肝臓癌


Q:突然のメール、申し訳ありません。血管造影について調べていたところ先生のHPを拝見させていただきました。

 先日、わたくしの母が肝癌の診断をうけ、明日にでも血管造影の検査を実施するむね病院から伝えられました。母の場合、肝癌だということははっきりしています。しかし、治療方法を手術(肝臓切除)にするかどうか決めかねている状態です。この状態で血管造影をする必要があるのかどうか疑問に思っています。

 血管造影自体今はあまり行われていない、というような記事も文献で見ました。血管造影の検査自体副作用など危険を伴うものだと認識しています。

 もしよろしければご意見をお聞かせください。


A:大変ご心配のことと思います。

 肝癌ということですが、肝癌には大きく分けて2種類あり、おそらく肝細胞から発生した「肝細胞癌」と思います。C型・B型肝炎の多い日本に特徴的な(欧米人はアジアの風土病と言いますが)疾患です。従って、日本での治療法が世界最高のものと考えます。

 肝細胞癌(肝癌とは言わずにこの言い方をします)は、肝臓そのものが肝炎により肝細胞癌ができやすい土壌にあるという事を念頭において、治療法を選択していく必要があります。いろんな施設によって治療方針が違っているのは当然ですが、その施設には肝臓を扱っている外科医が居るのか、我々のように手術以外の方法で肝細胞癌を治療できる放射線科医(インターベンショナル・ラジオロジストと言いますが)が居るのかによっても大きく違ってきます。

 治療法の選択ですが、かいつまんで言いますと、大きさ・形状・個数・場所・血管との関係・肝機能などによってずいぶん違ってきます。3cm・3個以下でしたら、当院ではまず動脈塞栓術・アルコール注入療法(詳しくはホームページをご覧になって下さい)を第一に選択します。それ以上に大きくなると、これも超音波・CT・肝機能などを総合的に判断し、手術・動脈塞栓術・アルコール注入療法を選択し、かつ組み合わせて治療していきます。

 いずれにしても、血管造影は必須の検査です。当院でも肝機能が悪く(おっしゃるように肝機能が極端に悪い場合には、血管造影のみで命に関わるような合併症をひきおこすこともあります)、明らかにアルコール注入療法でコントロールできるような場合には、血管造影をしないこともあります。しかし、手術を前提とする場合には、肝臓のはしっこにあって簡単に切除できる様なものでない限り、かならず必要な検査です。当院では、手術が予定されていても血管造影時に動脈塞栓術で治療可能であれば、その場で外科と協議して治療法の変更を行います。

 このように、きろんなケースによって治療法の選択が異なりますので、お母さまの場合にはどうしたらよいのか意見を述べることは出来ませんが、主治医の先生がきちんと検査の内容・治療法・合併症などについて話をして下さり、いろんな質問にきちんと答えて下さる方であれば、よく話し合いながら今後のことも含め決めて行かれたらよいと思います。

 告知がなされている患者さんや、なされていない場合にはご家族の方におすすめする本をあげておきます。著者は私の高校の先輩です。

「肝臓がんと肝硬変ー大丈夫あきらめてはいけませんー」

島村善行 主婦の友社 1553円

 治療が成功されますことを心からお祈り申し上げます。