カルト対キリスト教
最近のカルト教団の増加は何を意味するか。

オウム真理教の麻原彰晃・教祖と、サリン製造工場と
断定された山梨県上九一色村の教団施設。

　カルト」(cult）という言葉は、もともとは異端とか、異教の意味で使われていました。
　しかし最近では、悪い宗教、邪教、にせ宗教等の意味で用いられるようになっています。とくに、反社会的行動に出る危険な特殊宗教集団が、「カルト」と呼ばれています（カルトと、オカルトは別の言葉です）。
　カルトの働きが近年、顕著になってきたことは何を意味するのでしょうか。


カルト教団・オウム真理教

　オウム真理教に対する大規模な捜査により、彼らが教祖の指令のもとに行なった数々の犯罪が、明らかになってきました。
　化学兵器サリンによる無差別殺人、大量殺人計画、拉致監禁、リンチ殺人、薬物投与、爆弾入り小包、国家転覆計画――犯罪史上、例を見ないこれらの凶悪犯罪が、なぜ現代において、しかも「宗教」の名のもとに行なわれたのでしょうか。
　「宗教」とは"本もとの教え"ということであり、本来、人生で最も大切な教えのはずです。いつの時代にも、偉大な宗教は人々の心の飢え渇きをいやし、愛と良い行ないに向かわせてきました。
　ところが現代に至って、人々の宗教心を利用して自分の野望を遂げようとする教祖たちが現われました。彼らの多くは自分を「神」と呼んだり、「キリスト」と呼んだり、「シャカの生まれ変わり」と呼んだりしています。
　これは彼らの教えが、「宗教」ではなく、カルト、すなわち邪教であることを示しているのです。
　オウム真理教の麻原彰晃・教祖も、自分を「神」と呼んだり「キリスト」と呼んだりしていました。自己の絶対化をはかったのです。
　こうした高慢、慢心は、サタン（悪魔）が持ったものと同様です。聖書はサタンの慢心について言っています。
　「あなたは心の中で言った。
　『私は天に上ろう。神の星々のはるか上に私の王座を上げ、北の果てにある会合の山にすわろう。密雲の頂に上り、いと高き方のようになろう』。
　しかし、あなたはよみに落とされ、穴の底に落とされる」（イザ一四・一三〜一五）。
　自己を神の座に置こうという思いは、サタンと同じであり、サタンから来るものです。これは結局、真の神からの激しい怒りを買うことになるでしょう。
　聖書は、世の終わりが間近になったとき、「自分を高く上げ、神の宮の中に座を設け、自分こそ神であると宣言する」（二テサ二・四）者が現われる、と予言しています。この人物は象徴的に「獣」と呼ばれ、世界を荒らしまわります。
　終末の独裁者「獣」は、自分を神と宣言する点で、巨大なカルト宗教の教祖になるわけです。彼は自己を絶対化して、そのカルト教義のもとに、様々な凶悪犯罪をおかすでしょう。
　現代に現われてきた高慢なカルト教祖たちは、この終末の「獣」の出現の序曲です。彼らは、最終的な「獣」を出現させるに至る、その前の"小獣"たちなのです。


世界のカルト教祖たち

　オウム真理教に限らず、いま世界各地で、高慢なカルト教祖たちが出現するようになりました。
　一九七八年には、カルト集団「人民寺院」の信者一〇〇〇人近くが、「ハルマゲドン」などを避けるために移住していた南米ガイアナの密林において、集団服毒自殺をはかりました。教祖のジム・ショーンズは、自分を「再臨のキリスト」と主張していました。

1978年、南米ガイアナで「人民寺院」の信者
1000人近くが、教祖の指導のもとに集団服毒自殺した。

　一九九三年になると、狂信的な新興宗教団体「ブランチ・デヴィディアン」が米テキサス州で篭城、ＦＢＩなどと銃撃戦を繰り広げた末、自ら火を放ち、七〇数人が集団自殺を遂げました。教祖デビッド・コレシュは、自分を神だと言っていました。
　同じ年、ベトナム北西部では、新興宗教の教祖の指示による少数民族の集団自殺事件が起こり、五三人が死亡。教祖カ・バン・リエンは、自ら「王」と名乗り、二〇〇〇年に大洪水が発生すると説いていました。
　ロシアでは、カルト教団「白い兄弟たち」が九三年一一月一四日に地球が滅びると明言、集団自殺を計画していました。が、多くの人がパニックになったため、教祖は逮捕されました。
　この教団は信徒に出家を促し、すべての財産を寄進させ、食事を制限し、歪曲された終末思想を持つ点で、オウム真理教に似ていました。
　翌一九九四年には、武器不法所持などの容疑で摘発されていた「太陽寺院教団」（本部カナダ）の信者五〇人以上が、スイスでやはり集団自殺。彼らも、歪曲された終末思想を説いていました。
　また現在でも、頻繁に社会とトラブルを起こし、危険視されている団体が数多くあります。
　「統一教会」（世界基督教統一神霊協会）の教祖・文鮮明が、八四年から八五年にかけて脱税および横領罪で米国の刑務所に服役したニュースは、日本でも報じられました。現在でも洗脳、霊感商法、合同結婚、信者の献金等をめぐる彼らのトラブルは続いています。
　アメリカの「世界勝利教会」（Church Universal and Triumphant）や「国際への道」（Way International）等も、信者たちが軍隊のような組織をつくり、武装しているため、カルトとして恐れられています。
　アメリカの「悪魔教会」では、性的行為を強要したり、血を飲ませたり、排泄物を食べさせたり、児童や幼児の監禁・虐待などが行なわれているといいます。
　日本にも約三〇〇〇人の信者がいる「ラエリアン・ムーブメント」は、フリーセックスで問題となっています。フランス人教祖ボリロン・ラエルは、自分は異星人エロヒムと地球人との間に生まれたと主張しています。


カルトは真の神の怒りを積み上げる

　このように、カルトにほぼ共通するのは、教祖の絶対化です。"にせの神"たちが、たくさん現われてきたのです。
　またカルトの歴史を見ると、集団自殺を遂げるなど、攻撃を内部に向けるものが多かったことに気づきます。
　これは私たちに、福音書のある記事を思い起こさせます。レギオンと呼ばれる狂人から出た悪霊たちが、一斉に豚の群れに入り、その豚たちが集団自殺したという記事です。
　「悪霊どもは、その人から出て豚に入った。すると豚の群れはいきなり、がけを駆け下って湖に入り、おぼれ死んだ」（ルカ八・三三）。
　まさに、カルトには悪霊が関与していると思わざるを得ません。
　さらに、今日悪霊たちは、攻撃を単に内部に向けるばかりでなく、外部にも向け始めています。オウム真理教の場合、彼らは攻撃を外部にも向け、無差別殺人を行なったり、警察や政府など国家権力に対して鉾先を向けてきました。
　彼らはまた、あまりに残酷でテロリストさえ使わなかった毒ガス・サリンを使うなど、誰も越えなかった一線を、ついに越えてしまいました。この意味で、彼らはカルトの歴史に、新しい一ページを切り開いてしまったのです。
　カルトは、ついに新しい悪の段階に入りました。
　この背景には、真の神を畏れる心が、人々の間でかなり希薄になってきたことがあると思われます。
　人々は今日、真の神を畏れることがないため、なかには自分を神とし、絶対化して、神の座を奪おうとする者たちが現われるのです。
　こうした現象は、ますます真の神の怒りを積み上げることになるでしょう。にせの神、にせキリスト、にせ救世主たちの存在は、大きな裁きを招かずにはおきません。
　多くの日本人は、仏教思想の影響からか、神には「怒り」というものがないように思っています。しかしこれは間違いです。真の神は、高ぶる者と悪とに怒りを示し、厳しい裁きを下されます。
　「まことに主は、正しい者の道を知っておられる。しかし、悪者の道は滅びうせる」（詩篇一・六）。
　カルトの存在は、聖書に記されたカナンの町々においても同様だったようです。イスラエル民族の指導者ヨシュアがカナンを攻略した当時、カナンの地には、「子どもを火の中に通らせてモレク神にささげる」（レビ一八・二一）というようなカルトが存在しました。

ヨシュアに滅ぼされる前のカナンの地は、
様々のカルト宗教に満ちていた。写真は、
カナンで発掘された、幼児の遺体を入れた壺。
この幼児たちは、偶像の神々に捧げられるために
犠牲にされ、神殿で殺された者たちである。

　ホモ・セックス、動物とのセックス等も、宗教の名のもとに行なわれていたようです（レビ一八・二二〜二三）。考古学者は、人柱（定礎犠牲）と呼ばれる恐るべき風習が行なわれていた事実も、発見しています。
　これは家を建てるとき、残りの家族に幸運をもたらすため、幼児を犠牲にし、身体を壁の中に塗り込めたというものです。
　同様なことは、火と硫黄とによって滅ぼされた、有名なソドムとゴモラの町々でも見られたに違いありません。「彼らの罪はきわめて重い」（創世一八・二〇）と言われたのは、単に通常の犯罪や不道徳が行なわれていたからではなく、それらの悪がカルト宗教の行為として平然と行なわれていたからと思われます。
　そのためカナンの地も、ソドム・ゴモラの地も、神からの激しい裁きを受けました。そして徹底的に滅ぼされたのです。
　今日の世界も、カルト教団が盛んになっています。しかも、全世界的規模で増えているのです。神の裁きは近い、と言わざるを得ません。聖書は言っています。
　「神をおそれ、神をあがめよ。神のさばきの時が来たからである。天と地と海と水の源を創造した方を拝め」（黙示一四・七）。
　神の御前におそれかしこむことこそ、真理に近づく道です。私たちは、カルト教祖ではなく、真の神をあがめなければなりません。
　「主をおそれることは知識の初めである」（箴言一・七）。


神の裁きは神の国と共に来る

　神の裁きは、どのようにして来るのでしょうか。
　それは、キリストの説かれた「神の国」と共に来ます。神の国が来るとき、救いと裁きの双方が同時に起きるのです。
　「神の国は近くなった。悔い改めて福音を信じなさい」（マコ一・一五）。
　これは、「神の国」を理解することによって分かってきます。
　「神の国」という言葉は、じつはあまり良い訳語ではありません。これは英語では“the Kingdom of God”と訳されているように、本来「神の王国」と訳すべきものです。
　「国」というと、今日の私たちは、とかく民主主義国家を思い浮かべてしまいます。しかし「国」と訳されたギリシャ原語バシレイアは、「王国」または「支配」という意味を持っています。それは、神が王として支配される神政政治の国家なのです。
　神の王国はまた、土地のことではありません。「そこにある」とか「あそこにある」とか言うこともできません。それは神の支配なのです。
　神の王国の本質は、神の支配です。神の支配が完全に及んでいるところを、神の王国といいます。

神の王国が来るとき、
救いと裁きが同時に起こる。　
ラファエロ画「聖体論議」（御父・御子・御霊を描いた部分）

　主イエスは、神の王国がやがて地上にやって来る、と宣べ伝えられました。これは神の完全な支配が地上に及ぶ時がやがて来る、という意味です。
　今日の地上世界は、神の完全な支配下にはありません。人間の罪深い行為や、サタンによる悪が見受けられるからです。
　神は、より多くの人に回心の機会と伝道の時間を与えるため、いまは地上の悪を許容しておられるのです。
　しかし、神がやがて一切の悪を許さない時がやってきます。それが神の王国の到来するときです。
　たとえで説明してみましょう。ある国の王様が、他国へ親善訪問に行きました。その王の旅行中、宮殿の仕え人たちが反乱を起こし、クーデターによって政権を奪ってしまいました。
　その政権下で、国民は急速に堕落していきました。好き勝手なことをするようになり、彼らの真の王を忘れるようになってしまったのです。
　王は、政権を取り戻すため、自分の子を遣わして、国民たちに秘かに働きかけました。王子の働きによって、真の王の政権復帰を望む人々も国内にしだいに増えていきました。
　王子は、王を国に迎えるため、いったん王のもとに帰りました。しばらくして王子は、父なる王と共に、巨大な軍勢を従えてその国に入ったのです。
　王と王子は、その支配を国の隅々にまで広げました。このとき、王の政権復帰を望んでいた人々は生き延びて、ある者たちは高い地位につけられ、ある者は大きな恵みを受けました。
　しかし、クーデター政権に参加した人々や、それに従った人々は厳しく処罰されました。
　このように、王の支配が臨むとき、救いと裁きの双方が同時に起きるのです。
　あのソドム・ゴモラでも、ロトたちは助かりましたが、他の住人はみな死に絶えました。カナンの地でも、イスラエル民族はその地を継ぎましたが、悪から離れなかった住人たちは死にました。
　やがて、神という偉大な大王が、王子であるイエス・キリストと共に、天の軍勢を従えて地上にやって来られます。神の支配は全地におよび、そのとき救いと裁きが同時に起きるでしょう。
　神につく人々は御国を継ぎ、一方、神を受け入れず、罪の中にある人々はみな絶ち滅ぼされるのです。


救いと滅びが同時に起こる

　神の王国が地上に来るとき、すなわち神の支配が全地に及ぶとき、そこに生じる救われる人と滅びる人の違いは、どこにあるのでしょうか。
　過去に罪を犯したか否か、でしょうか。そうではありません。「すべての人は罪を犯した」（ロマ三・二三）のです。
　違いは、王子なるキリストの福音を聞いて、悔い改めて神に立ち返ったか否かです。それだけです。神を人生の王として心に迎え入れたか否か、ただそれだけなのです。
　あなたは、王なる神にもう立ち返りましたか？これを回心といいます。神は全知のかたですから、誰が回心して誰がまだなのかを、すべてご存知です。
　回心して神と共に生きるなら、あなたは罪を赦され、神の家族に迎え入れられ、神の子の特権を与えられます。また至福の御国を継ぐことができます。
　この地上では、目的と使命を持って、神の守りの中に生きることができ、死後は、幸福と安息に満ちた「天国」と呼ばれる神の王国に入ることができます。
　さらに、神の王国が地上に来るとき、あなたは"永遠の命の体"に復活します。また、もしあなたの肉体に死が及ぶ以前に神の王国が来れば、あなたは生きたまま"永遠の命の体"に変えられるのです（一コリ一五・一〜五八）。
　聖書のヨハネ黙示録に、こう記されています。
　「それから、神の御前で自分たちの座に着いている二四人の長老たちも、地にひれ伏し、神を礼拝して言った。
　『万物の支配者、常にいまし、昔います神である主。あなたが、その偉大な力を働かせて、王となられたことを感謝します。
　諸国の民は怒りました。しかし、あなたの御怒りの日が来ました。死者のさばかれる時、あなたのしもべである預言者たち、聖徒たち、また小さい者も大きい者も、すべてあなたの御名をおそれかしこむ者たちに報いの与えられる時、地を滅ぼす者どもの滅ぼされる時です』」（一一・一六〜一八）。
　「地を滅ぼす者どもの滅ぼされる時」が近づいています。いや、それはもうすぐそこに来ているのです。神は王となっておられます。あなたは王につきますか。それとも反抗しますか。
　私たちは、天地の創造者である神の御前におそれかしこみ、その支配を歓迎しなければなりません。私たちは自己中心と利己主義を捨て、神のしもべとなるのです。
　神の支配はもうすぐ全地におよびます。心の中で神の支配を歓迎している人々だけが、神の王国とその至福を見ることができるのです。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　久保有政著（レムナント1995年9月号より）