脈優位相と呼ぶ。最後に4分後に撮像する。これを平衡相あるいは造影後期相と呼ぶ。Hypervascular tumorである原発性肝癌が、造影早期相で濃く濃染することで発見が可能である。転移性肝癌は門脈相でlow densityを示す。

 腎臓の検査のスクリーニング検査では、造影剤1ml/sec total 100mlを使用する。撮像は造影剤投与後5分である。腎実質もよく染まり、尿路にも造影剤が排泄されている。腎臓は早く撮像すると、腎皮質が濃く染まっており腫瘍を見落とす可能性がある。

 その他、目的により造影剤の投与方法、撮影のタイミングを変更する。

 

腹部CTの読影入門

1.はじめに

 撮影方法について

 検査の前には、臨床情報から、何のための検査かの理解する。検査の目的にあわせ検査を行う。単純CTだけでよいか、病変部位だけの撮影だけにするか、など。

 読影にあたっては、まずどのように検査が行われているか、検査の目的にあった適切な検査が行われているかどうか判定する。

 単純、造影CTの区別をする。造影CTはどのような造影剤の投与(スピード、量)がおこなわれ、どのようなタイミングで撮像されているのか理解する。

 スライス厚は適切か?1cmスライスでは1cmのものの発見はむつかしい。膵臓に 1cmより小さな病変が超音波検査でチェックされているのに、1cmスライスでしか撮像されていないのでは、その検査は不適切である。不適切な検査を読影することは読影ミスにつながる。再検の必要がある。

 スカウトビューをみる習慣をつける。イレウスの有無など、腸管ガスの異常はないかをみる。

 CTのスキャン範囲、どこからどこまでが撮像されているか理解する。

2.肝臓

大きさは?
15スライスをこえない。

形はどうか?

→左葉と右葉のバランスはどうか

→慢性肝障害では、右葉の萎縮、左葉の代償性腫大がある

胆嚢の位置

→Cantoli線がおよそ45度の角度であれば右葉の萎縮も、腫大もない。

辺縁の状態

→特に左葉外側区の辺縁を見る。表面の不整があれば肝硬変と診断する。

濃度はどうか

→正常肝では血管がlow densityにみえる。

→正常肝のCT値が50〜70HU、血液、すなわち、肝内門脈、肝静脈は40±5HUなので肝に対して血管が low densityになっている。

→血管が見えない場合には肝臓の脂肪化を第一に考える。

→血管が反対に high densityにみえる時には、肝臓が30HU以下になっている。高度の脂肪肝である。

→ヘモジデローシスでは肝臓のCT値は70HU以上になる。肝臓は全体に白く見える。

→肉眼的な観察で判断が難しいときにはCT値を測定する。

→装置の状態によりCT値が間違っていることもある。肝臓の見え方のほうがCT値より信頼がおける。

腫瘤はないか?

→濃度の差をみる。low densityあるいhigh densityの腫瘤はないか

→腫瘤の濃度をみて胆嚢、あるいは腎嚢胞のような水のdensityではないか。

→CT値が10HU以下ならまず嚢胞である。水と肝臓のCT値の差は40HU以上あるので、境界は明瞭である。しかし、Partial volume effectにより不鮮明なところもある。

→嚢胞以外の腫瘤はlow densityである。Iso densityの腫瘤は発見できない。

腫瘤の存在部位、形、大きさは?

→肝臓のクイノー区域分類を知っておかねばならない。

→腫瘤の造影のされかたはどうか

→造影のされかたは造影剤の投与方法により異なる。

 肝臓の造影検査の場合には造影剤を秒間2〜3ml、全量で100ml注入する。30秒後あたりでは肝動脈がよく見える。これを早期相とよぶ。60秒後あたりでは門脈がよく見え、肝臓も全体によく濃染する。これを門脈相という。3分から5分後にかけて撮影するものを後期相(平衡相)とよぶ。

 ルチンの検査では造影検査は門脈相のみである。これは転移性腫瘍などの発見に適している。また、腹部の血管全体がよく濃染するのでスクリーニングに適している。

 C型肝炎など肝細胞癌のスクリーニングには、早期相による濃染像、後期相のlow densityが大事な所見である。

 腫瘤によりさまざまな造影パターンがあるのでこれにより鑑別診断をおこなう。

 肝血管腫、転移性腫瘍、胆管細胞癌、限局性結節性過形成 (FNH)など。それぞれの特徴については成書を参照のこと。

 

3.胆嚢

大きさは?
→およそ7×3cmである。8cm以上を腫大と考える

形は?

→ふつうは西洋梨の形をしている。くびれがあったり、ときには隔壁を認めることがある。二分胆嚢と呼ぶ。

石灰化の有無、石灰化とは?

→胆石には石灰化のあるものと無いものがある。エコーで結石があってもCTでは見えない(石灰化のないもの)ものは多い。所見を書くときに「胆嚢に結石は認めない」のではなく「胆嚢に石灰化は認めない」と記載すること。

→石灰化とはおよそ160HU以上のものを言う。胆嚢の内容である胆汁よりdensityが高いとhigh densityにみえるが、全てが石灰化ではないことに注意する。

壁肥厚の有無

→単純CTでは胆嚢壁の輪郭は不鮮明である。造影CTにより明瞭に見える。3mm以上を肥厚とよぶ。

→low densityでの肥厚、層構造をもった肥厚、層構造のない肥厚など様々である。

→限局性の壁肥厚があるときには腫瘍との鑑別が問題となる。

→壁の肥厚を来す疾患には急性、慢性胆嚢炎、胆嚢癌、胆嚢腺筋症などがある。

胆嚢癌の診断

→胆嚢癌が疑われる場合には造影早期相で腫瘤の染まりの有無を見、門脈相で肝臓の胆嚢床浸潤、肝転移の有無を観察する。後期相では腫瘤の染まりによる腫瘤の大きさを観察する。

急性胆嚢炎などでは胆嚢周囲の脂肪織への炎症の波及による脂肪濃度の上昇を認める。

 

4.胆管

拡張の有無
→肝内胆管が単純CTでわかるか。門脈と併走している。門脈のCT値は40HU前後であり、胆管は10HU前後である。従って門脈と胆管には濃淡の差がある。その差が見えなければ胆管拡張はない。

→造影CTでは胆管は造影されない。従って、造影CTで肝内に樹枝状のlow densityがみえれば肝内胆管の拡張である。

→肝外胆管、総胆管の正常値はおよそ10mm以下である。胆嚢手術後では10mmをこえることはよくある。

→拡張がある場合には、どこで閉塞しているか、何故閉塞しているか原因を考えなければならない。

石灰化の有無

→胆嚢結石と同じであるが、石灰化、胆管内の high densityの有無をみる。

胆管腫瘍、乳頭部癌あるいは膵頭部癌による閉塞性黄疸

→腫瘍が大きくないため、すくなくとも5mmスライス厚で撮影しなければならない。

 

5.脾臓

大きさは?
→脾臓の大きさの正常値として長径10cmをつかう。10スライスをこえない。

→脾腫の程度として10-11cm軽度、11-15cm中等度、15cm以上高度脾腫という

形に変形はないか?

→辺縁は平滑であるが、ときにくびれを認めることもある。脾梗塞のあとを疑う。

→脾臓の周囲に小さな結節様構造を認めることがある。副脾である。

濃度、CT値は正常か?

→肝臓のようにCT値が変化する疾患はない。約45-50HUと安定している。

腫瘤はないか

→脾の腫瘤性病変には悪性リンパ腫、転移性腫瘍、血管腫、リンパ管腫などがある。

→造影CTにより性状診断を行う。

 

6.膵臓

大きさは?
→膵頭部の厚さ3cm以下、膵頭部、尾部は2。5cm以下

→若い人は厚い。

形は?

→膵頭部から尾部までバランスのいい形をしているか?

→膵炎のあとなどで膵頭部だけが大きく、体部、尾部の萎縮を示すもの、あるいは尾部だけが大きいものなどがある。腫瘍との鑑別が問題になる。

濃度は?

→加齢とともに実質に脂肪変性が出現し敷石状にみえる。

→敷石状に見える部分が正常であり密になっている部分は腫瘍の可能性もある。

膵管がみえるか?正常値は?

→膵管の正常値は3mm以下である。

腫瘤の有無

→腫瘤の有無は限局性の腫大、辺縁の突出、low density腫瘤などを観察する。

→嚢胞は内部が水の濃度で辺縁が明瞭である。

→実質性の腫瘤では造影CTにより性状診断をおこなう。

膵の造影CTについて

→膵癌は門脈相や後期相では正常部分と同じように染まるので診断できない。そのため必ず早期相が必要である。早期相で膵癌は正常組織に比しlow densityを示す。

膵癌では尾側膵管の拡張、胆道の拡張など二次的な所見を伴うことが多い

 

7.腎臓 

大きさは?
→10〜12スライスである。厚さは4〜6cm

→正常では椎体断面より大きい。椎体より小さいものは慢性腎不全である

形は?

→慢性腎盂腎炎あるいは梗塞のあとなど辺縁にくびれを認めることがある。

→石灰化はないか?

→腎結石はほとんどが陽性結石である。腎実質の石灰化は腎石灰化である。腎盂腎杯、尿路など管腔内に存在するものが結石である。

尿路の拡張はないか?

→腎盂腎杯が尿で拡張した場合には、拡張した水の濃度の腎盂腎杯が認められるので単純CTでも容易に診断が可能である。

→ただ、Peripelvic cystといった腎盂周囲のリンパ液の入った嚢胞、あるいはParapelvic cystなどの嚢胞が水腎症の様に見えるときがある。鑑別には造影CTが必要である。

→水腎症を認めた場合には閉塞部位の診断、閉塞原因の診断を行わなければならない。閉塞部位に石灰化があれば結石である。なければ腫瘍、瘢痕狭窄あるいは血管などによる圧迫を考える

腎嚢胞はないか?

→加齢とともに腎嚢胞が出現する。50才以上では2人に1人に嚢胞を認める。したがって病的意義は乏しい。

→嚢胞か腎癌かの区別は重要である。

→嚢胞は内容が水なのでCT値がほぼ0HUである。境界明瞭で丸い。

→Complicated cystと呼ばれる内部に出血あるいは感染を来して濃度の高い嚢胞がある。単純CTでは腫瘍との区別がつかない。このような症例は造影CTあるいはUSが必要である。造影CTでCT値の上昇がない、USで内部がエコーフリーである。

腎腫瘍の診断

→単純CTでlow densityときに淡いhigh densityを示す。まれだが単純CTでiso densityすなわち、見えない腫瘤もある。

→正常の腎臓は造影剤が排泄されるので非常によく染まる。従って、造影後期相が病変の存在診断にもっともよい。

→腎細胞癌はhypervascular tumorなので、造影早期相で濃染像を認めれば腎細胞癌の診断が可能である。

→もっとも多い良性腫瘍に腎血管筋脂肪腫がある。腫瘍の内部に脂肪濃度を認めることにより診断可能である。

 

8.副腎

右左の副腎の腫大、腫瘤はないか?
→両側の腫大は過形成、転移性腫瘍あるいは悪性リンパ腫があげられる。

→嚢胞を思わせる濃度の腫瘍は、脂質を含んだ腫瘍、すなわち腺腫の可能性がある

副腎腫瘤の造影CT

→褐色細胞腫はhypervascular tumorであるので造影早期相を撮像することで診断が可能になる。

 

9.後腹膜

大動脈周囲リンパ節腫大はないか?
→大動脈周囲の血管以外の結節状構造物をリンパ節と考える。

→1cm以上を腫大とする。

→血管は上下連続した構造物であることで区別する。あるいは造影CTにより血管は濃染するのでわかる。

→大動脈周囲だけでなく、横隔膜脚後部リンパ節 ( Reterocrural LN )、下大静脈と大動脈との間、膵周囲リンパ節の腫大の有無も観察する。

大動脈瘤はないか?

→腹部大動脈瘤は直径5cm以上が手術の適応となる。

 

10.骨盤

男性骨盤 
腫瘤の有無

→男性骨盤の内容は腸管、膀胱、前立腺、精嚢腺である。

→腸管壁、膀胱壁の肥厚の有無、リンパ節腫大の有無を見る

前立腺の石灰化は生理的なものである

前立腺の横径5cm以上を腫大とする

女性骨盤 

→子宮、卵巣腫瘤の有無

→女性骨盤の内容はは腸管、膀胱、子宮、卵巣である

→閉経前の女性でダグラス窩に見られる少量の腹水は生理的なものである。

→大きさが5cmまでの卵巣嚢腫は卵胞の可能性がある。

 

11.その他

消化管の異常
胃壁の肥厚
→小腸の径は2。5cm以上が拡張

大腸の憩室の有無

→腸管に炎症があると、腸管壁の肥厚と周囲の脂肪濃度の上昇を認める(dirty fat signという)

肺底部の異常

→肺底部の腫瘤、炎症、線維化、胸水を認める

骨・腹壁の軟部組織

→骨の破壊については骨条件での観察が必要

→脊椎カリエスでは椎体の周囲の軟部の腫脹を認めることがある。

→軟部組織の腫瘍、臍部の膿瘍、腹直筋血腫などを認めることがある。

 

胸部CT読影入門

1.はじめに

胸部CTでは必ず単純写真があるので、まず単純写真をみる
→単純写真での読影をまず考える。何が問題になったのか。どんな所見なのか。単純写真でどこまで診断できるか。あるいはほかに何か所見があるかないか観察する。

→何のためのCTか考える。CTを行うメリットはなにか考える。

→CTを見たあと、ふりかえって単純写真を見ると単純写真で疑問だった答えがでてくるはずである。単純写真でこの所見はなんだろうかと、疑問を多くもつこと。そしてCTをみて単純写真の答えをさがす習慣をつける。

→単純写真だけでCTをしなくても答えがでるものが多くある。たとえば、肺野の結節。明らかな石灰化はCTをとらなくても石灰化とわかるようにならなければならない。単純写真で石灰化の濃さが判定できるようにならなければならない。

単純写真とCTの撮影体位は違う

→単純写真は立位でとられているが、CTは背臥位で撮像されている。病変の位置が変わっている可能性がある。位置がおかしいと思った時はスカウトビューで確認すること。

撮像方法は適切か?

→普通は1cm間隔で撮像されるが、1cmの病変がより薄いスライスで撮像されなければならない。さらに、高分解能CTで撮像されねばならない。

高分解能CTとは?

→撮像するのは胸部全体を撮像するが、そのデータを狭い範囲に絞り計算し画像を再構成する。当院のシングルヘリカルCTでは薄いスライスのため再度撮像しなければならないが、最近のマルチスライスCTではスライス厚も後から計算し薄く再構成する事ができる。分解能を0.5mm程度にあげる。

→高分解能CTの原理、定義、メリット等については成書をよみ理解すること。

造影CTの適応は?

→肺門部の血管とリンパ節、腫瘤との鑑別、縦隔腫瘍の鑑別、大血管病変などである。

→肺のび漫性疾患では造影CTは無駄である。

2.肺野表示画像

1)肺

濃度は
→肺野の見え方はどうか。1cmスライスでは血管影は胸膜から1cm離れたあたりまで見える。

→胸膜まで血管影が見えるのは血流増加、あるいは間質陰影増加などの異常である。

→肺気腫なら黒く、過敏性肺臓炎のようなすりガラス陰影があれば全体に濃度上昇がある。

→それぞれの施設でWindow 、 Levelが異なるので肺野の見え方は異なる。当院では基本的には Window Width 1700/ Window Level -750に固定している。各症例で変えると、肺野の濃度が正常か異常かわからなくなる。

→濃度上昇をみたとき、内部に血管影が透けて見える様な陰影(OpacityといいDensityとはいわない)をすりガラス陰影(Ground glass opacity、 GGO )と呼ぶ。さらに見え方により淡いGGOとか濃いGGOということがある。

→血管陰影が見えない濃い陰影は、単に濃い陰影とよんでもいいし、consolidationとよんでもよい。

→反対に濃度低下の疾患がある。境界明瞭な嚢胞性変化はブラと呼ぶ。気胸もある。肺気腫は微細なものは高分解能CTでないとわからないことがある。低吸収域:Low attenuation area (LAA)の大きさで軽度、中等度、高度と分類する。

結節、腫瘤の有無

→境界が比較的明瞭な濃い陰影を結節、あるいは腫瘤と呼ぶ。

→大きさの計測

→形はどうか。丸い?不整形?

→辺縁のみえかた。けば立ち、スピクラの有無

→濃度はどうか。石灰化、空洞の有無は

→病変の部位は

→上葉、中葉、下葉の鑑別

→区域診断

→気管支の見え方はどうか。

→正常者では気管支の壁はほとんどみえない。気管支の壁が見えることは肥厚を意味していると考える。

→び漫性陰影では病変の分布をみる

→小葉構造の理解が必要である

→小葉中心性、小葉辺縁分布など

2)気管、気管支

→変形、拡張があることがある。Tracheobronchomalaciaなど

腫瘤の有無

→腫瘍の有無。まれに分泌物、痰が腫瘤様に見えることがある。

気胸、皮下気腫、縦隔気腫の有無。胸壁皮膚の結節など。

3.縦隔表示画像

1)頚部下部

甲状腺、鎖骨上窩など
→甲状腺は本来ヨードを含んでいるので、high densityを呈する。横径は2cm以下である。

→腫大の有無、濃度、腫瘤の有無をみる。甲状腺の検査はエコーが一番よい。

→鎖骨上窩リンパ節腫大は1cm程度ではみえない。触診で触れるといわれても見えないことが多い。診断にはエコーが最もよい。

2)縦隔リンパ節

肺癌取扱規約による縦隔リンパ節の部位。

番号と存在部位を理解しておかねばならない。

リンパ節は径が1cm以上を陽性とする。多くの文献では短径が採用されている。

肺門リンパ節については腫大していないことはわかるが、肺門が大きく見えるときには血管との区別が造影CTでないと不正確である。

3)大動脈・心臓

大動脈
→単純CTでは拡張の有無、石灰化の有無、程度ぐらいしかわからない。

→正常は上行大動脈5cm、大動脈弓4cm、下行大動脈3cm以下である。

→大動脈解離が疑われるときには、単純および造影CTが必要である。血栓閉鎖型大動脈解離の診断に単純CTが必要である。

心臓

→心嚢液貯留。背臥位のため心臓の前側にたまる。

→心房、心室の大きさの把握ができる

→冠動脈の石灰化を観察する。

4)胸膜

胸水、胸膜肥厚、胸膜の石灰化

胸水は水の濃度を示す。

十分吸気していないとき、下葉の背側の膨らみが悪く胸水あるいは胸膜肥厚の様にみえることがある

5)骨、軟部

肋骨、脊椎
→骨折や骨破壊については骨条件での観察が必要になる。異常を疑った場合にはCTモニターでチェックする

→脊椎カリエスは椎体周囲の軟部の肥厚を認める

→勿論単純写真の正面、側面像で骨病変の有無をチェックする

乳腺、腹壁の軟部

乳腺腫瘤の有無

6)上腹部

撮像されている上腹部、肝臓、胆嚢、脾臓、膵臓、副腎など観察する。

 

頭部CTの読影入門

1.はじめに

撮影方法について

 通常は後頭蓋窩は骨に囲まれているためスライス厚を5mmで撮像している。それより上は1cmで撮像している。

 検査の目的を理解する。頭部外傷、脳卒中、スクリーニングなのか。

 スカウトビューがあるほうがいいが、ないこともある。外眼裂ム外耳孔線(O-M line: Orbitomeatal line)を基準に撮像されている。側脳室の左右対称性を観察し、斜めに撮影されていないかチェックする。

 フィルムはおおよそWindow width 100~80 Window level 30~40でプリントされている。これは脳実質の観察にはよいが、頭蓋骨に接した病変や、骨病変の観察には不適である。このような病変を疑う場合には、モニター上でWW、 WLを変化させながら病変をさがさなければならない。

 造影CTは、動脈瘤などでCT-angio、三次元再構成をつくるときには造影剤をBolus注入する。一般的に脳腫瘍などのチェックでは造影剤はゆっくり注入するほうが造影効果がよい。造影により血管内と血液脳関門(BBB)の破壊された病変が濃染する。

 転移性脳腫瘍の検査には造影CTが必須である。単純CTだけでは見逃されることが多い。診断能は造影MRIより劣ることは知っておかねばならない。

2.軟部、頭蓋骨、顔面骨、側頭骨、眼窩、トルコ鞍

軟部
→外傷では、皮下血腫、気腫などに注意する。

頭蓋骨

→Craniotomy、 Craniectomy、 Burrholeなど手術のあとに注意する。

→骨折や転移性骨腫瘍では、モニター上でのWW、WLを変えての観察が必要である。

副鼻腔、鼻腔

→副鼻腔、鼻腔に軟部影があればまず炎症性変化。

→Air-fluid levelがあれば急性炎症所見、あるいは外傷による出血を考える

→膨張性の軟部陰影はMucocele(粘液貯溜腫)、骨が破壊されていれば悪性腫瘍(上顎癌など)を考える。

側頭骨

→両側の乳突蜂巣に含気があるのが正常。なければ乳突蜂巣炎(慢性中耳炎)。

→Air-fluid levelがあれが急性炎症(急性中耳炎)、外傷では出血をあらわしている。

→内耳道、中耳の構造についてはルチンの頭部CTでの観察は難しい。

→耳の高分解能CTが必要である。

眼窩

→Basedow病での外眼筋の腫大、眼窩腫瘍などもあるがMRIが有用である。

トルコ鞍

→大きな下垂体腫瘍の有無などのチェックが必要である。

3.脳室

大きさ
→側脳室の大きさは、前角横径がその部分での脳横径の1/3を越えないという指標があるがあまり使われない。

→年齢等を加味して、全体のバランスで拡張の有無を言っている。

→拡張を疑うとき、脳萎縮によるものなのか、水頭症なのか考える。

→非交通性の水頭症では第4脳室の拡張の有無により、第4脳室の上、あるいは下での閉塞を疑う。

→交通性の水頭症(NPH)と脳萎縮との鑑別は困難であるが、脳萎縮に比べ脳溝の萎縮が目立たないことが少し鑑別のポイントになる。臨床症状(進行性痴呆、歩行障害、尿失禁)が重要である。

→脳室は正常では左右対称である。

→片方が拡張している場合には、同側の大脳に萎縮を来す病変があるのか、あるいは反対側に占拠性病変(腫瘍、硬膜下血腫)がないか観察しなければならない。

→部分的な変形についても同様であるが、生理的範囲内での左右非対称の可能性もある。

その他

→正常変異として透明中隔腔、ベルガ腔がある

→透明中隔腔があるものはプロボクサーになれない。

→脳梁欠損症などでも側脳室の変形を認める

4.脳表面

解剖
→脳溝と脳回の理解。中心溝より前側が前頭葉、後が頭頂葉である。後頭葉は頭頂後頭溝で境されるが、CTでは区別が難しい。側頭葉はシルビウス裂で境界される。病変の存在部位を記載するときに脳葉をもちいる。

→脳表面は、頭蓋骨の内面から硬膜(Dura) 、硬膜下腔(Subdural space)、くも膜(Arachnoid)、くも膜下腔(Subarachnoidal space、 CSF space)、軟膜(Pia mata)が存在する。

脳溝の拡大

→脳萎縮では脳溝が開大する。

→脳表にwater densityの液体貯溜があるが、脳溝が拡大していない場合には、硬膜下の液体貯溜(subdural effusion)を疑う。

出血

→硬膜下血腫は新しいものはhigh densityを、時間が経過するとwater densityになる。さらに陳旧化すると石灰化をきたすものもある。典型例では硬膜下血腫はボウスイ型を、硬膜外血腫は三日月型を示す。

→小さな硬膜外血腫(epidural hematoma)では、出血が頭蓋骨に接していて普通のCTのWW/WLでは観察しにくいことがあるので注意が必要である。

→くも膜下出血では脳表がhigh densityを示す。少し時間が経ったもの、あるいはごく少量の出血では脳実質とiso densityとなることがある。左右の脳溝、シルビウス列をよく比較し、左右差の有無でしか判定できないことがある。

脳槽(くも膜下腔)

→前橋槽、小脳橋角槽、鞍上槽、迂回槽、脚間槽などは覚えておくこと。

その他

→大槽(Cisterna magna)の大きさには個人差が大きい。とくに大きく目立つものをMegacisterna magnaという。

→中頭蓋窩先端にくも膜嚢胞が見られることがある。

5.脳実質

解剖
→灰白質は皮質表面と大脳基底核であり、Densityが白質に比べ高い。白質はCT値はおよそ35HU、灰白質は40HUである。

低吸収域病変

→腫瘍や血管障害は経過と共に浮腫、壊死、嚢胞化により低吸収域を示す。そのほか多発性硬化症や膿瘍でも低吸収域になる。

(脳梗塞)

→脳梗塞巣がCT上低濃度として見えるのは早くとも発症後6時間である。

→早期に梗塞部位を発見するにはMRIのdiffusion dmageが有用である。最近では造影剤を用いてのCT、 MRIのperfusioniImageという手法があるが当院ではできない。

→CTで梗塞を疑う場合には経過でのCT検査が必要である。

→梗塞部位が、再潅流されると出血がおこる。出血性梗塞という。

→大きな梗塞は血管の支配領域に一致するので血管の支配領域を理解しておかねばならない。

→非常に早期で脳実質に低吸収域が見えないときでも、血管内の血栓により血管が高吸収域に見えることがある。ただ、動脈硬化のある血管では正常でも高吸収域として見えることがあるので注意が必要である。

→多発性脳梗塞では、放線冠、半卵円中心など深部白質領域が不均一な低吸収域を示す。

→側脳室の前角、後角、三角部に沿って低吸収域を認めることがある。Periventricular low density (PVL) 脳室壁を通してCSFが脳白質内に漏出するためと言われている。

高吸収域病変

(脳内血腫)

→脳出血の原因はほとんどが動脈瘤によるものであり、大脳基底核あたりに血腫をきたす。

→大脳基底核ではない部位の血腫では血管奇形や腫瘍を疑い、血管造影が必要である。

→新鮮血腫が高濃度に見えるのは、出血後に血清成分が吸収され濃縮されたヘムタンパクのためといわれている。

(石灰化)

→生理的石灰化を認める部位として松果体、脈絡叢、大脳基底核、小脳歯状核がある。

→異常石灰化をきたすもとして、腫瘍、陳旧性硬膜下血腫、結節性硬化症、Sturge-Weber症候群、動脈瘤、子宮内感染後などがある。 

6.造影CT

造影CTの必要な場合
→脳転移の検索、脳腫瘍の診断で造影CTが行われるが、本来はこのような症例はMRIが選択されるべきである。

→BBBの破壊により腫瘍が濃染する。髄膜炎、悪性腫瘍の髄膜播種では髄膜が濃染する。

→動脈瘤の形状、部位診断のため三次元CTが行われている。動脈瘤の向き、頚部の形状など、手術に役立つ情報を得るために行われている。