人間が草食だった時代
人間が草食で、たくましい肉体を持つことは可能か。
聖書によると、人間は、創造されて間もないうちは、草食でした。当初、肉を食べることは許可されていなかったのです。
エデンの園で、神は人に言われました。
「見よ。わたしは、全地の上にあって、種を持つすべての草と、種を持って実を結ぶすべての木をあなたがたに与えた。それがあなたがたの食物となる。
また地のすべての獣、空のすべての鳥、地を這うすべてのもので、いのちの息のあるもののために、食物として草を与える」(創世一・二九〜三〇)。
エデンの園では、人も動物も、みな草食だったのです。しかし、人が罪を犯し、エデンから追放されてからは、肉食の習慣がしだいに広まっていったようです。
ノアの大洪水以後になると、肉食は公に許可されるようになりました。神は大洪水後に、ノアに言われました。
「生きて動いているものはみな、あなたがたの食物である。緑の草と同じように、すべてのものをあなたがたに与えた。しかし肉は、そのいのちである血のあるままで食べてはならない・・・・」(創世九・三〜四)。
こうして肉食は公に許可され、以来人間は、肉食も草食もする"雑食"となりました。
しかし、人間はかつて草食だったという聖書の記述は、科学的に見るとどうなのでしょうか。肉を食べず、植物だけを食べて、はたして人間は健康で強靭な肉体を維持することができたのでしょうか。
パプア・ニューギニア人のたくましい肉体の秘密
これに関して興味深いのは、未開のパプア・ニューギニア人の食生活と、彼らのたくましい肉体の関係です。
まずは、次ページの写真を見てください。これを見てわかるように、パプア・ニューギニア人の男性は、じつに筋骨たくましい肉体をしています。日本人なら、ボディビルにでも精を出さないと作れないような肉体美なのです。
パプア・ニューギニア人は、
ほとんどイモと野草だけの食事で、
この筋骨たくましい肉体をしている。
パプア・ニューギニア高地人の体格は、この写真の人たちに限らず、日本人と比べて、身長では劣るものの体重は同じくらい。胸囲は日本人よりやや大きく、体格的には筋骨体で、たくましい闘士型をしています。
これだけ体格が良ければ、きっと肉をしっかり食べているのだろう、と思いきや、彼らはほとんど肉や魚を食べません。
パプア・ニューギニア北部では、主食は、サゴヤシという樹木を切り倒してとるサゴヤシデンプン。それと一緒にタロイモや、ヤムイモ、バナナなどを食べます。魚やブタの干物を入れた汁を食べることもありますが、これはごく少量です。
さらに、これが高地になると、湿地に繁殖するサゴヤシもとれず、魚や肉もないので、いよいよ食事はイモ類一辺倒。一日一キロ以上のイモ類を食べ、肉や魚はほとんど食べません。
イモ類はおもにデンプン質で、タンパク質の含有量はわずかです。なのに、そればかり食べている彼らが、なぜこうも筋骨たくましいのでしょうか。
これだけ多くのイモを食べると、ヘンな話ですが、日本人ならオナラが出てしようがないでしょう。
実際、彼らの間でしばらく住んだある日本人は、オナラが出てしようがなくて、彼らに笑われたと言っています。しかし、彼ら自身は、オナラがほとんど出ないのです。
東大農学部の光岡知足教授によると、パプア・ニューギニア人の腸内細菌を調べてみた結果は、日本人とはかなり違った様子をしているとのことです。
彼らの腸内細菌の種類とそのバランスは、人間よりはウシに近いというのです。教授は、その腸内細菌が、彼らの体内にタンパク質をつくり出していると見ています。
植物は、"窒素固定菌"というものによって、空中の窒素を固定し、内に植物性タンパク質をつくり出しています。それと同じように、腸内細菌の中には、窒素固定を行なってタンパク質をつくり出すものがあるのです。
また、別の可能性も示唆されています。体内のアンモニアを利用して、タンパク質を合成している可能性です。光岡教授は言っています。
「ブタやウシなどは、体内の尿素から腸内細菌によってアンモニアを作り、それをさらにタンパク質へと作りかえていくのです。
パプア・ニューギニア人の糞便を培養して、そうしたアンモニア利用能を日本人と比較してみました。
すると、パプア・ニューギニア人は日本人の二倍くらいの高い数値を示しました。そこで、こうしたアンモニア利用によるタンパク質合成の可能性も、考えられるわけです」。
結論として、光岡教授はこう言っています。
「ひとつは、イモ自体からのタンパク質の摂取があるでしょう。これが五〇パーセントくらいを占めているはずです。残りを窒素固定菌によるタンパク質合成と、アンモニアの利用によるタンパク質合成とで補って、肉を食べずに筋肉質になれた」。
パプア・ニューギニア人のあの肉体美は、これら三つの要素によってつくり出されたようです。
長年の食生活に人間の体の方が適応する
パプア・ニューギニア人はこのように、ほとんど草食の生活をしながら、たくましい肉体を持つことができています。
しかし、これはパプア・ニューギニア人だけに限ったことではなく、長いことそのような食生活を続ければ、誰でも、やがてそうなれるものなのです。
人間は思いのほか、環境に対して融通がきくようです。たとえばパプア・ニューギニア人とは反対に、アラスカの極寒の地に住むエスキモーは、毎日肉ばかり食べて、野菜や果物をほとんど口にしません。
エスキモーは一頭のアザラシを殺すと、その各部分の肉を毎日、日替わりで食べます。今日はこの部分で、明日はあの部分、というようにして、内臓のあらゆる部分に至るまで、料理方法を変えながら食べていくのです。野菜や果物はないので、ほとんど食べません。
しかし彼らは、りっぱに健康を保っています。これは長年の食生活に、体のほうが適応しているからでしょう。
草食であれ、肉食であれ、特定の食生活を幼少の頃から続けていれば、体がそれに適応したものとなっていくのです。
こう考えると、エデンの園においてアダムとエバが草食でありながら、りっぱな肉体を持ち得たという聖書の記述は、何の矛盾もないことがわかります。
20世紀FOX映画「天地創造」に描かれたアダムとエバ
アダムとエバはまた、パプア・ニューギニア人とは違って、タンパク質の豊富な大豆等を食べることもできましたし、そのほか様々な種類の野菜や、果物、穀物を食べることができました。
ですから、こうした完全なベジタリアンでも、彼らはたくましい肉体を持つことができたのです。
――参考文献――
『人体スペシャルレポート』(Quark編)講談社ブルーバックス
久保有政著(レムナント1994年6月号より)
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