先行加速説について


先行加速説ってなに?

  ネオ・ダーウィニズムを主な論理に使っています。しかし、遺伝子(遺伝子型)Vs形態(表現型)、量的形質Vs質的形質は、それぞれ独立した進化として扱っていること、突然変異と自然選択が安定期と進化期では正反対の法則に変化すること、進化のサイクルや定方向性を認めているところが異なります。
  「安定期」→「先行進化期」→「停滞期」→「加速進化期」→「拡散期」→「確定期」と進化は移行していきます。
  進化は「環境」→「種」→「個体」→「遺伝子」と伝えられます。従来のネオ・ダーウィニズムでは「個体」が単位です。「利己的遺伝子説」では「遺伝子」が進化の単位になっています。

安定期には指向性選択はないの?

  安定期にも指向性選択は、あります。しかし、遺伝子にまで自然選択の結果が届きにくいのです。
  表面に現れた形質(表現型)は獲得形質の結果なので、遺伝子の本来の形質(遺伝子型)と一致しないかもしれないのです。同じ大きさでの個体でも、本当は小さいものがたくさん食べて大きくなったものがいるかもしれません。
しかし、必ず一致する場合があります。それは、獲得形質の限界に全部の個体がなった場合です。
  獲得形質が限界に近い場合には、遺伝子はどれだけの獲得形質を発現させられるかで自然選択されます。誤差はなくなります。自然選択は遺伝子型(どれだけの獲得形質を発現できるか)に対して行われます。
  この状態を「表現限界」と呼びます。表現限界とはある遺伝子の限界の形質のことです。表現限界で遺伝子は形態を追いかけます。獲得形質は間接的に遺伝されます。これを「遺伝子に対して獲得形質が先行進化している」と呼びます。

獲得形質の表現限界での先行進化が、いわゆる進化なの?

  これは大進化とは認められていません。変異が可逆的(元の形質にも簡単に戻る)だからです。後戻りができたら進化とは呼べません。遺伝子の進化が伴っていません。実は、通常見られるほとんどの変異はこれです。この段階では主遺伝子の変化はなく、品種改良の家畜と同じです。これは、ポリジーン(複数同義遺伝子)支配による遺伝だと考えられています。

獲得形質とポリジーンと主遺伝子の関係は?

 ポリジーン遺伝が先行して、主遺伝子の進化を促します。
  改良された犬種の死産が多いことから、主遺伝子に対する自然選択も行われていることが分かります。主遺伝子もポリジーンと同様に、求心性選択により、上限に近いポリジーンの形質が発現できなければ排除され、また近ければ近いほど優遇されます。主遺伝子も、ゆっくりではありますが、いずれ形質の示す位置まで上ってきます。
  ただし、それは、天文学的な遅さに加わり、大部分はポリジーンに吸収されます。無いと同様です。
  しかし、キリンが一斉に首を伸ばし始めてから、主遺伝子の範疇(はんちゅう)で最高の首の長さになるのに、犬の例で見ても、そう時間はとらないでしょう。
ポリジーンが主遺伝子の限界、つまり表現限界なら、自然選択は主遺伝子に誤差がなく影響します。「ポリジーンにどれだけの形質を発現させらるか」の自然選択となり、ポリジーンは伸びきった状態でクッションになりません。自然選択は主遺伝に直接行うことに等しくなります。
  獲得形質は、ポリジーンというロープで主遺伝子という鉄の玉につながれているようなものです。ロープが伸びきらなければ鉄の玉は動かせません。
獲得形質→ポリジーン→主遺伝子の順で、種の進化は、速度を変えながら進みます。

主遺伝子の突然変異は天文学的に遅いのになぜ進化するの?

  獲得形質とポリジーン型がどちらも表現限界になると、進化が加速を始めるからです。
  進化の途中では、突然変異の個体に指向性が向かうため、同時に突然変異率の高い個体に指向が集まることになります。結果として、進化の方向に突然変異率が高くなります。進化は進化を呼び、加速します。
  個体の集団が種を保つためには遺伝子の中にも突然変異を制御する装置を持っていると考えられます。その性質だけが個体差異がない、とか突然変異がない、遺伝しないという保証はできません。

 形態の進化が加速するような、遺伝子の突然変異が発生した可能性があります。
そうすると、進化は分子ではゆっくりと連続的に、形態では高速で断続的になりやすくなります。
  形態レベルでの遅れは、ニッチの奪い合いに負けることを意味し、分子レベルでの高速化は過ちを取り戻せなくなります。


突然変異率が変わることって本当にあるの?

  ショウジョウバエに、X線を照射しますと、突然変異の発生率が上昇します。突然変異のほとんどは有害なため、生まれてくる子が激減します。 しかし、何代かX線を当て続けていますと、X線による突然変異の発生率は小さくなり、繁殖力が回復されます。
  種によっても突然変異率は違います。同じ種でも、形質によって重要な形質ほど突然変異は少なくなります。また、同じ形質でも、時代によって突然変異率が変わることが知られています。

でも遺伝子の進化は、ほぼ一定の速度って聞いたけど?

 通常は、むしろ、新遺伝子は、ほぼ完全に抑制されています。安定期に誕生した新遺伝子は深い眠りについています。
  しかし、進化期には、この抑制は徐々に機能しなくなるため、(機能しない方が生存率が高いため)次々にバラエティあふれる上位遺伝子が眠りから覚めることになります。
  突然変異率にも限界はあるでしょう。抑制制御がすべて外れても突然変異率が無制限に上がるわけではありません。 もっとも可能性があるのは、量的形質(ポリジーン形質)の限度規格が壊れることです。 新しく精密機械を作るよりは、今ある装置を解除する方がはるかに簡単です。これであれば、高度な仕組みの必要がなく、進化が加速することができます。 子犬のロープが伸びきった上に、切れてしまうようなものです。 新たな上位遺伝子の発現により質的な変異が起こり、高速の形態での進化が、遺伝子での進化をゆっくりと引き上げます。


表現限界になるとすぐに進化は加速するの?

  獲得形質が主遺伝子の限界(表現限界)に至りますと、進化の速度は、遺伝子が加速するまで停滞に近い状態になります。この停滞期の進化の壁にぶつかり、進化への意志が弱い種は、ここで安定期に戻ってしまいます。
  この時期に、進化の方向に突然変異を起こした個体は、圧倒的な有利さで、種に遺伝子を広めていきます。
  これは、懸命に能力を伸ばそうと懸命に努力し続けているプロサッカー選手たちに、努力なしで優秀な選手が入ってきたと考えてください。努力すればもっと優秀になります。もう人気は独り占め。しかも、顔がどうのとか性格がどうだとかは、比較的に考慮されないでしょう。
  上を目指す集団の中では、求心性選択の上限はほとんどありません。進化選択は、質的変異よりも、進化方向への獲得形質が優先します。
  より進化した個体の変異はより多く許されるため、種の質の幅は、大きくなっていきます。ここでは安定期では抑制されていた様々な形質が発現し増大します。ここで中立遺伝子の本格的な発現が行われるのです。
  もともと、種の求心性は質的な形質よりも量的な形質に対して行われるものだけに、質的な形質変異が相当量に許される素地はあります。
進化は加速を始めることになります。
  突然変異の量的な調整はポリジーンが行うため、一気に大きな遺伝子レベルでの突然変異に対しても種の求心性の範囲内で進化を進めることができます。
進化への意志が強いことは同時に、環境も過酷であることを意味しています。進化への意志が強くとも、ここで滅びる種も多いことでしょう。

定向進化説の説明はできるの?

  遺伝子の進化が加速しすぎると過剰適応、つまり遺伝子が、形質を追い越すこともあり得ます。
  この場合は、獲得形質は進化をとめる方向に働きます。突然変異率が少ない個体に指向性が向かいますが、逆に、形質はずるずると主遺伝子の進化に引き擦られていきます。
  特に小数の群であれば、自然選択が過酷であったため過剰適応する場合があります。
  過剰適応で死滅する場合(サーベルタイガー)、どうにか適応値の上限で踏みとどまった場合(キリン)、過剰適応に対応する能力もちゃっかり取得した場合(ゾウ)などが考えられます。

進化のサイクルのそれぞれの期間はどんなの?

安定期ってなに?

  進化の方向は種の中心にあり、個体は種の許容範囲で様々な形質を潜伏させます。
  種の許容範囲を超えた個体は、求心性選択により淘汰(とうた)されます。

先行進化期ってなに?

  何らかの環境の変化により、種の全個体が同一の獲得形質を取得します。進化の方向は、獲得形質にあります。
  通常は、すぐに確立期、安定期に移ります。
  まだ主遺伝子は変化せず、ポリジーン遺伝が先行しています。正確には進化ではなく品種改良です。
  犬の品種改良速度から考えますと、数100年〜数1000年程度で、チワワからセントバーナードになることができます。
  主遺伝子に対する淘汰(とうた)も行われています。しかし、主遺伝子の進化の速度は天文学的に遅い上に、ほとんどをポリジーンが吸収するため、主遺伝子の進化は、無に等しいのです。
  また、環境が元に戻った場合は、高速でもとの主遺伝子と一致する形質に戻れます。

停滞期ってなに?

  進化の方向は、まだ獲得形質の方向にあります。 しかし、表現限界点に達しているため、獲得形質は一向に向上しません。が、しかし、全個体が、表現限界点に近い位置まで、形質が集まってきます。淘汰(とうた)は表現限界点にかなり近い位置で過酷に行われます。求心性選択の下限は、表現限界点のすぐ下にあります。
  主遺伝子の進化は、天文学的な遅さではあるが進んでいます。
  形質と遺伝子との距離は、常に表現限界点で保たれます。
  この時期に、進化の方向に突然変異を起こした個体は、圧倒的な有利さで、種に遺伝子を広めていきます。自然選択は、質的変異よりも、進化方向への獲得形質が優先します。
  より進化した個体の変異はより多く許されるため、種の質の幅は、大きくなっていきます。ここでは安定期では制御されていた様々な形質が発現し増大します。
徐々に突然変異を起こしやすい遺伝子が広まっていきます。
  ただし、種全体の進化への意志が強くなければ、この時期を乗り越えることはできません。通常は、ここで安定期に戻り、見た目上の進化は止まり、遺伝子が進化して形質に追いつくのを待つことになります。
  徐々に加速進化期に移行します。

加速進化期ってなに?

  「生命大爆発」はこの時期のことです。
  進化の方向に突然変異を起こしやすい遺伝子が増えていき、進化の速度は増加していきます。
  進化は、疾走を始めます。
  この時期には、進化に遅れた個体は淘汰(とうた)されます。
進化に遅れた個体でも、同様に遅れた個体が近くにいれば、種を分岐し加速進化を継続することができます。群が大きければ、多くの分岐が行われます。ただし、遺伝子では分岐は行われていません。
  また、少数の群であれば、加速遺伝子は十分に広まり進化速度は同様になります。また、そのため、進化選択は過酷になります。
  もはや、種の同一性がどこにあるか分からないほどの混乱が発生していきます。種と種の境が不明確な分岐が進んでいます。とにかく進化の方向に疾走していきます。
  細かい形質の差異よりも、進化の方向にどれだけ進んでいるかが進化選択の下限となります。つまり、何でもありです。少々の質的な差異は気になりません。
  しかし、どのタイミングでも、形質・遺伝子は共に整合性を保って、適応しています。ある程度の適応ができない種・個体はどのような時代でも淘汰(とうた)されます。
  また、余りにも質的差異が大きくなった場合には、求心性選択により分岐することになります。
  したがって、この時期に「適者生存」にふさわしいニッチ(すきま、生態的地位)の奪い合いが行われます。
  進化・分岐により空白だったニッチにどの種が入り込むのでしょうか、激烈な争いが種間で発生します。最終的には、より適応しましたか、より速くニッチを占めた種が勝ち、後からきた種はすみ分けを強要されます。新しいニッチを探し求めて、加速進化は継続されます。空白のニッチにわずかでも対応できれば、その適応を基準に進化していきます。
  ここでの地理的隔離、性的隔離は、種の分岐に等しくなります。
  ここで多くの質的変化が加わり、場合によってはこの質的変化も加速進化する可能性があります。加速進化が、必ずしも進化の方向にだけ、向くような保証はありません。突然変異率は、ほかの形質でも多少増えている可能性は高いです。突然変異を制御する遺伝子は複数の影響を受けていることでしょう。

拡散期ってなに?

  新しい環境の適応値に、形質が到着します。進化は加速をやめますが、疾走を続けています。遺伝子は進化を始めるときも終わるときも、獲得形質の先行進化に追随するのです。
  しかし、進化から脱落しても淘汰(とうた)されずに生き残ります。すでに適応値に達しているからです。したがって、進化の頂点の個体から、進化の底辺の個体まで、種の幅が求心性選択の許容範囲を大きく超えます。進化の方向は、多数に分かれています。進化の方向は種の、つまり求心性選択の中心に向かおうとするからです。混乱の極みになります。
  この時期に大規模な「適応放散」が行われます。
  加速進化の途中で分岐した種については、最適値についても変異しているため、加速進化の終了の位置は大きく異なります。
  個体の散らばり方が大きすぎるため、求心性選択が至る所で働き、種はいくつものグループに分かれます。
  分かれたグループが種になり求心性選択が、それぞれ働きます。
  形質と同様に疾走を続けていた主遺伝子も、ゆっくりと形質の位置に止まります。
  まだ、遺伝子では、種の分岐は行われていません。

確立期ってなに?

  求心性選択により性的隔離が起こります。
  分岐した種に不必要ではあるが邪魔でもない遺伝子(不用遺伝子)は、求心性選択やほかの淘汰(とうた)の対象にならないため、この不用遺伝子に発生した突然変異は蓄積し不用遺伝子は機能をなくしていきます。不用部分が、退化します。
種が(すみ分けによって)割り当てられた環境に即した獲得形質を取得していきます。
  やがて、遺伝子でも、ある形質とほかの形質の間が退化していき分岐していきます。
  徐々に、安定期に戻ります。