ユダヤ陰謀説のウソ
「ユダヤは世界を征服しようとしている」のウソ
「ユダヤ人」と呼ばれる人々は、世界中で、約1300万人。日本の人口から比べれば、わずかに約10分の1です。このユダヤ人の存在は、いつも人々の間に、様々な意味で話題をふりまいてきました。
2千年間におよぶ流浪、迫害、またナチによる大虐殺の記憶を乗り越えて、祖国を再建した民族。また、科学、医学、音楽、文学など様々な分野で多くの天才を輩出し、人類に貢献してきた民族。
ユダヤ人の印である「ダビデの星」
しかし一方では、シェークスピアのつくり出した架空のユダヤ人=ベニスの商人シャイロック以来、ユダヤ人は「強欲」「金権万能主義」といったレッテルも貼られてきました。
ユダヤ人を好奇や偏見の目で見る視線は、古くから存在していたようです。現在でも、国際的政治事件や経済変動などがあるたびに、「陰にはユダヤ人の陰謀がある」 などといった説が、まことしやかに囁かれます。
実際、「世界を陰であやつっているのは、ユダヤ人だ」とする説は、日本でも流行していますし、そうした「ユダヤの陰謀」を書いた本がベストセラーになってしまう、といった有り様です。
しかしこうした「ユダヤ陰謀説」には、はたして根拠があるのでしょうか。
国際化や情報化の進んだ今日でも、日本では、ユダヤ人は相変わらず「謎の民族」と思われています。私たちはユダヤ人の実像を、よく知らなければならないでしょう。
ユダヤ人は南王国ユダの子孫
私たちはまず、ユダヤ人とはそもそも何なのか、ということから見ていきましょう。
「ユダヤ人」に関連して、「イスラエル人」とか「ヘブル人」といった言葉もありますが、これら3つの言葉の違いから見ていきましょう。
聖書の中に「ユダヤ人」「イスラエル人」「ヘブル人」という3つの言葉が出てきますが、これらは同じ民族をさしています。しかし厳密に言うと、次のような違いがあります。
まず「ヘブル人」とは、B.C.2千数百年頃、ノアの子セムの子孫の中に、エベルという人が生まれました(創世10:21)。このエベルの子孫が、いわゆる「ヘブル人」です。
聖書に出てくる有名なアブラハム、イサク、ヤコブなどの人々は、「ヘブル人」だったわけです。
さて、ヘブル人の一人ヤコブは、聖書によると神の命令を受けて、のちに自分の名を「イスラエル」と改名しました。このヤコブ、つまりイスラエルの子孫が、「イスラエル人」です。
つぎに「ユダヤ人」です。
イスラエル人は、B.C.15世紀から「カナンの地」 (今のパレスチナ) で勢力をのばし、B.C.10世紀にソロモン王の時代になると、中東一帯を支配する大きな王国をつくりました。
しかしソロモンが死ぬと、王国は南北に分裂、北王国イスラエルと南王国ユダとに分断されました。
北王国イスラエルには、イスラエルの12部族中10部族がつき、南王国ユダには2部族=ユダ族とベニヤミン族がつきました。
旧約聖書の中では、北王国イスラエルは単に「イスラエル」、南王国ユダは単に「ユダ」とも呼ばれています。
北王国イスラエルは、B.C.8世紀にアッシリア帝国に征服され、民は捕囚となって連れ去られていきました。彼らは、再びパレスチナの地に帰ってくることはありませんでした。
南王国ユダもB.C.6世紀にバビロン帝国(新バビロニア帝国)によって征服され、民は捕囚となって連れ去られました。
しかしバビロン帝国が滅びると、南王国ユダの人々は、エルサレムに帰ることを許されました。
アインシュタインはユダヤ人である
彼らは帰還して祖国を再建しました。この南王国ユダの人々が、いわゆる「ユダヤ人」なのです。このユダヤ人の中に、紀元頃、イエス・キリストがお生まれになりました。
その後ユダヤ人の中に、当時の地中海世界の征服者であったローマ帝国に対する反乱がおきました。ローマ軍はそれを鎮圧するためにエルサレムに乗り込んできて、ユダヤ人の多くを殺しました。
生き残ったユダヤ人も、世界中に離散。彼らは祖国を失い、流浪の民となりました。A.D.70年のことです。
その後、彼らは20世紀に至るまで、世界中を放浪していました。ふつうなら、それらの地で他民族の中に溶け込んで、消滅してしまうところです。
しかしユダヤ人は、自分の民族の独自性を失うことなく、やがて19世紀頃から世界中から集まり始め、ついに1948年、祖国を再建しました。
国連の認知のもとに、パレスチナに「イスラエル共和国」の独立を宣言したのです。
キッシンジャー元米国務長官もユダヤ人
2千年も祖国を失っていた民族が祖国を再建したなどということは、前代未聞のことでした。
このことは、著名な歴史学者アーノルド・トインビー博士に、
「ユダヤ人が現在、存在すること自体が、奇跡である」
と言わせました。
血筋によるユダヤ人と宗教によるユダヤ人
このように聖書の中では、「ヘブル」人はエベルの子孫、「イスラエル人」はヤコブ(イスラエル)の子孫、「ユダヤ人」は南王国ユダの人々とその子孫ということになります。
しかしこれだけでは、「ユダヤ人」の完全な定義にはなりません。今日の「ユダヤ人」を定義すると、次のようになります。
第1に、ユダヤ人女性から生まれた人々は、自動的にユダヤ人です。
たとえば、ユダヤ人女性と非ユダヤ人男性とが結婚して子が生まれたら、その子はユダヤ人です。母がユダヤ人なら、子はユダヤ人なのです。
さらに、生まれた子が女の子だとして、その女の子がまた非ユダヤ人男性と結婚し、子が生まれたとしましょう。するとその子は、やはりユダヤ人です。母系でユダヤ人の血が継承されていれば、ユダヤ人として認められるわけです。
つぎに第2の定義ですが、ユダヤ教に改宗した人々を、ユダヤ人といいます。
ユダヤ教という宗教は、ユダヤ人の生活全体を規定するもので、ユダヤ人のアイデンティティ(同一性)そのものです。ですからユダヤ教の信奉者は、ユダヤ人とみなされるのです。
ただし、ユダヤ教に改宗するのは、簡単なことではありません。日本の新興宗教のように、簡単に出たり入ったりすることは出来ません。
ユダヤ教に改宗するには、まず様々な宗教上の律法を学ばなければなりません。さらにヘブル語を、マスターしなければなりません。
その後試験があり、試験に合格しても、1年間の猶予期間があります。その間、律法をきちんと守っているかなどを審査されます。
うまくパスすれば、神との契約をあらわす「割礼」という儀式をした上で、正式にユダヤ人となります。つまり、血筋的にはもともとユダヤ人でなくとも、宗教を通してユダヤ人になる場合があります。
ユダヤ教徒になれば、れっきとしたユダヤ人と認められるのです。この場合、宗教が血の違いを乗り越えているわけです。
今日アフリカのエチオピアには、一部にユダヤ人が住んでいますが、彼らは他のエチオピア人と変わらない黒人です。
しかし彼らがユダヤ人と呼ばれるのは、彼らがユダヤ教を、先祖代々守り続けてきたからなのです。このような具合ですから、ユダヤ人の身体的特徴は様々です。
エチオピア系のユダヤ人は、他のエチオピア人と全く区別できませんし、南インドに住んでいるユダヤ人も、身体的特徴は現地のインド人と全く同じです。
このように、血筋によるユダヤ人、および宗教によるユダヤ人――これら2つの定義が、ユダヤ人の最も重要な定義です。
しかしこれらの定義のほかにも、「本人がユダヤ人であると信じれば、その人はユダヤ人である」という定義も、実際にはイスラエルで用いられているようです。
というのは今日、ソ連国内では、反ユダヤ的な事件が数多く起こっています。
それでこのところ、ソ連からイスラエル共和国に移住してくるユダヤ人が増えているのですが、そうした中でイスラエルでは、「自分はユダヤ人である」と主張してやって来る人々を、全員受け入れているのが現状なのです。
実際のユダヤ人は、このように血筋的には様々です。ユダヤ人は、必ずしも全員がノアの子セムの子孫ではない、ということになります。
ノアの他の子――ハムやヤペテの子孫の中にも、ユダヤ人と呼ばれる人々がいます。
またセムを先祖とするユダヤ人でも、純粋にセムの血だけということではなく、混血によって他の血も混ざっている場合が少なくないのです。
ユダヤ人にはなぜ天才が多いのか
ユダヤ人の総人口の1300万人中、イスラエルに住んでいるユダヤ人は、420万人です。あとは他の国に住んでいますが、最も多いのがアメリカの570万人です。
アメリカのユダヤ人は、イスラエルのユダヤ人よりも多いわけです。つぎに多いのがソ連で、150万人。以下、フランス、イギリス、カナダ、アルゼンチン、ブラジルと続いています。日本には、短期滞在者を含めても、200〜300人くらいしかいません。
アメリカにユダヤ人が多いのは、アメリカは歴史的に、ユダヤ人に対する迫害が最も少ない国だったからです。
アメリカにも迫害がないわけではありませんが、他の国に比べると、はるかに少ないのです。
ユダヤ人は、科学、医学、経済、音楽、文学など様々な分野で、傑出した人材を出してきたことでも知られています。
たとえば今世紀のノーベル賞受賞者リスト
(1901〜1987年) を見ても、ユダヤ人は医学生理学賞に37人、物理学賞に27人、化学賞に16人、経済学賞に9人、文学賞に9人、平和賞に6人、合計なんと104人もの受賞者を出しています。
日本の人口の10分の1しかいない民族が、日本の10倍以上の受賞者を出しているわけです。
しかもその中には、アインシュタイン(物理学賞)、ボーア(同)、ベルグソン(文学賞)、キッシンジャー(平和賞)、ベギン(同)、サミュエルソン(経済学賞)、フリードマン(同)といった、そうそうたる顔ぶれが並んでいます。
そのほか、ノーベル賞受賞者以外にも、偉大な業績を残したユダヤ人が数多くいます。
音楽家メンデルスゾーン、マーラー、バーンスタイン、作家ハイネ、カフカ、思想家マルクス、スピノザ、フロイト、画家シャガール、モジリアニ、政治家ディズレーリー、トロツキーなどもみな、ユダヤ人です。
J.ロックフェラー、F.D.ルーズベルトなどはユダヤ人と噂されていますが、ユダヤ人ではありません。
なぜこんなにユダヤ人の中には優秀な人材が多いのか、というと、まずあげられるのがユダヤ人の向上心の強さでしょう。
つねに、しっかり勉強して世に出ていきたいという望みを、強く持っているのです。
偽書『シオン長老議定書』のフランス語大衆版(1934年頃)
ですからユダヤ人の母親は、大変な「教育ママ」です。「ジューイッシュ・マザー」と言えば、教育ママの代名詞のようなものです。教育熱心という点では、ユダヤ人の母は、日本の教育ママに似ています。
しかしなぜユダヤ人の母が教育熱心なのか、というと、その事情は日本とはかなり異なっています。
ユダヤ人は歴史的に、各地で迫害を受けてきました。ですから彼らは、つねに強く生きていく、ということを幼少から教えられます。
また、お金や不動産というものは当てにならない、学問や技術が最高の財産だ、という考えを強く持っているのです。
反ユダヤ主義者がつくった偽書『シオン長老議定書』
さて、何か国際的な事件や経済危機などがおこると、「これはユダヤ人たちの陰謀だ」という「ユダヤ陰謀説」が、まことしやかに囁かれます。
こうしたユダヤ陰謀説は、以前は欧米でも盛んに言われました。しかし最近、欧米でユダヤ陰謀説を唱える人々は、ひじょうに少数になってきています。
日本ではいまだに、ユダヤ陰謀説が流されていますが、これは世界の中でも奇異な現象と言えるでしょう。
ユダヤ陰謀説が語られる時、たいていその元とされるのが、『シオン長老の議定書』の存在です。この書が、ユダヤ人の抱く世界支配陰謀の「証拠」だというのです。
「ユダヤ人の長老が集まって立てた世界征服計画の記録」であるというその議定書は、19世紀後半に作られ、その後しだいに増補されました。
この書は20世紀初頭には、ロシアで、反ユダヤ主義をあおるために盛んに用いられました。またその後ナチス・ドイツによっても、ユダヤ人大量虐殺のための口実として利用されました。
ところがこの議定書は、全くの「偽書」だったのです。『シオン長老の議定書』はじつは、ロシアの秘密警察による創作でした。
それはフランス人作家モーリス・ジョリーが書いたナポレオン3世の世界征服陰謀説をもとに、ユダヤ人による陰謀説として、書き換えられたものなのです。
ロシアは昔から反ユダヤの風潮が強い所で、「ポグロム」と呼ばれるユダヤ人虐殺が、各地で起きていました。
議定書が生まれた時代はこのポグロムが最も頻発していた時代で、ロシアの反ユダヤ主義者が、ユダヤ人排斥のためにこの議定書を偽造したのです。
イギリスの有力紙『ザ・タイムズ』は1920年代に、この議定書がデマカセであることを、はっきりと暴露しました。
そのため次第にヨーロッパでは、第2次大戦以降、噴飯物(こっけいなもの)として扱われるようになりました。ところが他の地域では、困ったことに依然として、一種の「聖典」として扱われています。
議定書が反ユダヤ主義者たちの手による「偽書」であることは、N・コーン著『シオン賢者の議定書――ユダヤ人世界征服陰謀の神話』(内田樹訳、ダイナミックセラーズ)などにも、明らかにされています。
タルムードに対する誤解
もう一つ、反ユダヤ主義の根拠としてしばしば取り上げられるユダヤ教の聖典「タルムード」について、述べておきましょう。
タルムードとは、旧約聖書に並ぶユダヤ教の聖典です。その原本はヘブル語とアラム語で書かれ、B.C.500年頃からA.D.500年頃までの間に、編集されました。
タルムードは、250万語以上にのぼる膨大な知恵の集大成で、旧約聖書の30倍以上の分量があります。日本で全訳は出ていません。
タルムード全巻
内容は、数万人のラビ (ユダヤ教指導者) たちが多方面から知恵を出し合った討論、あるいは論争です。
このタルムードに関して、ある書物は、次のように書いています。
「ユダヤ教の根本教義『タルムード』には、『ユダヤ人だけが人間であって、他の民族はけだものである』 と述べられている。だから、たとえユダヤ人が異邦人を殺したとしても、罪に問われることはない。単に動物を殺したにすぎないとされる」。
こんな言説がまことしやかに述べられ、多くの日本人に読まれているのです。しかしこれを書いた人は、実際にはタルムードを読んだことすらありません。
タルムードは、現実にはこんなことは言っていません。タルムードはラビたちの議論なので、いろいろな事柄が書かれていますが、その結論、あるいは全体の精神は、全人類の平等なのです。
タルムードにはこう書かれています。
「全人類は、たった一つの先祖しか持っていない。だから、どの人間がどの人間よりもすぐれている、ということはない」。
またこう書かれています。
「隣人とつねに平和を求めよ。隣人を楽しい席に招け。どの国から来た者も、豊かな者も貧しい者も、同じく裸で生まれた。そして最後には同じく土に眠るのである」。
タルムードは、全人類を平等なものとして扱っているのです。ですからある有名なラビは、
「ユダヤ教の根本精神は何ですか」
と聞かれて、
「自分を愛するように、他の人を、どこの国の人であれ思いやることである」
と答えています。
全人類の平等がユダヤ教の精神であることは、聖書を知っている者なら、ちょっと考えただけでもわかるはずです。
ユダヤ教の根本教義はタルムードではなく、トーラー(モーセ五書=旧約聖書の最初の五巻)です。タルムードは、いわば「副読本」にすぎません。
トーラーの最初の書物『創世記』には、何と書いてあるでしょう。
神は最初にアダムをつくり、彼から人類のすべての民族をつくられた、と書いてあります。
神が最初に造られたのはユダヤ人で、他の民族はけだものであった、などとは書いてありません。
ですから、ユダヤ教のラビの一人で、日本で教鞭をとっていたこともあるV.M.ソロモン元上智大学教授は、こう言っています。
「ということは民族とか、血とかに関係なく、人間はみなアダムから出ており、人類はすべて兄弟である。黒人も白人も黄色人種も、背の高い者も低い者も、太った者もやせた者も、男も女も、皆ひとつの家族だということを教えている。・・・
私たちユダヤ人は、『タルムード』の時代から、『人類はみな兄弟である』と教えられてきた」。
間違いだらけのユダヤ陰謀説
在日イスラエル大使館のチーフ・インフォメーション・オフィサー滝川義人氏は、中東関係の本もよく出していますが、日本でのユダヤ陰謀説についてこう言っています。
「日本で噂された最近のユダヤ陰謀説を振り返ってみても、冷静に考えればいかに荒唐無稽なものかが分かる。
たとえば、1973年の第4次中東戦争の際の石油ショック。あの石油ショックが、石油メジャーを牛耳るユダヤの陰謀だと言われたことがある。
だが、これはまったくのデマで、当時アメリカの石油メジャーは、むしろ自分たちの利権があるアラブを支援しようと、新聞などで盛んにキャンペーンを展開していたものだ。
またユダヤは、金融メジャーや穀物メジャーを牛耳って価格を操作している、という説もある。これもまったくのデマ。
為替が円安に向かうと、円安はユダヤ資本の陰謀だと言うし、円高になってくると、今度は円高が陰謀だという。
ことごとく、そうした現象をユダヤ人と結びつけていく。・・・当然ながらその根拠を順序立てて説明して下さい、と言っても説明はない。
陰謀を企てるには、当然ながらカネがいる。だが、ユダヤ人たちが作りあげたアメリカの投資銀行は、すでに「ユダヤ資本」としての実態を失ってしまっている。
とてもじゃないが、石油ショックを起こしたり、円高・円安を為替相場で演出したりする力は、あるはずがない。
大体ユダヤ人は、大半が行商人から身を起こし、いろいろ事業を起こしていった。いわゆるアメリカのWASP(ホワイト、アングロサクソン、プロテスタント)を中心とした東部エスタブリッシュメントとは一線を画しており、ビッグビジネスの社長クラスなどにユダヤ人は少ないのである。
もともと、独立して自力で取り組む志向が強いから、学問とか芸術といった分野では主流派として活躍できるが、実業界・経済界では現在もマイノリティ(少数派)なのである。
したがってユダヤ人の手で、石油ショックやら通貨ショックを引き起こす力は、もちろんなかったし、ましてやユダヤ人が一致団結して、なにかユダヤ的な目的を実現するために陰謀をたくらむなどとは、およそ考えられないのだ」(『ユダヤはなぜ問題にされるのか』アイペックプレス)。
氏がこの中で、「ユダヤ人たちが作り上げたアメリカの投資銀行は、すでに「ユダヤ資本」としての実態を失ってしまっている」と述べているのは、次のようなことです。
19世紀に、ドイツからアメリカに渡ったユダヤ人の中には、金融界で成功した人々も出始めました。
たとえば、クーンレーブ、セリグマン、ゴールドマンサックス、リーマンブラザーズ、ワーブルグなどといった投資銀行が栄えました。
これらの投資銀行は、1930年代から第2次大戦頃までは、同族色の濃い銀行でした。
しかし最近では、ただそうした名前がついているだけで、経営幹部も実際に働いている従業員も、ユダヤ人はいてもせいぜい何割かだけで、もはや「ユダヤ資本」という実態ではないのです。
クーンレーブにしても、アメリカン・エクスプレスに買収されてしまい、現在では同族色はほとんど失われています。
ユダヤ資本というものは、巷で大げさに言われているほど、世界を牛耳ってはいないのです。
ヨーロッパでは、ロスチャイルド家のユダヤ資本が有名です。たしかに18世紀のイギリスの金融業者ネイサン・ロスチャイルドは、ワーテルローの戦いに臨む連合国政府を支援するほどの、大富豪でした。
しかし彼の成功は例外的なもので、一般にはヨーロッパのユダヤ人は、ひじょうに貧しい人が多かったのです。
「エノラ・ゲイ」は機長の母親の名
もう一つ,日本でしばしば見られる、ユダヤ人に対する誤解について述べておきましょう。日本ではときおり、次のようなことが言われます。
「日本に原爆を落としたB29には、『エノラ・ゲイ』という名前がつけられていた。これはイーデッシュ語という、東欧で用いられたユダヤ人の共通言語で、『天皇を屠殺せよ』という意味なのである」。
このような言説がまことしやかに述べられ、今も一部に、それを信じている人々がいます。しかしイーデッシュ語に、「エノラ・ゲイ」などという言葉はありません。
「エノラ・ゲイ」とは、何のことはない、同機のポール・チベッツ機長の母親の名前なのです。
それなのに、「エノラ・ゲイ」は、ユダヤ人が「天皇を屠殺さよ」という意味でつけた名前だというようなデマカセが、平気でまかり通るのが日本の評論界の特徴です。
原爆投下のため広島に向けて飛び立つB29「エノラ・ゲイ」。「エノラ・ゲイ」とは、手を振っているチベッツ機長の母親の名前である。
じつはこれを最初に言い出したのは、終戦直後の日本の反ユダヤ主義の軍人でした。それをいまだに真に受けている人がいるわけです。
これは日本人が、実際のユダヤ人社会をよく知らず、また噂を検証せずにすぐ受け入れてしまうことを、よく示しています。私たちは、軽率な反ユダヤ主義に気をつけなければなりません。
ユダヤ社会はたしかに、私たちから見ると特殊なものがありますが、私たちは理解と尊重をもってユダヤ人に接するべきでしょう。
久保有政著
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