肝外胆管癌

Q:はじめまして。早速ですが、相談にお答えいただければ幸いです。

 私の父が「肝外胆管癌」と診断されました。主治医によりますと、門脈まで浸潤しており、手術不能とのことです。しかし、先生の論文を拝見したところ、門脈合併切除等の手段があり、積極的に切除を行うべきとのことです。父の入院している病院の規模が小さいが故に、上記手段をとることができないのでしょうか(父の年齢;60歳、持病;ぜんそく)。 

 先生の論文中の「胆道内瘻術」とは、どのようなことですか。

 ご多忙のところ、恐縮ではございますが、返事をいただければ幸いです。


A: E-mail拝見しました。

 胆管癌の広がりや転移の有無、血液検査データ、お父様の全身状態など詳しい情報がわかりませんので、いちがいに意見は申し上げられませんが、当院での実状を少しだけお話しします。

 私どもでは、外科・放射線科・消化器科・内科が集まって、週に1回(木曜日)に肝胆膵疾患のカンファレンスを持ち、その席で治療方針についてのディスカッションが行われます(この模様はホームページにも掲載してあります)。

 さて、肝外胆管癌では、高齢者とか、手術のリスクが高い方では、放射線治療・抗ガン剤の動脈内注入療法、そして胆道内瘻術(胆管の狭くなっているところを広げる「ステント」という金属のつっかい棒を入れる手技です)を行います。しかし、大部分の方は、たとへ門脈に浸潤があっても癌部と一緒に切除し、門脈をもう一度くっつけなおします(「門脈再建術」といいます)。現時点では手術ができた患者さんの方が、手術をせずに治療した患者さんよりも予後が改善する結果が得られています。喘息があっても、麻酔科がしっかりしていれば、特に問題はないと思います。

 門脈合併切除の経験が少ない施設では、門脈浸潤が見られたら手術不能とされるのは仕方のないことと思います。もし、全身的に見て手術できそうな体力が残っておられるようでしたら、是非主治医の先生と腹を割ってお話しし、門脈合併切除などの手術が可能な施設を紹介してもらってみて下さい。その手術ができる技術を持つ先生がやはり手術は困難と判断されたら、次は我々のような非手術的治療法を持つ人間の出番となります。

 胆管の病気を専門にする人間は、いろいろ治療法を持っていますので、外科だけがずば抜けた施設ではなく、その他に手術をしなかった患者さんをサポートする人間が横のつながりでチームを組んでいる施設で治療を受けることをお勧めします。

 ちかくにどんな施設があるのかがわかりませんが、もう一度主治医の先生と、お父様とざっくばらんにお話ししてみて下さい。お父様が納得のいく治療を受けられることをお祈り申し上げます。


Q:大変お忙しい中、返信していただき、ありがとうございます。

  先日、父が「胆管癌」で手術不能と診断された者です。その後の主治医から受けた内容をご説明させていただきます。

 手術不能と判断した理由は、

@腹動脈の一部を切除する必要有り

A門脈にかなり浸潤しており、門脈合併切除をしても再生不能(写真で見ますと、太い血管が途中で細く途切れているようでした。)

 今後の治療予定としては、

@Expandable metallic stent(EMS)の装着を試み(1月29日予定)、無理であればバイパス、あるいは現在行っているドレナージのままとする。

A放射線治療、抗ガン剤投与、温熱療法は行わない。

理由;癌がかなり進行(胆管および門脈に異常有り、膵臓には異常なし。余命数ヶ月)しており、治療を行っても効果がない。副作用を考慮すると、放射線治療等は行わないのがよい。早期に自宅療養とするのがよい。

 上記のように、説明を受けました。一概には先生もご判断できないと思いますが、手術は可能でしょうか。現在ビリルビン値は3.2mg/dl(正常値0.2-1.1mg/dl)、ドレナージを装着して歩行し、会話もできますが痛みがひどく筋肉注射を行っています。体重は67kgから54kg(身長175cm)に減少しています。

 末期癌の場合に、放射線治療、抗ガン剤の投与等を行わないことが、実際に医療の現場では一般的なのでしょうか。なお、母の意向もあり、父には告知しておりません(主治医も同様の判断)。

 ご多忙のところ、恐縮ですが、ご返信いただければ幸いです。


A:E-mailのデータからのみ判断させていただきますが、

@門脈の合併切除は、当院では7cmまでの切除では再建可能です。門脈の切除が肝臓の外でできるようであれば、大部分の症例では再建できますし、人工血管を間に介在させて再建することもできます。膵臓への浸潤がないようですが、基本的にはリンパ節転移も切除する意味からも「膵頭十二指腸切除」を同時に行います。

A「腹動脈」がどこを指しているのかはっきりわかりませんが、「腹腔動脈」という動脈に浸潤していても、結構動脈は残して切除できる場合があります。その後の治療は当然必要になってきますが。

Bビリルビンは5mg/dl以下であれば、肝臓切除を伴わない場合は切除可能と思います。ビリルビンの下がり方(ドレナージ前のビリルビン値がどれだけの期間で、どれだけ低下したか)も問題になります。

C.肝外胆管周囲の進展範囲が広いときには、組織学的には取り残しがでる可能性がありますが、術後化学療法・放射線療法を追加する事もあります。

D当院では局所的な切除不能の最大の原因は、腹膜転移(腹水があるとたいていの場合腹膜転移があると考えます)・高度の肝臓内胆管への浸潤としています。したがって、膵臓に病変が及んでない程度の門脈浸潤では、手術不能と判断されることは案外少ないようです。

E手術不能の場合には、expandable metallic stentを留置して、入っているドレナージチューブを抜いてあげるようにしますが、残念ながら1年生存率ほぼ0%と考えて下さい。それを少しでも延ばすために、「メタリックステント研究会」や「リザーバー研究会」が中心になって併用療法(放射線療法・動脈内抗ガン剤注入療法・全身化学療法など)の検討を行っています。

 まだお若くて元気であれば(歩けるようであれば)、決して積極的治療の効果がないとはいえません。

F痛みを訴えておられるようですが、骨に転移は無いでしょうか?なければドレナージチューブによる痛み、腫瘍が背中の神経(腹腔神経叢・上腸間膜動脈神経叢といいます)に浸潤していてもおこります。骨転移によるもの以外でしたら手術をすることによって改善します。骨転移でも放射線療法で痛みは取れますし、腹腔神経ブロックという方法もあります。

 以上、簡単ですが現在のデータからのみ判断させていただきました。実際に患者さんや検査データ、画像を見ずにしゃべっていますので、実状と著しくかけはなれていることは頭に置いておいて下さい。

 追加質問の方ですが、末期(あまり私どもでは末期と言う言葉は使いませんが)の患者さんでも、積極的「緩和療法」という方法を行います。つまり症状をとるための抗ガン剤、放射線治療、非手術的治療(我々の分野ではインターベンショナル・ラジオロジーと言います。適当な日本語訳がありません。)が行われます。決して何もしないと言うわけではありません。

 納得のいける治療が行われますようお祈り申し上げます。