帰納法
帰納法の例(自然数)
項の定義
V を可算無限個の変数の集合、F = {0, '}とします。
項 T(F, V) は以下の条件を満たす最小の集合とします。
- x∈V ⇒ x∈T(F, V)
- 0∈T(F, V)
- x∈T(F, V) ⇒ x'∈T(F, V)
+ の定義
+: T(F, V)×T(F, V)→T(F, V) を以下のように定義します。
(これは自然数の加法の意味になります。)
- x + 0 = x
- x + y' = (x + y)'
0 + x = x の証明
このとき
0 + x = x が任意の
x∈T(F)={0, 0', 0'', …} に対して成り立っていることを証明します。
そのためには、
- 0 + 0 = 0
- 0 + x = x ⇒ 0 + x' = x'
が成り立っていることを証明すれば十分です。
これは以下のように示すことができます。
- [ 0 + 0 = 0 ] ← [ 0 = 0 ]
- [ 0 + x' = x' ] ← [ (0 + x)' = x' ] ← [ 0 + x = x ]
(x + y) + z = x + (y + z) の証明
次に
(x + y) + z = x + (y + z)
が任意の
x∈T(F)={0, 0', 0'', …} に対して成り立っていることを証明します。
これは以下のように示すことができます。
- [ (x + y) + 0 = x + (y + 0) ] ← [ x + y = x + y ]
- [ (x + y) + z' = x + (y + z') ] ← [ ((x + y) + z)' = x + (y + z)' ]
← [ ((x + y) + z)' = (x + (y + z))' ] ← [ (x + y) + z = x + (y + z) ]
証明の別の方法
s: N×T(F, V)→T(F, V) を
- s(0, x) = x
- s(n + 1, x) = s(n, x)'
と定義すると、+ の定義より
x + s(n, y) = s(n, x + y) が成り立つので
- x + s(n, y) = s(n, x + y) ⇒ 0 + s(n, 0) = s(n, 0 + 0) ⇒ 0 + s(n, 0) = s(n, 0)
⇒ 0 + x = x
- x + s(n, y) = s(n, x + y) ⇒ (x + y) + s(n, 0) = s(n, (x + y) + 0)
⇒ (x + y) + s(n, 0) = s(n, x + y)
⇒ (x + y) + s(n, 0) = x + s(n, y)
⇒ (x + y) + s(n, 0) = x + s(n, y + 0)
⇒ (x + y) + s(n, 0) = x + (y + s(n, 0))
⇒ (x + y) + z = x + (y + z)
となって、0 + x = x, (x + y) + z = x + (y + z) を証明することができます。
(この方法で証明をやってみることができます)
帰納法の例(群1)
X を以下の条件をみたす写像 ': X→X, sol: N×X→Boolean,
0∈X と順序関係 ≦ がある集合とします。
(≦は群の部分群の間の包含関係の意味になります。)
- 0≦x
- x≦y ⇒ x'≦y'
- sol(0, x) ⇔ x≦0
- sol(n + 1, x) ⇔ sol(n, x')
このとき
sol(n, x) ∧ y≦x ⇒ sol(n, y)
が任意の
n∈N に対して成り立っていることを証明します。
(これは可解群の部分群が可解であるという意味になります。)
そのためには、
- x≦0 ∧ y≦x ⇒ y≦0
- [ sol(n, x) ∧ y≦x ⇒ sol(n, y) ]
⇒ [ sol(n + 1, x) ∧ y≦x ⇒ sol(n + 1, y) ]
が成り立っていることを証明すれば十分です。
これは以下のように示すことができます。
- [ x≦0 ∧ y≦x ⇒ y≦0 ]
- [ sol(n + 1, x) ∧ y≦x ⇒ sol(n + 1, y) ]
← [ sol(n, x') ∧ y≦x ⇒ sol(n, y') ]
← [ sol(n, x') ∧ y'≦x' ⇒ sol(n, y') ]
この結果は以下の方法で証明することもできます。
d: N×X→X を
- d(0, x) = 0
- d(n + 1, x) = d(n, x)'
と定義すると、', sol の定義より
- x≦y ⇒ d(n, x)≦d(n, y)
- sol(n, x) ⇔ sol(0, d(n, x))
が成り立つので
- sol(n, x) ∧ y≦x
⇒ sol(0, d(n, x)) ∧ d(n, x)≦d(n, y)
⇒ d(n, x)≦0 ∧ d(n, x)≦d(n, y)
⇒ d(n, y)≦0
⇒ sol(0, d(n, y))
⇒ sol(n, y)
が成り立ちます。
帰納法の例(群2)
X を以下の条件をみたす写像 -: X→X, +: X×X→X, inn: X×X→X,
0∈X と順序関係 ≦ がある集合とします。
(≦は群の部分集合の間の包含関係の意味になります。)
- inn(-x, y)≦-inn(x, y)
- inn(x + y, z)≦inn(x, z) + inn(y, z)
gr: N×X→X を
- gr(0, x) = x
- gr(n + 1, x) = gr(n, x) ∪ -gr(n, x) ∪ gr(n, x)+gr(n, x)
とすると
- inn(gr(0, x), y) ≦ gr(0, inn(x, y))
- inn(gr(n, x), y) ≦ gr(n, inn(x, y))
⇒ inn(gr(n+1, x), y) ≦ gr(n+1, inn(x, y))
となるので
inn(gr(n, x), y) ≦ gr(n, inn(x, y))
が成り立ちます。
(これは群 G の部分集合 H, K に対して
<H>K⊆<HK>が成り立つという意味になります。
このことから HG⊆G ならば H は G の正規部分群になるということを
示すことができます。)
帰納法の例(リー代数)
X を以下の条件をみたす写像 +: X×X→X, [,]: X×X→X,
0∈X と順序関係 ≦ がある集合とします。
(≦はリー代数の部分ベクトル空間の間の包含関係の意味になります。)
- 0≦x
- [[x, y], z]≦[[x, z], y]+[x, [y, z]]
- x + y = y + x
- (x + y) + z = x + (y + z)
inn: X×N×X→X を
- inn(x, 0, y) = x
- inn(x, n + 1, y) = [inn(x, n, y), x]
とすると
- inn([inn(x, m, z), inn(x, n, z)], r+1, z)
≦inn([inn(x, m+1, z), inn(x, n, z)], r, z)
+inn([inn(x, m, z), inn(x, n+1, z)], r, z)
となるので
- inn([inn(x, m, z), inn(x, n, z)], r+k, z)
≦Σi+j=kinn([inn(x, m+i, z), inn(x, n+j, z)], r, z)
が成り立ちます。
y=Σ{x∈X|n∈N, inn(x, n, z)≦0}
とおくと [y, y]≦y となります。
(これはリー代数 L の部分ベクトル空間 H に対して
K={x∈L|[…[x, H]…H]=0 (何回かで0になる)} が部分代数になるという意味になります。)