Q:突然メールを差し上げる失礼をお許しください。
5月上旬に父が、シャックリがとまらず検査を受けたところ、肝臓に直径1cm程の癌がみつかりました。5月下旬に太腿からカテーテルを通し、抗がん剤を動脈に流す処置をしました。
1週間後にレントゲンをとってみたところ、薬剤は肝心な癌には届かず、全然違う方に溜まっていたようです。主治医からは「時々こういう事が起きるんです。」という説明をうけただけでした。とりあえず、父は癌が消えないまま退院しました。
最初の処置日より1ヶ月後にもう一度レントゲンをとってみて、癌が消えてなかったらもう一度同じ処置をするというのです。最初の失敗(?)の原因がわからないのに、再度同じ処置をするということに大変不安を感じています。インターネットで調べてみますと、TAEという治療法もあることを知り、何故カテ-テルを通して抗がん剤を投与したのに、TAEをしなかったのかと疑問に感じたりしています。
同じ医者にかかって良いものか、病院を変えたほうが良いのではないか、再度同じ処置をわずか1ヶ月後にやったら返って肝機能に悪影響をおよぼしてしまうのではないかと、あれこれ悩んでしまいます。
大変厚かましいお願いではありますが、お返事いただけたら嬉しく存じます。
よろしくお願い致します。
A:ご心配のことと思います。
C型、あるいはB型肝炎を患っていらっしゃる場合、「肝細胞癌」という、肝臓の細胞そのものから発生する癌ができてくることがあります。この診断を受けた場合には、治療法として、
1.手術
2.動脈塞栓術(TAE):太股の血管からカテーテルという細い管を肝臓の腫瘍の所まで通し、抗癌剤を投与した後、ゼラチンスポンジで動脈を詰める、すはなち塞栓する方法
3.経皮的アルコール注入療法:体表から肝臓を通して腫瘍に超音波をみながら直接針を刺して、腫瘍にアルコール(当院では酢酸を使用していますが)を注入して固める方法。
4.経皮的マイクロ波凝固療法、経皮的ラジオ波焼却療法:超音波を見ながら針を直接腫瘍に刺し、マイクロ波あるいはラジオ波を照射して腫瘍を焼く方法。
が代表的なものとしてあげられます。その他、肝機能がきわめて悪い場合には、
5.肝臓の動脈から直接抗癌剤を投与する動注化学療法
6.全身に抗癌剤を投与する方法
などがあります。
お父様はC型肝炎、B型肝炎、あるいはアルコール性肝炎など、肝臓に疾患があるのでしょうか?肝炎で経過を見ている方に腫瘍が出てきたら肝細胞癌を一応は疑わなければなりません。1cmの大きさでは、癌と診断するのは結構難しいことがあります。
3cm以下のものは、通常手術以外の治療法が取られることが多く、当院では3.の経皮的酢酸注入療法か、2.の動脈塞栓術をまず行います。
今回のような失敗は、腫瘍への血管があまり多くない場合にはあり得ます。しかし、腫瘍への血管が多くないと言うことは、動脈塞栓術を行っても効果が低いと考えなければなりません。1cmとであれば、腫瘍への血管も乏しかったと思います。腫瘍への血管をみつけるのが困難な場合もあります。しかし、このような失敗は「時々」はおこりません。当院であったら入院中に経皮的酢酸注入をすぐに追加します。TAEでも、肝機能がきわめて悪い場合や、腫瘍が肝臓全体に広がっている場合には、TAEは行わないこともあります。1cmの癌ではあまりTAEの効果は得られにくいと思います。やはり経皮的アルコール、酢酸注入療法、あるいは経皮的マイクロ波凝固療法、経皮的ラジオ波焼却療法がよいと思います。
以上の話を基礎知識として、主治医ともう一度お話ししてみてください。