創造論

カレン族に先祖代々伝わるヤハウェ信仰
ミャンマー(旧ビルマ)のカレン族は、創世記の記録に
驚くほど似通った記憶を、先祖代々言い伝えてきた。


カレン族の人々(イネの種まき風景)。

 東南アジアのミャンマー(旧ビルマ)に、少数民族カレン族がいます。約一五〇万人からなる彼らは、先祖代々言い伝えられてきた神への信仰を持っていますが、その信仰は多神教ではありません。唯一神信仰なのです。

彼らは唯一神「ヤァ」を信じる

 しかも、彼らはその神を固有名詞で呼び、「ヤァ」と呼んでいます。これは聖書に啓示された神の御名ヤハウェの短縮形「ヤハ」(ヤァ)と同じです。
 たとえば、聖書に出てくる「ハレル・」は"ヤァをほめよ"の意味です(ハレルは、ほめよの意)。また旧約聖書・詩篇一一八・五の、
 「私はを呼び求めた」
 の「主」のヘブル原語には、ヤハウェの短縮形ヤァが使われています(そのほか詩篇六八・四、一八)。「太郎」や「花子」が個人の名であるのと同じく、ヤハウェ、ヤァは、真の御神の固有の御名なのです。
 ミャンマーのカレン族は、自分たちの民族が始まった時以来、ずっと聖書の神の御名ヤァと同じ呼び名で、彼らの神を呼んできました。
 彼らは、聖書を持っていたわけではありません。彼らの信仰は、先祖から代々なされてきた口伝によるものなのです。しかし、韻律を含んだ詩歌の形で覚えやすいようにして、太古の昔から唯一神信仰を伝えてきました。
 世界の多くの民族は、もともと先祖が持っていた唯一神の信仰を、やがて多神教への堕落によって失っていきました。しかしカレン族は幸いにも、先祖伝来の唯一神信仰を、世界でもまれに見る純粋さをもって代々保持してきたのです。
 カレン族に伝わる詩歌には、たとえば次のようなものがあります。

 「ヤァは永遠
 その生命はとこしえである。
 死ぬことなく、永遠に生きておられる。
 偉大なそのご属性は完全
 永遠から永遠まで、彼は死ぬことがない」。

 次の詩歌には、ヤァが宇宙の創造者としてうたわれています。

 「誰がはじめに宇宙を造ったのか。
 ヤァがはじめに宇宙をお造りになった
 ヤァがすべてを定められた。
 ヤァは人知を越えたおかたである」。

 さらに、神が人を創造されたこと、また人が神を信ぜずに堕落したという記憶も、次の詩歌に表現されています。

 「ヤァは全能
 しかし私たちは彼を信じなかった。
 ヤァは大昔に人を創造された
 彼は全知のおかたである。
 ヤァははじめに人を創造された。
 彼は今に至るまで、
 すべてを知っておられる。
 子たちよ。孫たちよ。
 地には、ヤァの御足が置かれている。
 彼はすべてを見通される。
 彼は私たちのすべてを
 知り尽くしておられる」。

 とくに次の詩歌は、まさしく旧約聖書・創世記一〜三章を思わせます。

 「はじめにヤァが宇宙を創造された。
 彼は食べ物や飲み物も造られた。
 彼は"試みの木"を生えさせ、
 細かいご命令をお与えになった。
 悪魔が二人をだました
 悪魔は、"試みの木"の実を
 彼らが食べるように仕向けたのである。
 二人はヤァのご命令に従わず、
 ヤァを信じなかった。
 彼らが"試みの木"から食べたとき、
 人類に病・老・死が入った」。


カレン族はヤァ信仰を先祖代々言い伝えてきた

 さらに、一九世紀末に三〇年間ほどカレン族の間に住んだアロンゾ・バンカーという人が、次のような興味深い記録を残しています。それはジャングルの中で夕暮れ時に持たれる、典型的なカレン族の集会の様子に関するものです。

 「白髪の長老たちが、ヤァの教えを語り始めた。その光景のおごそかなことは、とても言葉では表現できない。
 子どもたちも、緊張した面もちで聞き入っている。まるで磁石のように話に引き寄せられている。
 しばし沈黙があったかと思うと、炎の中に竹が張り裂ける音が鳴り響く。すると年老いた村の預言者が立ち上がり、祝祷のときのように手を大きく上げて言った。
 『子たちよ。孫たちよ。はじめにヤァは、カレン族をこよなく愛された。しかし、先祖はヤァの教えに背いた。その結果、私たちは今日のように苦しんでいる。
 人は、のろいのもとに置かれている。私たちは苦しみの中にある。そして(真の神について教える)本も、私たちのもとから失われてしまったままだ』。
 このあと老預言者は顔を上げ、大きな希望に輝いて言う。
 『しかしヤァは、再び私たちをあわれまれるのだ。再びこよなく愛して下さる。ヤァは私たちを救って下さる。・・・・』
 老人はさらに、先祖からの言い伝えを雄弁に語る。
 『ヤァは、アナイとエゥ(聖書におけるアダムとエヴァ)を造り、彼らをに置かれた。ヤァは彼らに言われた。
 「わたしは園に七種の木を生えさせた。それらは七種の・・・・実を結ぶ。
 それらの中に、あなたがたが食べてはならないものが一つだけある。・・・・もし食べるなら、あなたがたは年老い、病にかかり、死ぬであろう。・・・・食べたり飲んだりする際に注意しなさい。わたしは七日後にまた来る」』。
 『悪魔が男と女のもとに来て、彼らに、
 「なぜあなたがたはここにいるのですか」
 と聞いた。すると二人は、
 「私たちの父が、私たちをここに置いたのです」
 と答えた。再び悪魔は、
 「あなたがたは何を食べるのですか」
 と聞くので、二人は、
 「私たちの主ヤァは食物をつくって下さいました。無制限にあります」。
 と答えた。
 「それを見せてください」
 と聞く悪魔に対して、二人は指さしながら答えた。
 「これはうまくないですが、これは甘いです。これは酸っぱく、あれは辛いです。これには風味があります。またあれは火のように辛いですよ。でもこの木の実については、甘いか酸っぱいかわからないんです。私たちの父、主なるヤァがこう言われたからです。『この木から取って食べてはならない。もし食べるならあなたがたは死ぬであろう』」。
 『・・・・すると悪魔は言った。
 「そうではありません。私の子たちよ。ヤァはおっしゃいませんでしたが、この木の実は最もおいしくて、豊かなのです。・・・・それを食べるなら、奇跡的な力を持ちます。天にまでも昇るような気分になるでしょう・・・・。私はあなたがたを愛しているので、真実を言います。隠したりしません。もし私を信じないなら、食べなくてもよいのです。しかしもし試しに食べれば、あなたがたはすべてを知るようになるでしょう。・・・・」』

 この記録によると、男のアナイ(アダム)はこのあと悪魔の誘惑を断ってその場を去りますが、女のエゥ(エバ)は誘惑されるままに食べます。そしてその後夫にも言って、結局夫も食べてしまうのです。老預言者の語りは、さらに次のように続きます。

 『女は戻って、悪魔に言った。
 「夫も食べました」。
 すると悪魔は高笑いして言った。
 「哀れな男女よ。お前たちはもう私のものだ。私の声に聞き従ったのだから」。
 次の朝、ヤァは二人のもとに来られた。しかし二人は、いつものように讃美の歌をもってヤァにつき従うことをしなかった。ヤァは二人に近づいて言われた。
 「なぜあなたがたは、わたしが『食べてはならない』と命じておいた木から、実をとって食べたのか。・・・・あなたがたは年老い、病にかかり、死ぬであろう」。・・・・
 人は、のろいのもとに置かれ、ヤァは彼らから去られた。・・・・やがて病が人に現われるようになった。
 アナイとエゥの間に生まれた子の一人は、病の床に伏した。そのとき二人は互いに言った。
 「・・・・私たちがどうすべきかを、悪魔に聞いてみよう」。・・・・
 彼らは悪魔のところへ行って言った。
 「私たちは、あなたの言葉に従って食べたのです。私たちの子は病気です。・・・・どうしたらいいんですか」。
 悪魔は答えて言った。
 「お前たちは、お前たちの父、主なるヤァの命令に従わず、私に従った。一度私に従ったからには、最後まで従いなさい」』」。

 アロンゾ・バンカーの記録は、さらにこう続きます。

 「老預言者は、先祖代々伝わるこうした話をしながら、さらに、悪魔が人に指導して与えた風習について語る。悪魔は人に、様々の病を取り除くために、悪霊を鎮める供え物をしなさいと教えたという。
 また、悪魔は、鳥の骨を占いに用いることを人に教えたという。この占いの方法は、高地の民族によく見られるものである」。

 このようにカレン族では、悪霊を鎮める供え物や占いは、悪魔からのものであるとして、忌み嫌われています。


カレン族の男性。


なぜ聖書の記録に酷似しているのか

 カレン族の集会の模様を記したこの記録を読むとき、私たちは、老預言者の語りがあまりに聖書の内容によく似ていることに驚きます。しかし、彼は聖書を読んでこのように語っているのではないのです。
 カレン族の長老たちは、先祖代々言い伝えられてきた教えを忠実に語っているに過ぎません。これは果たして偶然でしょうか。
 いいえ、偶然ではあり得ません。
 聖書によれば、大洪水の際に箱舟で救われたノアは、アダム以来先祖代々伝えられてきた創世記一〜三章の内容を、自分の子セム、ハム、ヤペテたちにも教えこんだはずです。
 そして大洪水後、バベルの塔を経て、セム、ハム、ヤペテの子孫たちが全地に散らばっていったとき、創世記一〜三章と同じ内容が各民族に言い伝えられていきました。
 そのうち、アブラハムの子孫であるイスラエル民族には、のちに聖書としてまとめられた文書を通し、それが最も正確に伝えられていきました。
 しかし他の民族においては、口伝によったということと、人々の多神教への堕落等によって、多くの場合は物語の変質や、消滅等が起こりました。
 とはいえ、幾つかの民族においては、その後も長い期間にわたって、創造と堕落の歴史に関する事柄が、あまり変質することなく、ある程度の純粋さを保ちながら伝えられていったのです。カレン族に代々伝わる唯一神信仰も、その貴重な例の一つです。
 カレン族には、未来に関する次のような詩歌もあります。

 「定められた時になると、ヤァが来られる。・・・・死んだ木が芽吹き、花々が咲き乱れる。・・・・」

 「良き人々は、銀色の町に来る。
 義なる人々は、新しい街に来る。
 父と母を信じる彼らは、金色に輝く宮廷を楽しむ。
 カレンの王(メシヤをさす)が来られるとき、彼は地上でただひとりの君主となる。
 カレンの王が来られたとき、もはや金持ちも貧乏人もない」。

 また、カレンの長老たちは、常に次のような箴言を朗唱し、部族の者たちを偶像崇拝や多神教から守ってきました。

 「子たち、また孫たちよ。
 偶像やその祭司たちを拝んではならない
 拝んでも、何の利益もない。
 ただあなたの罪を積み重ねるだけである」。
 「子たち、また孫たちよ。
 ヤァを愛し、その御名を
 みだりに唱えないようにしなさい

 もしみだりに唱えるなら、
 彼は遠くに行ってしまわれる!」。
 「子たち、また孫たちよ。
 喧嘩や口論を好まず、
 互いに愛し合いなさい
 天にいますヤァは、
 私たちを見ておられる。
 もし私たちが互いに愛し合わないなら、
 それはヤァを愛さないことと同じである」。
 「子たち、また孫たちよ。
 もし私たちが罪を悔い改め
 悪を行なうことをやめ、
 欲望を抑え、
 ヤァに祈るなら、
 彼は再び私たちを憐れんで下さる。
 もしヤァが憐れんで下さらないなら、
 ほかにそれを出来る者はいない。
 私たちを救い得る者、
 それはヤァおひとりである」。
 「子たち、また孫たちよ。
 いつもヤァに祈りなさい。昼も夜も」。


カレン族の住居。日本も、
昔は多くの家がこうだった。


彼らには失われた書物の記憶があった

 さらに驚くべきことがあります。それはカレン族は、自分たちの持っている唯一神信仰は不完全なものであって、やがて白人のもたらした書物によって完全なものとされると信じていたことです。彼らの詩歌に次のようなものがあります。

 「ヤァの子らである外国の白人が、
 ヤァの言葉を持っていた。
 外国の白人で、ヤァの子らが、
 昔ヤァの言葉を持っていた」。

 また、次の話も伝わっています。一八三〇年頃、サウカァラというカレン人が、旧ビルマの英国領事館において、自分の民族のルーツについて語りました。それによると、カレン族はもともとはヨーロッパ人と兄弟民族だったというのです。
 大昔の先祖から出た弟がヨーロッパの白人となり、兄がカレン族その他の部族を形成したということでした。
 そして、弟の白人は真の神に関する記録を書物として注意深く保存したが、兄のほうは、ならず者だったのでそれを失ってしまった。だから、いつの日か白人は、船に乗ってカレン族のもとに来てくれるだろう、そして真の神に関する本をもたらし、神の知識を回復してくれると信じているとのことでした。
 実際、その回復の時はやって来ました。一八一七年、敬虔なアメリカ人宣教師アドニラム・ジャドソンが旧ビルマにやって来たのです。彼は船でやってきました。そしてその手には、一冊の聖書がかたく握られていたのです。
 ジャドソンの宣教は、はじめはほとんど実を結びませんでした。ほとんど回心者が起きなかったのです。しかし彼は、聖書をビルマ語に翻訳する仕事にかかりました。このビルマ語聖書が、のちにカレン族の大リバイバルのもととなったのです。
 ある日、コタービュというカレン人が回心して、クリスチャンになりました。コタービュは、ジャドソンや、新たに到着した宣教師ボードマン夫妻らを手伝いながら、驚くべき早さで聖書を学習していきました。


アドニラム・ジャドソン。彼の宣教は、
最初ほとんど実を結ばなかったが、
やがて彼の訳したビルマ語聖書が、
爆発的なリバイバルのために用いられた。

 コタービュは、聖書こそ、カレン族に昔から言い伝えられてきたあの"失われた書物"であることを悟りました。コタービュは熱烈な伝道者に成長し、旧ビルマ中をまわって、カレン族の部落で、父なる神ヤハウェと主イエスの福音を説いてまわったのです。
 カレン族の人々の反応は、すさまじいばかりでした。"ヤァの本"からのメッセージは、スポンジが水を吸収するように、彼らの心の中にストレートに入っていったのです。
 カレン族が民族をあげてクリスチャンになるのに、多くの時間は必要ありませんでした。今日も、彼らはキリスト教の信仰に立っています。
 カレン族に大リバイバルが起きたとき、旧ビルマの仏教指導者は驚いてこう言いました。
 「我々仏教徒は、カレン族を仏教徒にするために大変な努力を積み重ねてきたのに、ついに成功しなかった。ところがキリスト教の宣教師たちは、我々が何世紀にもわたって出来なかったことを、わずか数十年で成し遂げてしまったのだ!」。
 じつは、大リバイバルが起こったのは、カレン族だけではありませんでした。同じ旧ビルマのカチン族にも起こったのです。じつはカチン族にも、自分たちの先祖は聖なる書物を失ったとの伝説がありました。
 リバイバルはその後、さらに周辺のラフー族や、ワ族等にも及びました。そしてカチン、ラフー、ワ族等にも、カレン族と同様、先祖伝来の信仰がありました。それは、天地宇宙の創造主なる唯一神への信仰だったのです!

[参考図書]
“Eternity in Their Hearts” Don Richardson, Regal Books USA

                                久保有政(レムナント1995年12月号より)

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