正則な素数 p に対して、
xp + yp = zp をみたす
0 ではない整数 x、y、z は存在しない
Z を整数全体の集合、C を複素数全体の集合とします。
p を奇素数とし、
ζ を Xp-1 + Xp-2 + ... + X + 1 = 0 の根の一つである、
C の元とします。
R = Z[ζ] を Z と ζ を含む C の最小の部分環とします。
Q(ζ) を Q と ζ を含む C の最小の部分体とすると、
Q(ζ) は R の商体となります。
Q(ζ) に含まれる代数的整数(最高次の係数が1の整数係数代数方程式の根)
(algebraic integer)の全体(これを Q(ζ) の整数環といいます)は
R に一致します。
Q(ζ) は R 加群となります。
Q(ζ) の R 部分加群 A が、γ∈Q(ζ)、γ≠0 が存在して
γA⊆R となるとき、A を R の分数イデアルといいます。
R の分数イデアル A, B の積を、{ab|a∈A, b∈B} で生成される
R 部分加群と定義すると、R の 0 でない分数イデアルの全体 I は
積に関して可換群になります。
P を 0 でない単項イデアル(1個の元で生成される分数イデアル)全体とすると、
P は I の部分群となります。
I の P による剰余類群 H = I/P を Q(ζ) のイデアル類群、
各剰余類を Q(ζ) のイデアル類と呼びます。
Q(ζ) のイデアル類群の個数(Hの位数) h を Q(ζ) の類数といいます。
類数 h は有限となります。
したがってイデアル類群 H は有限群で、
任意のイデアル類は h 乗すれば単項イデアル類 P となります。
Q(ζ) の任意の 0 でないイデアルは、h 乗すれば単項イデアルとなります。
定理
奇素数 p が Q(ζ) の類数を割らない(正則な素数という)とき、
p に対するフェルマーの大定理が成り立つ。
すなわち、
xp + yp = zp をみたす
0 ではない整数 x、y、z は存在しない。
証明
xp + yp = zp
(x,y,z は 0 ではない整数)とします。
x, yが互いに素ではないとき
x, y が素数 q で割り切れるとすると、z も q で割り切れ、
(x/q)p + (y/q)p = (z/q)p
となるので、
x, y, z よりそれぞれが小さい
x/q, y/q, z/q に対しても主張
((x')p + (y')p = (z')p を満たす)
が成り立っていることになります。
x, yが互いに素のとき
このとき x, z も互いに素となり、y, z も互いに素となります。
xp + yp = zp
なので、
(x + y)(x + yζ)(x + yζ2)…(x + yζp-1) = zp
となります。
したがって、
(R(x + y))(R(x + yζ))(R(x + yζ2))…(R(x + yζp-1)) = Rzp
となります。
I = R(x + y) + R(x + yζ)
とおくと、
y(1 - ζ) = (x + y) - (x - yζ) ∈ R(x + y) + R(x + yζ) = I
となって
x + yζm =
y(1 - ζm) = y(1 - ζ)(1 + ζ + ζ2 + … + ζm-1) ∈ I
(m = 1, 2, …)
となって
R(x + yζm) + R(x + yζn) ⊆ I
(m, n = 1, 2, …)
となります。
m > n (0 ≦ m < p, 0 ≦ n < p)とすると、
y(1 - ζm-n) = (x + yζm) - (x + yζn)
∈ R(x + yζm) + R(x + yζn)
p は素数なので、i(m-n) + jp = 1 となる i, j が存在します。
よって
y(1 - ζ) = y(1 - ζi(m-n) + jp) = y(1 - ζi(m-n))
= y(1 - ζm-n)(1 + ζ + ζ2 + … + ζi-1)
∈ R(x + yζm) + R(x + yζn)
y(1 - ζk)
= y(1 - ζ)(1 + ζ + ζ2 + … + ζk-1)
∈ R(x + yζm) + R(x + yζn)
(k = 1, 2, …)
となって
x + y = (x + yζm) - y(1 - ζm)
∈ R(x + yζm) + R(x + yζn)
x + yζ = (x + y) - y(1 - ζ)
∈ R(x + yζm) + R(x + yζn)
となって
I = R(x + y) + R(x + yζ) ⊆ R(x + yζm) + R(x + yζn)
となります。
したがって
I = R(x + yζm) + R(x + yζn)
となります。
I = R(x + y) + R(x + yζ) = R(x + y) + R(y(1 - ζ))
⊇ R((x + y)(1 - ζ)) + R(y(1 - ζ))
= R(x(1 - ζ)) + R(y(1 - ζ)) = (Rx + Ry)(R(1 - ζ)) = R(1 - ζ)
となります。
R(1 - ζ) ⊆ I とすると、
R(1 - ζ) = IJ となる R のイデアル J が存在します。
R(1 - ζ) ≠ I とすると x ∈ I - R(1 - ζ) が存在します。
y ∈ J - R(1 - ζ) をとると、xy ∈ IJ = R(1 - ζ) となります。
x = a0 + a1ζ + a2ζ2 + …
+ ap-1ζp-1,
y = b0 + b1ζ + b2ζ2 + …
+ bp-1ζp-1
(a0、a1 …、ap-1,
b0、b1 …、bp-1 は Z の元)とします。
xy ∈ R(1 - ζ) なので、
(a0 + a1 + a2 + … + ap-1)
(b0 + b1 + b2 + … + bp-1)
∈ R(1 - ζ) となります。
x' = a0 + a1 + a2 + … + ap-1,
y' = b0 + b1 + b2 + … + bp-1
とおきます。
x'y' =
(c0 + c1ζ + c2ζ2 + …
+ cp-1ζp-1)(1 - ζ) =
c0 + (c1 - c0)ζ + (c2 - c1)ζ2 + …
+ (cp-1 - cp-2)ζp-1 - cp-1
となる Z の元
c0、c1 …、cp-1
が存在します。
c1 - c0 = c2 - c1 =
cp-1 - cp-2
となるので、
n = c1 - c0 とおくと
ci = c0 + in (i = 1, … , p-1) となります。
したがって
x'y' =
c0 + nζ + nζ2 + … + nζp-1 - (c0 + (p-1)n)
(nζ + nζ2 + … + nζp-1) - (p-1)n
= -n - (p-1)n = -pn
となって、x'y' が p で割り切れるのて、x' が p で割り切れるか、y' が p で割り切れます。
よって、x' ∈ Rp または y' ∈ Rp となり、
x' ∈ R(1 - ζ) または y' ∈ R(1 - ζ) となるので、
x ∈ R(1 - ζ) または y ∈ R(1 - ζ) となります。
x は R(1 - ζ) に含まれないので y ∈ R(1 - ζ) となります。
よって J = R(1 - ζ) となり、
IR(1 - ζ) = R(1 - ζ) となるので、I = R となります。
よって I = R または I = R(1 - ζ) となります。
以上のことから R(1 - ζ) は極大イデアルということがわかります。
x, y, z のどれも p で割り切れないとき
R(x + y)(x + ζy)…(x + ζp-1y) = Rzp
となるので I = R(1 - ζ) とすると、
Rzp = R(x + y)(x + ζy)…(x + ζp-1y) ⊆ R(x + y)
⊆ I = R(1 - ζ)
となって
zp ∈ Z∩R(1 - ζ) ⊆ Rp
となって z が p で割り切れます。
したがって
R(x + y) + R(x + yζ) = R
となります。
よって、
R(x + yζ) = Ap となる R のイデアル A が存在します
(証明)。
定理の仮定より、
A = Rα となる α∈R が存在します
(証明)。
よって x + yζ = εαp となる単数 ε が存在します。
複素共役をとって、
x + yζ-1 = ε~α~p となります。
ε = ζrε~ となる r が存在するので
(証明)
x + yζ-1 + Rp
= ε~α~p + Rp
= ζ-rεα~p + Rp
= ζ-rεαp + Rp
= ζ-r(x + ζy) + Rp
となり、
(ζr - 1)x + (ζr-1 - ζ)y ∈ Rp
となります。
r = 0 のとき、
(ζ-1 - ζ)y ∈ Rp,
(ζ2 - 1)y ∈ Rp,
R(ζ - 1)y ⊆ Rp = R(ζ - 1)p-1
となって、p≧3 なので
Ry ⊆ R(ζ - 1)p-2 ⊆ R(ζ - 1),
y ∈ Z∩R(ζ - 1) ⊆ Rp
となって、y が p で割り切れないことに矛盾となります。
r = 1 のとき、
(ζ - 1)x + (1 - ζ)y ∈ Rp,
(ζ - 1)(x - y) ∈ Rp,
R(ζ - 1)(x - y) ⊆ Rp = R(ζ - 1)p-1
となって、p≧3 なので
R(x - y) ⊆ R(ζ - 1)p-2 ⊆ R(ζ - 1),
x - y ∈ Z∩R(ζ - 1) ⊆ Rp
となります。
λ = ζ - 1 とおくと、(ζr - 1)x + (ζr-1 - ζ)y ∈ Rp
より、
ζ = λ + 1 を代入すると、
((λ+1)r - 1)x + ((λ+1)r-1 - (λ+1))y ∈ Rp,
xλr + (rx + y)λr-1 + … ∈ Rp
となります。
anλn + an-1λn-1 + …
+ a0 ∈ Rp
(a0, …, an ∈ Z)
とすると、λn-1 をかけると
a0λn-1 ∈ Rp = Rλp-1
となって、
a0 ∈ Z∩Rλ ⊆ Rp,
anλn + an-1λn-1 + …
+ a1λ ∈ Rp
となります。
これを繰り返して an ∈ Rp となります。
1 < r < p - 1 のとき、
λr が最高次となり
x ∈ Rp
となって、x が p で割り切れないことに矛盾となります。
r = p - 1 のとき、
rx + y ∈ Rp,
x - y ∈ Rp
となります。
x - y ∈ Rp のとき、
同様に、
xp + (-z)p = (-y)p
となるので、
x - (-z) ∈ Rp
となります。
xp - x ∈ Rp
であるから、y = x + pa、-z = x + pb とおくと
xp + yp = zp
より
xp + (x + pa)p + (x + pb)p
= xp + yp - zp = 0
となって
3xp ∈ Rp2
となり、
x ∈ Rp となって、
x が p で割り切れないことに矛盾となります。
x, y, z のどれかが p で割り切れるとき
x, y, z を入れ替えて、z が p で割り切れるとします。
z = pkw (w は p で割り切れない)となる k が存在し、
k ≧ 1 となります。
zp = pkpwp
∈ R(1 - ζ)kp(p-1)wp となって
R(x + y)(x + ζy)…(x + ζp-1y) = Rzp
であることより
R(x + y)(x + ζy)…(x + ζp-1y) ⊆ Rc,
c ∈ R(1 - ζ)ep - R(1 - ζ)ep+1, e ≧ 1
となり R(1 - ζ) は素イデアルなので
ある i に対して x + ζiy ∈ R(1 - ζ) となります。
他の j に対しては
x + ζjy
= (x + ζiy) + ζi(ζj-i - 1)y
∈ R(1 - ζ)
となります。
したがって R(x + y) + R(x + yζ) ⊆ R(1 - ζ) となり、
R(x + y) + R(x + yζ) = R(1 - ζ) となります。
λ = ζ - 1 とおいて、
x + y ∈ a0 + a1λ + Rλ2,
y ∈ b0 + b1λ + Rλ2
(a0, a1, b0, b1 ∈ Z)
とすると
x + ζjy = (x + y) + (ζj - 1)y
∈ (a0 + a1λ)
+ ((λ + 1)j - 1)(b0 + b1λ) + Rλ2
= (a0 + a1λ)
+ jλ(b0 + b1λ) + Rλ2
= a0 + (a1 + jb0)λ + Rλ2
となり
x + ζjy ∈ Rλ
なので
a0 ∈ Z∩Rλ ⊆ Rp となります。
したがって
x + ζjy ∈
(a1 + jb0)λ + Rλ2
となります。
y ∈ Rλ ではないことから、b0 ∈ Rλ ではないので
mb0 + np = 1 となる整数 m, n が存在し、
i = - ma1 とおくと
a1 + ib0
= a1 - ma1b0
= a1 + (np - 1)a1
= npa1 ∈ Rp
となります。
よって、ある i に対して x + ζiy ∈ Rλ2
で、その他の j に対しては
x + ζjy ∈ Rλ - Rλ2
となります。
したがって
e ≧ 2、
x + ζiy ∈ R(1 - ζ)(e-1)p - R(1 - ζ)(e-1)p+1
となります。
また、任意の j, k (j≠k)に対して
R(x + ζjy)/λ + R(x + ζky)/λ = R
となります。
よって、任意の j に対して
R(x + ζjy)/λ = Ajp となる R のイデアル Aj が存在します
(証明)。
定理の仮定より Aj = Rαj となる αj∈R が存在します
(証明)。
(x + ζi+1y) + ζ(x + ζi-1y)
= (ζ + 1)(x + ζiy)
であることより
εi+1λαi+1p
+ εi-1ζλαi-1p
∈ Rλp
となるので
ε = εi-1ζ/εi+1 とおくと
αi+1p
+ εαi-1p
∈ Rλp-1 = Rp
となります。
任意の α∈R に対して α~ を α の複素共役とすると、
α - α~ ∈ Rp となります。
したがって
αi+1p
+ ε~αi-1p
∈ Rp
となります。
ε~ = ζrε となる r が存在するので
(証明)
αi+1p
+ ζrεαi-1p
∈ Rp
となり、
(ζr - 1)αi-1p
∈ Rp
となって、αi-1 は ζ - 1 で割り切れないことから
ζr - 1 ∈ Rp
となり、r = 0、ε = ε~、ε = ±1 となります。
α = αi+1、β = ±αi-1、γ = αi、
f = e - 1 とおくと、
αp + βp ⊆ Rγp,
γp ∈ R(1 - ζ)fp - R(1 - ζ)fp+1, f ≧ 1
となります。これを繰り返すと、f = 1 となって矛盾となります。
参考文献
-
足立恒雄著, フェルマーの大定理(第3版), 日本評論社, 1996.