ニッチと生存戦略
Q ニッチってなに?
ニッチとは礼拝堂などでマリア像を置くためのくぼみのことです。このごろは普通の建物でも、階段の踊り場などに、四角いくぼみを作り、花瓶や人形を飾ったりしていますが、それがニッチです。
生物学では生態的地位の意味で使用します。特有の生息場所を埋めるように適応した生物がいる場合の、その生息場所のことをさします。単に地理的な環境だけでなく生態系の中での役割も含めて考えます。
現在存続している種としての独自性と考えてもよいかと思います。
近いニッチの生物が同じ場所に長く共存することは難しいため、競争の結果、一方が絶滅するか、なんらかの棲み分けが行われることになります。生物が大移動を行った場合、たとえば帰化生物などがこのような状況を新たに作り出すことがありますが、普通は棲み分けにより、早期にニッチが変化しています。
ニッチ戦略とは、くぼみにぴったりと収まるように、ある環境に合わせて生き延びる戦略です。すきま戦略と呼ばれることがありますが、ニッチはすべての環境を指すため、狭い環境とは限りません。
ニッチ戦略では、いったんニッチを占めますと、ほかの集団が入れないように、数、ニッチへの最適応、効率化、
環境を変異させ他種の生存・進入を拒む、などでの参入妨害の戦略になります。しかし、本当に大変なのはニッチを探すこと、ニッチに速く適応することです。
ここで、ニッチの奪い合いの生存競争や、すみ分けが発生します。危険よりも、ニッチを奪うことが最優先になります。
ここに、生き延びるかどうかのすべてがレイズされています。
Q 生物の生存戦略にはどのようなものがあるの?
生存戦略は、実際には目的があってできたものではなく偶然に生き残れた理由を説明するものです。しかし、単純に偶然と言い切れるものでもありません。たとえば、山に移動した種が生き残り、海に移動した種が死に絶えた場合、これをすべて偶然と言い切れるのでしょうか、種としての意志が影響しているのです。
生き残り戦略は、リスク最小戦略と利益最大戦略に分けることができます。
リスク最小戦略とは、リスクが最小になるものを選ぶ戦略のことです。
通常は、消極的、保守的な戦略になり、安定した状況であれば、この戦略が選ばれることが多いのですが、生存の危機に対する場合は、リスクが最小であっても生存が難しくなるため、利益最大戦略に変わるしかなくなります。
利益最大戦略とは、利益が最大になるものを選ぶ戦略でリスク最小戦略と正反対です。利益最大戦略で、通常の戦略がニッチ戦略です。
Q リスク最小戦略の正確な意味は?
リスクが最小の選択をするのですが、それが複数ある場合はその中の利益が最大のものを選ぶことになります。リスクが最小のものを選ぶということは、安定を目指していることを意味しています。
それは、すなわちリスクを犯さなければ生き残れる環境であるということです。
Q 利益最大戦略の正確な意味は?
利益が最大の選択をするのですが、それが複数ある場合はその中のリスクが最小のものを選ぶことになります。利益が最大のものを選ぶということは、向上・変化、つまり進化を目指していることを意味しています。
しかし、利益を求めることは同時に滅亡のリスクを背負うことを意味しています。
存続のために存続する種が、ばくちに走る理由は一つしかありません。種の存亡の危機に遭遇したときが、求心性選択が崩れるときです。ただ理由もなくギャンブルをするようなことはありません。かけに勝つ可能性を感じたときに、ニッチという希望が進化への意志を生み出します。
「赤の女王仮説」と呼ばれる説があります。
「鏡の国のアリス」の中で、「赤の女王がアリスに『同じ所にとどまろうと思うなら、全速力で走りつづけなさい』と言った」という一節からの命名です。周囲が動いているために、その場にとどまるために全速力で走り続ける鏡の中の世界では、進化を継続していかなければなりません。それが、あらゆる生物に同時に起きているという説です。
捕食者と被食者、寄生者と寄主のように一方が他方に悪影響を与える種間関係で、攻撃される側は、防衛機構を発達させ、攻撃する側は、攻撃機構を進化させ、さらに防衛機構を発達させるといった終わりなき戦いが続きます。そのため種は、生存を続けていくためには、常に進化していかなくてはなりません。進化に遅れた種は絶滅するという考えです。
しかし、これは現在の観察では実際に認められたことはありません。
求心性選択が働く中で同時に進化するようなことは通常は奇跡中の奇跡です。しかし、擬態、共生、寄生、などは単独の進化では難しいでしょう。
「赤の女王」が君臨するすべてが裏返しの「鏡の国」とは進化期のことです。進化期には、進化の抑制装置はすべて、進化の促進装置となります。
どのような生存戦略が生き残りやすいか、もっとも生き残りやすい戦略に安定するということです。それにより、敵対よりも友好のほうが生き残りやすくなるというものです。
短期的に最も有効なのは敵対的なタカ派戦略の個体に対してはタカ派戦略を、友好的なハト派戦略の個体にはハト派戦略を選択することになります。相手が友好的なら協力するが、敵対的ならやられたらやり返す、やられた以上にはやり返さない、という戦略です。その結果、長い期間を過ぎればタカ派はハト派に比べて生き残りにくくなります。餌をとるときに協力した方が、奪い合うよりも取り分が多くなるので、その環境でもっとも合理的な友好の度合いが決定されることになります。