準備
(ここの記述は文献2を参考にしています。)
集合
ものの集まりを集合(set)といいます。
例:
自然数全体の集合を N で表します。
N = {0, 1, 2, 3, … } のように書きます。
集合を構成しているものを元(element)といいます。
M を集合、a を M の元とするとき、a は M に属するといい、a∈M のように書きます。
属する元が一つもない集合を空集合(empty set)といい、{} のように書きます。
集合 N の元がすべて集合 M の元であるとき、
N は M の部分集合であるといい、N ⊆ M で表します。
とくに、N ⊆ M であって、M = N でないとき、 N⊂M のように書きます。
ある条件が成り立つ x 全体の集合を {x|x に関する条件} のように書きます。
(集合 M に属するある条件が成り立つ x 全体の集合を {x∈M|x に関する条件} のように書きます)
N の元ではない M の元全体の集合を M - N で表します。
(M - N = {x∈M|x は N の元ではない})
M と N の和集合を M∪N で、
共通部分を M∩N で表します。
(M∪N = {x|x∈M または x∈N}, M∩N = {x|x∈M かつ x∈N})
集合 M と N の元の組とは、(x, y) と書かれるもので、
(x, y) = (x', y') ⇔ x = x' かつ y = y' となるものとします。
M と N の元の組全体の集合 {(x, y)|x∈M, y∈N} を M と N の
直積集合といい M×N で表します。
写像
集合 M の各元に対して、集合 N の元がただ一つ対応する規則 f が定まっているとき、
この対応を M から N への写像(map または mapping)といい、
f: M → N で表します。
M の元 x に対応する元を f(x) で表し、
f による x の像(image)といいます。
N の部分集合 {f(x)|x∈M} を f による M の像といい、f(M) または Im(f) で表します。
N = f(M) となるとき、写像 f は全射(surjective)であるといいます。
f(x) = f(y) となるのは x = y のときに限るとき、
f は単射(injective)であるといいます。
全射であると同時に単射でもある写像は全単射(bijective)であるといいます。
M の恒等写像(identity map) idM: M∋x├→ x∈M は全単射写像になります。
写像 f: M → N が全単射写像であれば、N の任意の元 y について f(x) = y となる
元 x∈M が唯一つ存在します。
このとき、写像 N∋y├→ x∈M を f の逆写像といい、f-1 で表します。
写像 f: M → N と写像 g: N → P が与えられたとき、
写像 M∋x├→ g(f(x))∈P を f と g との合成写像(composed map)といい、
g・f で表します。
関係、同値関係
集合 R を集合 M×M の部分集合とします。
集合 R によって関係 〜 を定義することができます。
すなわち (x, y)∈R のとき、x〜y と書きます。
M の任意の元 x, y, z に対して、次の3条件が満たされる関係を
同値関係(equivalence relation)といいます。
- x〜x (反射律)
- x〜y ⇒ y〜x (対称律)
- x〜y, y〜z ⇒ x〜z (推移律)
M の元 x と同値な元全体の集合を x の属する同値類(equivalence class)といい、
x~ で表します。(x~ = {y∈M|y〜x})
このとき、x∈x~ だから、x~≠{} となります。
2つの同値類 x~ と y~ は一致するか共通部分を持ちません。
実際、x~∩y~≠{} ならば、z∈x~∩y~ が存在し、z〜x, z〜y となります。
対称律により、x〜z がわかるので、推移律により、x〜y となります。
任意の元 x'∈x~ をとると、x'〜x だから、
推移律により、x'〜y すなわち x'∈y~ が成立します。
これは、x~⊆y~ を意味します。
同様に y~⊆x~ も成立するので、x~ と y~ は一致します。
集合 M の同値関係 〜 による異なる同値類全体の集合を M/〜 で表し、
同値類集合、あるいは同値関係 〜 による商集合といいます。
自然な写像 φ:M∋x|→x~∈M/〜 が定義され、x〜y ⇔ φ(x)=φ(y) となります。
また、M を異なる同値類に分解することにより、
M を互いに共通部分のない部分集合に分割することができます。
代数系
集合 M に演算(2項演算の場合は、M×M から M への写像)が与えられているとき、
M は代数系(algebraic system)
と呼ばれます。
群
集合 G に演算・
(x・y を xy と書きます)
が定義されていて、
次の3条件が成り立っているとき、G は群(group)であるといいます。
-
(xy)z = x(yz) (結合法則)(associative law)
-
ある G の元 e が存在して、すべての G の元 x に対し
ex = xe = x が成り立つ。e を G の単位元という。
-
すべての G の元 x に対して、G の元 y が存在して
yx = xy = e
が成り立つ。
y を x の逆元といい、x-1 と書く。
群 G のすべての元 x、y に対して
xy = yx (交換法則)(commutative law)
が成り立つとき、G は可換群(commutative group)または
アーベル群(abelian group)といいます。
群の例
集合 M から M への全単射の全体は写像の合成を演算として群となります。
単位元は恒等写像、写像 f の逆元は f の逆写像となります。
M の元の個数が n のとき、n次の対称群といいます。
整数全体の集合 Z は、加法で群になります。
単位元は 0、x の逆元は -x になります。
自然数
N を {1, 2, …} という集合とします。
N の元は、
- 加法の交換法則: x + y = y + x
- 加法の結合法則: (x + y) + z = x + (y + z)
- 単位元の存在: x * 1 = x
- 分配法則1: x * (y + z) = (x * y) + (x * z)
- 分配法則2: (x + y) * z = (x * z) + (y * z)
- 乗法の交換法則: x * y = y * x
- 乗法の結合法則: (x * y) * z = x * (y * z)
を満たします。
(ここで、+ は自然数の加法、* は自然数の乗法を表します)
X を N に含まれないものとします。
すると {X} という集合を作ることができ、
N と {X} の和集合を作ることができます。
これを P0 とおきます。
(以下では、(+, x, y)、(*, x, y) の「+」、「*」は、P0 に
含まれない異なるものとします。)
P0 の元に演算 + ができるようにしたいので、
P0+ を (+, x, y) という組(x, y∈P0)の全体とし、
x, y∈P0 に対して x + y = (+, x, y) と定義します。
また、P0 の元に演算 * ができるようにしたいので、
P0* を (*, x, y) という組(x, y∈P0)の全体とし、
x, y∈P0 に対して x * y = (*, x, y) と定義します。
P0 と P0+ と P0* の和集合を P1
とおきます。
P1 の元には、演算 +, * が定義されていないものがあります。
そこで P0 の元に演算 + ができるようにするため、
P1+ を (+, x, y) という組(x, y∈P1)の全体とし、
x, y∈P1 に対して x + y = (+, x, y) と定義します。
また、P1 の元に演算 * ができるようにするため、
P0* を (*, x, y) という組(x, y∈P1)の全体とし、
x, y∈P1 に対して x * y = (*, x, y) と定義します。
P1 と P1+ と P1* の和集合を P2
とおきます。
これを繰り返して、P3、P4、…を作って、
それらの全部の和集合を P とおきます。
こうすると、P の元には演算 +, * が定義されています。
P に次の関係 〜 を定義します。
- 加法の交換法則: x + y 〜 y + x
- 加法の結合法則: (x + y) + z 〜 x + (y + z)
- 単位元の存在: x * 1 〜 x
- 分配法則1: x * (y + z) 〜 (x * y) + (x * z)
- 分配法則2: (x + y) * z 〜 (x * z) + (y * z)
- 乗法の交換法則: x * y 〜 y * x
- 乗法の結合法則: (x * y) * z 〜 x * (y * z)
R0 = {(x, y)∈P×P|x〜yまたはx=y} とおきます。
R1 = {(x, y)∈P×P|(y, x)∈R0、または、
(x, z)∈R0, (z, y)∈R0を満たすPの元zが存在する} とおきます。
さらに
R2 = {(x, y)∈P×P|(y, x)∈R1、または、
(x, z)∈R1, (z, y)∈R1を満たすPの元zが存在する} とおきます。
これを繰り返して、R3、R4、…を作って、
それらの全部の和集合を R' とおきます。
x≡y ⇔ (x, y)∈R' で決まる関係 ≡ は同値関係となります。
Q = P/≡ とおき、N の元とその同値類、X と X の同値類を同一視すると、
Q は N と X を含み、演算 +, * が定義されていて
- 加法の交換法則: x + y = y + x
- 加法の結合法則: (x + y) + z = x + (y + z)
- 単位元の存在: x * 1 = x
- 分配法則1: x * (y + z) = (x * y) + (x * z)
- 分配法則2: (x + y) * z = (x * z) + (y * z)
- 乗法の交換法則: x * y = y * x
- 乗法の結合法則: (x * y) * z = x * (y * z)
を満たすものになります。
この関係に X + x 〜 x, X * X 〜 X を追加して、同じように定義すると、
Q は、演算 +, * が定義されていて
x∈N∪{X} に対して
- X + x = x + X = x
- X * x = x * X = X
を満たすものになります。
((証明)
X + x = x は追加した関係から、
X + x = x + X は加法の交換法則から、
X * x = x * X は乗法の交換法則から、
X * 1 = X 単位元の存在から分かります。
X * x = X と仮定すると、
X * (x + 1) = (X * x) + X = X + X = X となることから、
x∈N に対して X * x = X となります。
X * X = X は追加した関係から分かるので、
x∈N∪{X} に対して X * x = X となります。)
よって Q = N∪{X} となります。
X を 0 と書き、Q = {0, 1, 2, …} を N と書きます。
整数
N の元 x, y に対して、x = y + z となる N の元 z は存在しないことがあります。
これでは不便なので、上の方法と同じように、N を含む新しい集合を定義して、
その集合の中では、上の z のような元が必ず存在するようにすることを考えます。
方法1
上の方法と同様に、N に、N に含まれない元 X を付け加えます。
関係 〜 は、上の1〜7の関係と X + 1 〜 0 として同じように定義すると、
Q は、演算 +, * が定義されていて
- 反元の存在: 任意の Q の元 x に対して x + y = y + x = 0 を満たす Q の元 y が存在します。
y が存在するとき、y' も x + y' = y' + x = 0 を満たすとすると、
y = y + 0 = y + (x + y') = (y + x) + y' = 0 + y' = y' となるので、このような y は
一意的となります。
この y を -x と書きます。
- -0 = 0
(証明) 0 + 0 = 0 から分かります。
- -1 = X
(証明) X + 1 = 0 から分かります。
- -(x + 1) = (-x) + X (x = 1, 2, …)
(証明) ((-x) + X) + (x + 1) = ((-x) + x) + (X + 1) = 0 から分かります。
- 減法の性質: 演算 - を、x - y = x + (-y) と定義すると、
x - y = z ⇔ x = y + z となります。
(証明) x - y = z とします。x + (-y) = z なので、x = x + (-y) + y = y + z と
なります。逆に x = y + z とすると、x - y = x + (-y) = y + z + (-y) = z となります。
を満たすものになります。
この Q を Z と書きます。
-x について以下のことが成り立ちます。
- -(-x) = x
(証明) x + (-x) = 0 から分かります。
- -x = x * X
(証明) (x * X) + x = x * (X + 1) = x * 0 = 0 から分かります。
- x * (-y) = -(x * y)
(証明) (x * (-y)) + (x * y) = x * ((-y) + y) = x * 0 = 0 から分かります。
- (-x) * (-y) = x * y
(証明) ((-x) * (-y)) = -((-x) * y) = -(-(x * y)) = x * y から分かります。
方法2
上の方法と同様ですが、元 X を付け加えず、
演算 - を付け加えます。
関係 〜 は、上の1〜7の関係と x + (y - x) 〜 y, (x + y) - x 〜 y として同じように定義すると、
Q は、演算 +, *, - が定義されていて
- 反元の存在: 任意の Q の元 x に対して x + y = y + x = 0 を満たす Q の元 y が存在します。
y が存在するとき、y' も x + y' = y' + x = 0 を満たすとすると、
y = y + 0 = y + (x + y') = (y + x) + y' = 0 + y' = y' となるので、このような y は
一意的となります。
この y を -x と書きます。
- -0 = 0
(証明) 0 + 0 = 0 から分かります。
- -x = 0 - x
(証明) (0 - x) + x = 0 から分かります。
- 減法の性質: x - y = z ⇔ x = y + z となります。
(証明) x - y = z とします。x = (x - y) + y = y + z と
なります。逆に x = y + z とすると、x - y = (y + z) - y = z となります。
を満たすものになります。
-x について方法1と同様のことが成り立ちます。
方法3
上の方法と同様ですが、元 X を付け加えず、
単項演算 - を付け加えます。
関係 〜 は、上の1〜7の関係と (-x) + x 〜 0 として同じように定義すると、
Q は、2項演算 +, *, 単項演算 - が定義されていて
- 反元の存在: 任意の Q の元 x に対して x + y = y + x = 0 を満たす Q の元 y が存在します。
y が存在するとき、y' も x + y' = y' + x = 0 を満たすとすると、
y = y + 0 = y + (x + y') = (y + x) + y' = 0 + y' = y' となるので、このような y は
一意的となります。
この y を -x と書きます。(存在することは定義より分かります)
- 減法の性質: 演算 - を、x - y = x + (-y) と定義すると、
x - y = z ⇔ x = y + z となります。
(証明) x - y = z とします。x + (-y) = z なので、x = x + (-y) + y = y + z と
なります。逆に x = y + z とすると、x - y = x + (-y) = y + z + (-y) = z となります。
を満たすものになります。
-x について方法1と同様のことが成り立ちます。
有理数
Z の元 x, y に対して、x = y * z となる Z の元 z は存在しないことがあります。
これでは不便なので、上の方法と同じように、Z を含む新しい集合を定義して、
その集合の中では、y = 0 の場合を除いて上の z のような元が
必ず存在するようにすることを考えます。
上の方法と同様ですが、元 X を付け加えず、
Z の演算 +, -, * に演算 / を付け加えます。
関係 〜 は、上の1〜7の関係と x + (y - x) 〜 y, (x + y) - x 〜 y,
x * (y / x) 〜 y, (x * y) / x 〜 y,
として同じように定義すると、
Q は、演算 +, -, *, / が定義されていて
- 逆元の存在: 任意の 0 でない Q の元 x に対して x * y = y * x = 1 を満たす Q の元 y が存在します。
y が存在するとき、y' も x * y' = y' * x = 1 を満たすとすると、
y = y * 1 = y * (x * y') = (y * x) * y' = 1 * y' = y' となるので、このような y は
一意的となります。
この y を x-1 と書きます。
- 1-1 = 1
(証明) 1 * 1 = 1 から分かります。
- x-1 = 1 / x
(証明) (1 / x) * x = 1 から分かります。
- 除法の性質: x / y = z ⇔ x = y * z となります。
(証明) x / y = z とします。x = (x / y) * y = y * z となります。
逆に x = y * z とすると、x / y = (y * z) / y = z となります。
を満たすものになります。
この Q を Q と書きます。
複素数
実数 R (実数の定義は省略します)の元を係数とする2次方程式の根
となる R の元 z は存在しないことがあります。
これでは不便なので、上の方法と同じように、R を含む新しい集合を定義して、
その集合の中では、上の z のような元が必ず存在するようにすることを考えます。
上の方法と同様に、R に、R に含まれない元 X を付け加えます。
関係 〜 は、上の1〜7の関係と x + (y - x) 〜 y, (x + y) - x 〜 y,
x * (y / x) 〜 y, (x * y) / x 〜 y,
(X * X) + 1 〜 0 として同じように定義すると、
Q は、演算 +, -, *, / が定義されていて
- 任意の Q の元 x に対して y * y = x を満たす Q の元 y が存在します。
を満たすものになります。
Q には2次方程式の根は必ず存在するようになります。
この Q を C と書きます。
参考文献
-
彌永昌吉・有馬哲・浅枝陽著, 詳解代数入門, 東京図書, 1990.
-
酒井文雄著, 環と体の理論, 共立出版, 1997.