量的形質と質的形質について


小進化は簡単に起こるのに大進化になりにくいのはなぜ?

 小進化は、そのほどんどが量的形質の変化だからです。量的形質のほとんどはポリジーン支配による遺伝だと考えられます。
 ポリジーンでは多くの遺伝子が同じ形質に補足的か累積的に影響を与えるため、異常な突然変異(主に重複の増加)が一部で発生しても形態に致命傷を与えることがありません。そのため自然選択の影響がポリジーンまで届きにくく、高速で変異を起こすことができます。
 ポリジーン形質は、主遺伝子の許容範囲であれば変異が速いのです。しかし、主遺伝子の許容範囲までしか形態に影響できません。
 これは、セントバーナードからチワワまで、余りにも格差がある犬の差異は、人類に飼われ始めてからできたことからも理解できるでしょう。それらの変異はポリジーンによって支配されていると考えられています。


量的形質ってなに?

 たとえば、身長や体重などは数値によって計測でき、しかも計測の結果は、平均値付近を中心にしてベル型のグラフを作ります。これは獲得形質と影響し合って、どこまでが遺伝の結果なのか判断することができません。


大進化が起こりにくいのはなぜ?

 主遺伝子の進化の速度が遅いためです。進化の不可逆性といって大進化では、形質が戻りません。これは主遺伝子の特徴で、主遺伝子の進化の遅さだけが原因ではなく、主遺伝子は進化の際に複雑さを増していく性質があるためです。進化した遺伝子がもとに戻ることが難しいのは、改築した家を戻すのが難しいことに似ています。さまざまな機能を追加すると、取り除くよりは、使わなくする(退化・縮小)ことが簡単で安全なため、遺伝子の複雑さ自体は単純化されにくいのです。
 とくに、質的形質は、主遺伝子による場合が多いため、形態の根本的な違いが発生しにくくなります。
 有利に働く遺伝子の突然変異は天文学的な確率(小数点以下にゼロが600万ほど)であることを忘れてはなりません。残された群の方が天文学的に多数派です。1億の個体が1年で世代交代(子供を1才で産む)をするとしても17けたです。600万けたには、ほど遠いのです。


質的形質の進化(変異)はどうやっておこるの?

 中立の遺伝子の蓄積により、環境が変わり有利になると、ある中立の遺伝子の量的形質が増大し、急速に発生することになります。
 しかし、それだけでは質的な変異は、発現すれば求心性選択により淘汰されるため、蓄積される量に限界があり、ミッシング・リンクの説明は難しくなります。


ミッシングリンクってなに?

 「キリンの首はなぜ長くなりましたか」という古典的な問題があります。
 20世紀最初の大型哺乳(ほにゅう)動物の新種発見として大ニュースとなったオカピは、でん部(でんぶ)のしま模様のために後ろからしか写してもらえない、かわいそうな絶滅危惧(きぐ)種です。ウマの一種とされていましたが、新種の動物であることが判明し、1902年にキリン科の動物として分類されるようになりました。しかし、残念ながら首の長さが中間ではありません。首の短いキリンです。
 ネオダーウィニズムは、首が短いキリンが淘汰(とうた)されたからで片づけようとします。首の長さが中間のキリンの化石はいまだに見つかっていません。このように、見付からない中間種のことをミッシング・リンクと呼びます。
 ミッシング・リンクについて、分子生物学者は古生物学者の努力が足りない、古生物学者は分子生物学者の力不足とけなし合っているように見えます。
 これが、大進化の速度は主遺伝子の進化よりも高速であるという説の根拠になっています。
 断続平衡説では、いちど隔離された小集団が独自に進化し、再び融合することで化石では突然進化したように見えると説明しています。しかし、小集団では突然変異の量が不足するので、大進化は発生しにくくなります。
 たとえ、隔離と中立説を組み合わせたしても、大進化を説明することは困難でしょう。それほど主遺伝子(質的形質)の変異は少ないのです。
 ただ、ミッシング・リンクは全ての大進化に存在するわけではなく、単純に大型化の進化を進めた馬や象は順を追った化石が見つかっており、見つからないのは鳥(始祖鳥は中間型ではないと考えられています)や被子植物などの決定的な変化の際に、このミッシング・リンクが目立ちます。
 馬や象の化石については、進化の過程ではなく、様々な大きさの別種のなかで、大きい者が生き残ったのではないかという反論もあります。