平成9年度全国理科教育大会研究発表資料(平成9年6月作成,8月6日発表)
[あらまし]数学ソフトMathematicaと最新プログラミング言語Javaを用い,物理のシミュレーション教材をいくつか作成した。また,これらをインターネットWWWのWebpageに載せることで,誰もが利用できるように公開した。これらはほとんどのパソコンやOSで使用でき,マウスで簡単に操作できる。内容は,2次元波動の干渉,ドップラー効果,万有引力のもとでの太陽・惑星・衛星の運動,ラザフォード散乱,気体の分子運動と圧力,物質の三態変化などである。
[キーワード]シミュレーション,Mathematica,Java,WWW,波動,万有引力,分子運動と圧力,物質の三態
1.はじめに
パソコンの使い勝手の改善,マルチメディア化,インターネットの普及,さらにJavaなどの新技術の発表にともない,近年のパソコンの利用形態は大きく変わりつつある。動画や音声を容易に扱え,世界中の情報を簡単に得られ,自らも情報を発信することができるようになったことは,教育への利用も従来とは違う発想を必要としているように感じる。現に今,多くの方々がその可能性に取り組み,まさにその地平を広げている状況といえよう。
私も教育関連の物理シミュレーションの分野で,新しい技術を利用した教材をいくつか作成し,一部授業に使用してみた。ここでその紹介を行う。
2.Mathematica,JavaとインターネットWWW
Mathematica1)はWolfram Research社が開発販売している数学やその他の応用のためのソフトである。高度な計算能力とグラフィックス機能を合わせ持った定評あるソフトで,物理関連のシミュレーションやその動画の作成が容易にできる。動画データはQuickTime
movieと呼ばれる形式に変換でき,これはほとんどのパソコンやOSで見ることができる。また,インターネットWWWのWebpageに載せることも容易である。
Java2)3)4)は1995年にSun Microsystems社が発表した最新プログラミング言語で,作成したプログラムは,ほとんどのパソコンやOSで実行できるという大きな特徴を持っている。またappletと呼ばれるかたちにすれば,WWW閲覧ソフト上でハイパーテキストに組み込んで実行できる。JavaはC++に似た文法で記述されるが,不必要に難しい部分は省かれており,ボタンやスクロールバーなどのGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェイス)も簡単に利用できるので,プログラムを比較的開発しやすい。さらに開発キットは無償で配布されている。
私は,パソコンやOSの種類に関係なく利用できる教材を,WWWをとおして誰でも自由に使えるようにしたいと考えている。教材開発者がお互いにそうすることで,インターネット上で教材の共有化ができるからだ。この目的にQuickTime movieやJavaのappletは打ってつけである。実際に今回紹介する教材はAppleのMacintoshで作成されているが,Windows95マシンでもほとんど問題なく利用することができる。
3.作成したシミュレーション教材
まずMathematicaを用いた2次元波動の干渉シミュレーションmovieを紹介する。右図のような干渉パターンの動画であるが,自由に停止,駒送りなどができる。バリエーションとして逆位相の場合,波源間の距離を変えた場合の干渉,ホイヘンスの原理によるスリットから発生する波,回折格子から出ていく波,ドップラー効果,衝撃波などのmovieも作成した。
次にJavaのappletを紹介する。これらのいくつかは4次のRunge-Kutta法と呼ばれる微分方程式を数値的に解く方法を用いている。
(a)万有引力のもとでの太陽・惑星・衛星運動
簡単な太陽系のシミュレーション。マウスで目的の星を引っ張るようにして位置や速度を自由に変えることができ,太陽系を自ら作ってみることができる。
(b)ゴム紐でつながれた3つの物体の運動
陽子内のQuark運動?のシミュレーション。マウスで自由にコントロールできる。
(c)ラザフォード散乱
原子核によってα粒子が散乱されるようすのシミュレーション。α粒子の初速度や原子核の電荷の広がりを変えることができる。
(d)物質の三態変化
分子間力を働かせた分子集団が,冷却されるに従い,気体から,液体,固体へと状態を変化させていくようすをシミュレート。
(e)気体分子運動と圧力
ピストンでシリンダ内に閉じこめられた気体分子が,ピストンに衝突することによって圧力が生じるようすをシミュレート。気体の状態方程式を力学的に理解できる。
4.授業での利用
パソコンをスキャンコンバーターを介して大型TVに接続し,その中でシミュレーションmovieを利用している5)。2次元波動の干渉の単元では,水面を投影する方法で干渉パターンを実際に見せてから,movieで節線のようすなどを説明する。回折格子の単元でも,実物を用いた実験と原理の説明の後,movieを見せている。波の動きがはっきり捉えられるため,生徒の波動現象の理解に大変役立っている。また,シミュレーションの波動理論の演繹としての側面も簡単に説明している。
Javaによるシミュレーション教材は,作成したのが最近のため,まだ授業で利用するまでには到っていない。インタラクティブ性も生かして今後利用したいと考えている。
5.まとめ
MathematicaやJavaを用いることでシミュレーション教材の可能性をいくらか広げることができたのではないかと考えている。またQuickTime movieやJavaの利用で,一部の機種だけでしか利用できないなどの非能率性を回避でき,Webpageで公開することで教材の共有化への一歩になったのではないかと思う。これらの教材に興味のある方は,私のWebpage「のりさんのパソコン物理」を訪れてみて下さい。URLは:
http://www2.meshnet.or.jp/~norimari/sciencenori.html
です。また,これらは授業等で自由に利用していただいて結構です。
最後にJavaによる教材開発では「JAVA物理教材メーリングリスト」6)の関係の方々に大変お世話になったことを申し添えておきます。このメーリングリストにもたくさんの物理関係教材がありますのでどうぞ訪れてみて下さい。
6.文献及びインターネット関連サイト
1)スティーブン・ウルフラム 『Mathematica』
2)大谷卓史,武藤健志 『はじめてのJava』 技術評論社
3)河西朝雄 『Java入門』 技術評論社
4) 神川定久 『JavaとHTMLを用いた教材の開発』
物理教育Vol.44,No.4 1996 410
5)加藤徳善 『マルチメディアパソコンの授業での使用例あれこれ』
物理教育Vol.45,No.1,1997 19
6)JAVA物理教材メーリングリスト
http://suisei.isc.chubu.ac.jp/~nepjava/