高知医療センター放射線療法科
森田荘二郎
I.放射線の種類と性質
1.放射線の種類
放射線と放射能とは一般に混同されていることがある。放射線と放射能の関係を電灯と光線の関係で例えると、放射線は電灯から出る光線に相当し、放射能は電灯が持っている光線を出す能力、あるいは性質と言える。つまり、放射能は放射線を出す能力を持つ性質と言うことになる。
(放射線とは)
放射線には電離放射線と非電離放射線とがあり、一般的に電離放射線のことを『放射線』と呼ぶ。
「非電離放射線」とは、物質を電離する能力を持たない放射線のことで、電波や可視光などが属する。
「電離放射線」とは、電離能力を持つ放射線(何らかのエネルギーを空間に伝達するもの)のことで、その本態は波長の短い電磁波と粒子線(荷電粒子線、非荷電粒子線)に分類される。電磁波にはX線、γ線が、荷電粒子線には電子線、β線、α線、陽子線、重粒子線が、非荷電粒子線には中性子線が属する。
電離とは、放射線が物質内へ入射したとき、物質を構成している原子の軌道電子と衝突して、電子を軌道外へ追い出す現象
(X線とは)
放射線診断で用いるX線は、電子を加速させて作る。電圧をかけて加速した電子をタングステンなどに衝突させると、減速する際に失われるエネルギーのごく一部がX線になる(大半は熱エネルギーとなる)。紫外線よりも短い波長を持ち透過力が強い。X線には、特性X線と連続X線があり、特性X線は、電子が励起されたり、原子からはじき出された状態から安定な状態に戻る際に、そのエネルギーを電磁波として放出したものである。また、連続X線は、高速に加速した電子が原子により急速に失速した際、電子が失ったエネルギーを電磁波として放出したものであり、連側的なエネルギーを持つ(制動X線とも呼ばれる)。
(ガンマ線とは)
γ線は発生源が異なるだけで、X線と同じものである。その発生は、励起状態にある原子核がより安定な状態に移行するとき、また粒子が消滅するときに電磁波の形で放出する。このγ線は、核種に固有な一定のエネルギーを持つ。
(電子線とは)
適当な方法でイオン化(電離)させた電子を電場により加速させて外界に飛び出させた電子の束。陰極線も電子の一つ。
(β線)
原子核がエネルギー的に不安定な核種は、自発的に放射線を出して、より安定な核種になろうとする。このような現象を放射性壊変という。
β線とは、放射性壊変の一種である、β壊変により放出された電子のことをいう。陽電子を放出するβ壊変をβ+壊変といい、陰電子を放出するβ壊変をβ-壊変という。普通β線という場合はβ-を示す。尚、γ線の内部転換または光電効果による二次元電子線、人工的につくられた高エネルギー電子線などもβ線に含める事もある。
(α線)
放射性壊変の一種であるα壊変により放出されたヘリウムの原子核がα線の正体である。+2価の電荷を持ち電離作用が強い。質量も電子に比べてかなり大きいため進む距離(飛程)も短く紙でも十分に遮ることが出来る。
(陽子線・重粒子線)
陽子・重粒子(炭素の原子核等)を加速器により、加速したもの。エネルギーにより透過力が変化し、エネルギーを失い止まる寸前になると電離量が急速に増加する性質がある。
2.放射線量の単位
放射線の量を表すには、さまざまな単位がある。放射線が物質と相互作用した結果の量には、照射線量、吸収線量、カーマさらに、それが生物に与える影響を考慮に入れた量には、等価線量、実効線量、1cm線量当量などがあり、それぞれ目的に応じて使い分けられている。
a. 照射線量:クーロン毎キログラム(C/kg)
X線やγ線に対して使われる量で、光子が空気を電離したときに飛び出した2次電子が空気1kg当たりに作るイオン対の正又は負の総電気量(クーロン(C))で表される。単位はクーロン毎キログラム(Ckg-1)である。
b. 吸収線量:グレイ(Gy)
物質に放射線を照射したときに、その物質の単位質量(kg)当たりに吸収されるエネルギー(J)を吸収線量といい、単位はグレイ(Gy)である。1Gyとは、物質1kg当たり1Jのエネルギー吸収があるときの線量である。この量は放射線の種類や物質の種類に関係なく用いられ、大量の放射線を被曝したときに現れる確定的影響を評価するときに、用いられる。
c. カーマ:グレイ(Gy)
カーマとは、ある物質1kgにX線、γ線、中性子線など電荷を持たない放射線が照射されたときに、電離作用によって、その物質内に作られる荷電粒子(電子、陽イオン)の運動エネルギーの合計であり、単位はグレイ(Gy)である。
照射される物質が空気の場合のカーマを「空気カーマ」といい照射線量との関係は、1Gy=2.97×10^2Ckg-1で換算できる。最近、照射線量の代わりに空気カーマが使用されるようになってきた。
d. 等価線量:シーベルト(Sv)
放射線の人体に与える影響は、組織・臓器の吸収線量のみではなく、放射線の種類やエネルギーによっても大きく変わる。これを考慮し、組織・臓器の平均吸収線量(Gy)に放射線荷重係数を掛けて、異なる放射線でも同じ尺度で人体への影響を表せるようにしたものを等価線量といい、単位はシーベルト(Sv)を用いる。
3.放射線の性質
a. 透過作用:物質を透過する作用→X線診断への利用
b. 電離作用:
物質を透過するさい、その物質を作っている原子や分子にエネルギーを与えて、原子や分子から電子を分離させる性質→治療への利用
c.
蛍光作用
物質にあてると、その物質に特有な波長の光を放出する性質
→蛍光倍増管とテレビジョンによる透視画像
d. 写真作用:写真フィルムを感光させる性質→画像のフィルム表示
e. 生物学的作用:
生物を構成する細胞の重要部分に放射線が当り、電離作用により細胞が損傷を受ける性質→治療への利用
II.人体に対する放射線の影響
1.生物学的影響
放射線には物質を電離すると同時に、複雑な反応を誘発し、遊離基(フリーラジカル)を発生させ、細胞を壊したり、細胞内のDNAの構造を変えたりする。このような物理的・生化学的変化の過程を経て生物学的変化にいたる。生物学的変化には、細胞の機能低下、細胞分裂の遅延、染色体の異常、そして最後には細胞の死にいたる変化がある。その一方で、細胞修復や細胞・組織の放射線感受性の違いが存在する。
細胞は分裂を繰り返しながら増殖する。増殖中の細胞が放射線照射を受けると細胞周期の遅れを生ずる。
放射線照射により染色体異常あるいは遺伝子の異常を生ずる。特に分裂期の細胞に障害を生ずる。障害を残したまま分裂し続けると、細胞の性状は照射前と変化する(突然変異)。
放射線照射された細胞は死滅する。
DNAの損傷は回復し得る。致死的損傷を受けると細胞は必ず死滅するわけではなく、照射後の条件によっては損傷から回復し、死を免れ得る。
放射線感受性は増殖能力の程度に比例し、分化の程度に逆比例する(ベルゴニー・トリボンドゥの法則)
すなはち細胞は、
1)
細胞増殖頻度の高いもの(例:腸管粘膜)
2) 将来分裂を行う細胞の数が多いもの(例:骨髄、性細胞)
3) 形態および機能の未分化もの(例:胚子、癌細胞) ほど感受性が高い。
1) 酸素
2) 温熱
3) 免疫能
4) 増感物質:BUdR (Bromodeoxyuridine)、5-FUなどの抗がん剤
5) ある種のアミノ酸:システイン
2.正常組織の放射線感受性
a.
放射線感受性高い:
生殖腺、造血組織、腸上皮、皮膚、水晶体などの細胞再生系を持つ組織は細胞分裂を繰り返しており、感受性が高い。
b.
放射線感受性低い:
筋肉、神経のように細胞分裂能力が制限されたり、失われて機能部位に達したものは感受性が低い。
3.耐容線量
正常組織に対し、これ以上の放射線照射を行うと回復不能な急および晩発性障害を引き起こすと考えられる限界の線量。
大きな照射野で照射した場合、小さな照射野よりも耐容線量は低下する。
4.放射線による正常組織の障害
照射開始後10日頃からおこり、終了後3ヶ月程で回復。
ex.)放射線皮膚炎、放射線粘膜炎、放射線腸炎症、白血球減少
耐容線量を越えて照射を受けた部位で、反応が完全に回復した発生する障害。毛細血管の障害(内腔の狭小化、閉塞)による組織・
臓器の栄養障害。
小線量で長期間にわたり継続した被曝を受けた場合に引き起こされる障害。
5.各臓器における放射線障害
a. 骨髄:リンパ球が最も感受性が高い
リンパ球>白血球>血小板>赤血球
b. 生殖腺:
1.5Sv ごく短期間の生殖力低下
2.5Sv 1〜2年の一時的不妊
5Sv 多くは永久不妊
8Sv 生殖力回復の見込みなし
c. 水晶体:白内障
d. 咽頭・口腔・食道粘膜:
照射開始2〜3週間の間に出現
粘膜のビラン、疼痛、嚥下障害、唾液腺分泌障害(唾液が粘稠になり口内・咽頭の灼熱感 が出現)、味覚障害
e. 皮膚
1) 第1度皮膚炎:
治療開始2〜3週間
脱毛→終了2〜3カ月で再生
紅斑→色素沈着を残す
2) 第2度皮膚炎:
乾性・落屑性皮膚炎
回復後に色素沈着と皮膚の乾燥状態
3) 第3度皮膚炎:
真皮膚層の露出、漏出液で湿潤、出血しやすい 回復後皮膚萎縮、色素沈着、脱毛
4) 第4度皮膚炎:
回復不能な皮膚潰瘍や壊死→外科的切除、植皮
f. 肺:放射線肺線維症:治療終了後2〜3カ月
g. 腎臓:腎機能低下
h. 肝臓:肝硬変
i. 胃腸管:
放射線胃・腸・大腸炎→下痢・腹痛
40Gy以上になると回復不能な潰瘍、狭窄、通過障害、穿孔などを起こす危険性あり。
婦人科領域では直腸膣瘻
j. 脳・脊髄:60Gy以上
k. 神経症状、上下肢の運動障害・知覚麻痺、膀胱・直腸障害
l. 心臓:心外膜炎、心筋障害
m. 膀胱:放射線膀胱炎、膀胱萎縮→頻尿、膀胱潰瘍→疼痛、血尿
6.放射線による全身症状
a.
放射線宿酔:照射数時間後から全身倦怠感、食欲不振、吐き気、嘔吐、発熱などの症状を示す。
→午睡、一夜の睡眠で消失
組織破壊によるヒスタミン遊離?、自律神経異常?
III.放射線防護と健康管理
1.放射線被曝の機会とその影響
a. 放射線被曝の機会
1) 自然放射線による被曝:1mSv/年
2) 医療用放射線による被曝
3) 職業上の放射線被曝
4) 人為的放射線による公衆の被曝:夜光塗料、テレビ、核爆発、放射線産業
2.放射線障害
a. 放射線障害の分類
1) 身体的影響、遺伝的影響:急性、晩発性放射線障害
2) 非確率的影響と確率的影響
?非確率的影響:
放射線による影響、障害がある一定線量以上でなければ発現しない。主として急性障害であるが、骨髄細胞や生殖細胞の減少、不妊、骨髄や皮膚の障害などの急性障害と、白内障などある潜状期を経て起こる晩発障害がある。多くの細胞死があり、それに細胞修復が追いつかないと考えられる。その特徴は、
(1) 同程度の線量を受けた人には誰にでもほぼ同じ症状が出現する。
(2) 症状は一定値(しきい値)以上の線量を受けた場合に出現する。
(3) 症状の重篤度は線量に依存する。
?確率的影響:
障害の発生が線量に比例して増加し、発生する確率は低いが、どのような線量でも障害が起こり得る。代表は発癌と遺伝病である。その原因はDNAを中心とした細胞内遺伝物質に生じた異常であり、このような異常細胞が無秩序に増殖するためである。わずかな放射線を受けた場合でも、一度きっかけができるとこのような障害を生ずる可能性があると考えられている。その特徴は、
(1) 障害はある確率で発生し、その確率は受けた線量に依存する。
(2) 影響の評価としては、しきい値がなく、受けた線量が少量であっても、それに比例した発生確率がある。
(3) 障害が発生した場合、その症状の重篤度は線量に比例しない。
→癌の自然発生率(25%)、遺伝障害の自然発生率(10%)に、放射線による影響がその頻度にわずかずつ上積みされて確率統計学的に発生する。国際放射線防護委員会 (ICPR)では、10mSvを全身被曝した場合の致死性癌の発生確率は0.0001% (1万分の1)、両親のいずれかが10mSvを被曝した場合に、子と孫に起こる遺伝的影響の発生確率を0.00004% (10万分の4)と推定している。
3) 急性放射線障害
? 全身被曝:
50mSv以下 影響なし
50〜250mSv 染色体異常
500〜750mSv 特定の人について変化が検出される最低線量
0.75〜1.25Sv 被曝者の約10%に吐き気が現れると考えられる最低線量
1.5〜2Sv 被曝者の大部分に一過性に無力感と、明かな血液像の変化
4.5〜5Sv 50%の人が30日以内に死亡
? 生殖腺被曝
? 大量全身被曝:
100Sv 中枢神経死
10〜100Sv 腸死
5〜10Sv 骨髄死
4) 慢性放射線障害:
悪性腫瘍の発生、局所的障害、寿命の短縮、胎児への影響
3.胎児被曝の影響
a. 胎児の放射線被曝
1) 胚の死亡(着床前期;受精から8日まで)
? 線量が多ければ胚は発生の途中で死亡し、少なければ正常に発育する。
? しきい線量は50mSv。
? 臨床的な所見としては認知できない。
? 「10日規則」は今は存在しない:「10日規則」が最も保護をしようとした着床前期の被曝では奇形にならない。この時期の細胞は、放射線に対する致死感受性が高く、放射線によって損傷を受けた細胞は、自発的に死んで排除される。死んだ細胞が担うことになっていた役割は、すぐに他の細胞が肩代わりする。したがって、胚は障害を持ったまま育つとことはないとされている。
2) 奇形およびその他の成長障害(主要器官形成期;受精後9〜60日)
放射線感受性が最も高い。
受胎後1日 影響なし
14日〜18日 250mGy
28日 250mGy
50日 500mGy
50日〜出生まで 500mGy以上
3) 精神遅滞(胎児期;受精後60〜270日)
しきい線量は200mSv。
原爆被爆者の疫学的調査から類推。
臨床第一線では問題となることは少ない。
4) 発癌
どの妊娠時期(胎生期)に被曝しても問題となる。
しきい線量はないと仮定する。
通常の放射線診療で問題となることはない。
5) 遺伝的影響
被曝の対象となった胎児の子供、すなはち妊婦の孫以降の世代への影響。
原則としてどの妊娠時期に被曝しても問題となる。
しきい線量はないと仮定。
臨床第一線において問題となることは少ない。
b. 被曝線量と障害のリスク
1) 0.5Gy以上:
奇形、子宮内胎児死亡、胎児全身発育遅延の3つ(大線量)の代表的障害作用に線量効果関係が明瞭な線量
2) 0.4〜0.5Gy以下:低線量
3) 障害作用の最低線量
奇形 150〜200mGy
着床前の早期胚への致死的効果 50mGy
骨格系小異常 50〜100mGy
細胞レベルの小変化 50〜100mGy
生後の中枢神経、生殖器系への機能異常 200〜250mGy
c. 妊娠可能な婦人の放射線被曝
1) 職業被曝:妊娠と診断されてから出産まで10mSv以下
2) 患者の医療被曝:「月経開始4週間以内の胎児の放射線リスクは特別の制限を必要としないほど小さいようである。」(ICRP1983年ワシントン声明)
4.放射線障害に影響を与える因子
a.
外部(体外)被曝の場合
1) 放射線の種類、エネルギー
2) RBE
3) 吸収線量、線量率、時間分布
4) 全身被曝、局所被曝
5) 感受性の高い臓器が含まれるかどうか
b. 内部被曝の場合
1) 核種
2) 物理学的、化学的性質
3) 半減期
4) 放出放射線
5) 摂取された量および経路
6) 核種の沈着性
7) 臓器の重要性
ex)226Ra、90Sr:骨に沈着(Caと同じ代謝)し、排出がきわめて遅い
→骨破壊、骨腫瘍の発生、造血障害
137Cs :生殖腺への影響
131I :甲状腺腫瘍
5.放射線障害の特徴
a. 症状の非特異性
b. 症状の遅発性
c. 難治性、複雑性
d. 被曝の無知覚性
6.放射線障害の治療
a. 急性放射線障害
1) 安静
2) 感染予防、抗生物質
3) 充分な栄養
4) 輸液、輸血
5) 骨髄移植
b.
体内被曝:体内からの除去
IV.放射線被曝の対策
1.医療被曝と職業被曝
放射線被曝は被曝対象である人間の立場によっても考慮されなければならない。すなわち、
a. 職業被曝:業務として放射線を取扱う作業者が、その作業過程で受ける被曝
b. 医療被曝:放射線診療の対象者が自分自身の診療のために受ける被曝
c. 公衆被曝:a.、b.以外の被曝
がある。
2.被曝の種類と対策
放射線防護を実施するに当たっては、放射線源と人体との関係、すなわち外部被曝(体外照射)か内部被曝(体内照射)かに分けて考える必要がある。
a. 外部被曝の対策:
体外にあるγ線,X線のように透過力の大きい放射線が問題となる。その防護対策は、時間・遮蔽・距離の3原則である。
1) 時間:あらかじめ作業手順などを十分に検討し、手際よく作業を行い、被曝時間を短縮する。
2) 遮蔽:放射線源と人体との間に鉛、アクリル板などの遮蔽帯を置く。遮蔽はできるだけ線源の近くで行う。
3) 距離:照射線量は距離の2乗に反比例するため、線源と人体との距離を保つ。
b. 内部被曝の対策:
放射性物質(同位元素)が、飲食物から経口的、空気中から呼吸により、皮膚あるいは傷から経皮的に取り込まれ、放射線を体内から被曝することがある。α線やβ線など透過力は小さいがエネルギーの大きい放射線が問題となる。消化管に入った場合にはγ線による生殖腺被曝が問題となる。内部被曝を防護するにはこれらの摂取経路を防ぐことが最も重要であり、放射線源の集中管理と、通常の化学実験などにおけるマナーを遵守し、線源の慎重な取り扱いが肝要である。
体内に摂取された放射性物質を取り除く有効な手段がなく、物理的な減衰や生物学的減衰はあるが、特定の臓器に集積する(例:甲状腺への131-I集積)。
もし体内被曝の可能性が出た場合は嚥下、吸入された同位元素の種類と量がわかるとよい。汚染を受けた手指はただちに除染する。口内に入ったときは吐き出して口をすすぐ。嚥下した場合には胃洗浄や催吐剤を用いる。時間がたち、腸に入った場合には下剤を投与し排泄を促進する。
3.放射線防護の体系
放射線防護が科学全体のあるいは社会全体の問題としての性格を持つようになり、放射線の取り扱いと種類が多様となってきたため、放射線防護の体系(線量制限体系)という新しい基本原則が生まれた。ICPR勧告による放射線防護の体系は以下の3つの要素からなる.
a.
正当化:放射線を用いることによって得られる医療上の利益が、放射線を用いることによってもたらされる損失(人体の放射線被曝によって生じるよる影響)の危険性を上回る。
b.
最適化:正当化の判断の結果、放射線診断をする必要があると判断されたら、被曝線量は、経済的・社会的要因を考慮しながら合理的に達成できる限り低く保たなければならない。(as low as reasonably achievable;ALARAの法則)。
c.
個人の線量制限:各個人の線量当量は、それぞれの状況に応じて委員会が勧告する限度を超えてはならない。
→線量当量限度;放射線作業従事者
50mSv/年
5年間の平均が20mSv以下
一般公衆5mSv/年以下
→放射線防護の目的を要約すると、“非確率的な有害な影響(障害)を防止し、また確率的影響を容認できると思われるレベルにまで制限し、かつ放射線被曝に伴う行為が正当化されるようにすること”である。そのために年間線量限度が決められており、それを遵守しなければならない。
4.放射線管理
a. 環境の管理:放射線管理区域
b. 個人の被曝管理:フィルムバッジ、ポケットチェンバー、ハンド・フット・クロスモニター
V.放射線治療と看護
1.看護の目標
a. 医師と協力し患者の日常生活について適切な指導を行う。
b. 治療に耐えられる体力を維持するよう管理する。
1)
高栄養価の食事
2)
禁煙
3)
刺激物の摂取を避ける
c. 運動や作業は本人のできる範囲内で積極的に行わせる。
d. 放射線治療によって疾患の根治ないし改善が期待できることをよく説明し、希望を与えることによって闘病意欲を高める。
e. 放射線による副作用が防止または軽減できるよう、治療前に指導および注意を与えておく。
2.治療前の看護
a. 治療開始時の看護
1) 患者は看護婦に助言を求めてくる場合が多く、また看護婦の助言に対しては素直に受け入れる患者も多いので、必要な治療であることを充分に説明する。
2) 患者の状態をよく理解する。
b. 患者指導の目標
1) 放射線治療の目的について理解する。
2) 求めに応じて治療法の概要について患者・家族に説明する。
3) 放射線治療による反応や副作用について理解する。
4) 求めに応じて反応や副作用の概要について患者・家族に説明する。
5) 特に障害と反応の差異を理解し、耐容線量以内での安全性を納得させる。
6) 副作用や反応の軽減方法について説明し、それらを実施する。
3.照射期間中の患者指導
a. 照射範囲の皮膚マークを消さないように患者に説明しておく。
→照射休止期間中や入浴中に消える恐れがあるので十分注意しておく。
b. 放射線宿酔
1) 適度な休養と散歩や軽作業などにより気晴らしをはかる。
2) 食事はできるだけ経口的に摂取させ、吐き気・嘔吐が強い場合には鎮吐剤の投与を行う。
3) 一過性の症状であり、数回の照射後には消失することを説明しておく。
c. 骨髄障害(特に白血球減少)
1) 高蛋白食、新鮮な野菜・果実類を十分に摂取させる。
2) 白血球減少による感染予防のため、人混みを避け、過労に陥らないよう指導する。
3) 白血球が2,000以下、血小板が80,000以下になると照射を休止する。
d. 放射線粘膜炎
1) 頭頚部の照射時には禁煙。
2) 飲酒、刺激性の食物を避ける。
3) 食事はできるだけ経口的に摂取させる。→口腔の清浄化に有利
4) 歯は柔らかい歯ブラシやガーゼなどで洗浄する。
5) 食塩水・重曹水・加酸化水素水によるうがい。
6) 疼痛が強い場合には表面麻酔剤を使用。
e. 放射線皮膚炎
1) 衣服などによる機械的な刺激・寒冷などの刺激を避ける。
2) 照射部を強く擦ったり、掻いたりしない。
→やむを得ない場合には軽く叩く。
3) 着衣で皮膚が擦れる場合には皮膚をスカーフなどの柔らかい布で被う。
→衿の硬い着衣は避ける。
4) 照射野にばんそこうは絶対貼らない。
5) 入浴は短時間で汗を流す程度にする。
→照射部位に石鹸を使用しない。
→皮膚マークを消さないように注意する。
6) 剃毛はなるべく避け、やむを得ない場合には電気カミソリで浅く剃るようにする。
7) 照射部位にカイロや湯タンポ・温湿布は行わない。
8) 強い直射日光や冷たい風にあたらない。
9) 小範囲の湿潤部位が生じても軟膏を塗布しない。
→軟膏により乾性皮膚炎が湿性皮膚炎に変化し、疼痛などが増強する。
10) 広範囲な湿性皮膚炎では軟膏の使用はやむを得ない。
4.放射線治療と食事指導
a. 味覚の変化、食欲不振、吐き気のため食事摂取を控えることは、体力維持上望ましくないことを理解してもらう。
b. 食べられる時に小量ずつでも頻回に分けて食べるよう指導する。
c. 喫煙、飲酒は原則として中止。
d. 腔内乾燥感を訴える場合には、液状性・流動性の高い食事とし、疼痛を伴う場合には刺激物・香辛料・酸味のあるものは避ける。
e. 放射線胃腸炎が出現した場合には、高蛋白・高エネルギー・低残さ食とする。
f. 食欲低下・吐き気が強い場合には、温度の高いもの、香りの強いものは避け、冷えたり香りのないものとする。
5.治療終了後の患者指導
a. 一般的な注意
1) 照射後3カ月くらいは全身の抵抗力が減弱しているので過労を避け、十分な睡眠と栄養の摂取を行うように指導する。
2) 皮膚や粘膜は照射により受傷しやすくなっているので、強い刺激を避けるようにする。
3) 照射部位は血行が不良になっており、受傷により潰瘍化しやすく、また治りにくい。
4) 刺激を避け、寒冷などにさらさないよう保温に注意する。