☆放射被曝は怖い?☆

森田荘二郎(放射線科医長)


 先日、ある開業医の先生から電話がかかってきました。「新婚の女性で胃が痛いと言って来院したが、胃の透視をしたあとで妊娠しているのがわかった。総合病院の産婦人科を受診したところ、だいぷおどかされたらしいが相談にのってやってくれないか」「おなかのレントゲソ写真を撮ったが、あとで妊娠していることがわかった。大丈夫でしょうか」

 このような質問を時々受けます。放射線を浴びること(放射線被ばく)への漠然とした不安感の表れだと思いますが、医療上の被ばくについて少しお話しします。

 われわれは地面、建材、食物、テレビの画面などから出る放射線、宇宙線などさまざまな自然放射線を浴ひながら生活しています。被ばく線量は年間約2ミリシーベルトと言われでいます。医療に使われている放射線もこの自然放射線と全く同じ性質を持っています。

 放射線を用いた診療は病気を早期に発見したり、がんを治療したりと患者さんにとって利益をもたらす場答にのみ行われるものでず。かと言って、無制限に浴びても(浴びさせても)良いものではありません。放射線を扱う者(特に医者・診療放射線技師)は、放射線防護の原則にのっとり、きちんとした知識をもって診療しています。すなわち、できるだけ被ばくをさせないよう留意していますが、放射線を用いる事によって得られる利益が、被ばくによる損失(影響)を上回る場合にのみ放射線診療を行う事が最も重要です。これを「正当化」と言います。従って、同様の情報が得られる放射線以外の検査法があれば、そちらを選択することをはっきり認識する必要があります。

 この原則にのっとって放射線診療を行っている限りは、レントゲン検査に伴う患者さんの被ばくはごく少なく、放線による影響を心配する必要はありません。ちなみに、胸のレントゲン撮影では、1撮影当たり約0.1ミリシーベルトの被ばくを受けます。また、妊娠中と知らずに胃透視を受けた場合でも、胎児の被ばく線量は1分間に約0.3ミリシーベルトで、通常は10分も透視をすることはなく、直接胎児が被ばくされない場合には、胎児に間題が生じるような被ばくを受けることはまずありません。

放射線は人体に有害なものであることは確かですが、一般の方々は被ばく線量と影響の知識を持っていないので、即「放射線は怖い」と考えるのは仕方がないことと思います。しかし、放射線診療は現代医学では欠くことのできない手段です。われわれ医療側が被ばくに対する正確な知識を持ち、患者さんの疑問・不安にきちんと答えられるよう努力していかなければならないと思います。