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■エクレア地方の風土 ![]()
タルト大陸の東の端、カスタード山脈を越えたところに、“エクレア地方”があります。
これまでエクレア地方は、険しいカスタード山脈にはばまれていたせいで、大陸ではほとんど知られていませんでした。
最近になって、クラックの魔法学院から“エクレア地方”について発表がありました。それは「山脈を越えた遥か東の地に、豊かで穏やかな土地が広がっている」というものでした。
そして、多くの人々が、この新しい土地にやってくるようになったのです。
シェーブル海に面する3大陸側でエクレア地方のことが知られるようになったのは、クラック魔法学院の発表があってからです。ですが、カスタード山脈にさえぎられた東側の地域や、大陸のさらに東にある海を超えた地域では、エクレア地方の事を以前から知っている者もいます。
○エクレア地方の地理 ![]()
エクレア地方は、北西に“カスタード山脈”、南東には“ジャムの海”が広がっています。カスタード山脈は、かつては“世界の果て”と思われていたくらいに険しい山で、これを越える事は容易ではありません。かつては、それでもこの山を越えて大陸と交流をしていたのですが、今ではトンネルが掘られ、楽に大陸に行く事ができるようになりました。
ジャムの海は、大きな湾になっている海です。海そのものは穏やかな海ですが、大きな魔物が住んでいるといわれています。
大陸とエクレア地方間の交流は、険しい山脈を通るよりは、海を使ったほうが簡単です。でも、エクレア地方に近づくための海には魔物が住んでいてとても危険なため、多くの人は陸路を使っていたようです。カスタード山脈の麓には、エクレア地方の4分の1ほどを覆う、広大な森が広がっています。
この森は、海からの風が山脈に当たって降らせる雨で成長した森で、他と比べて雨の多い地域になっています。そのため、川の少ないエクレア地方では、この森は“水を守る森”となっています。エクレア地方は、非常に川が少ない地域です。その反面、豊富な地下水を蓄えています。
地下を流れる水のほとんどは、山脈の麓の森に降った雨です。
この地方の雨は森のある一帯に集中して降ります。森に降った雨は、やがて木の根を伝い、地下に蓄えられていきます。地下水は、やがて岩の隙間を流れ出します。こうして次第に地下を流れる水脈ができていきました。
現在、エクレア地方の地下には大きな地下水脈が何本も通っています。しかし、エクレア地方はカスタード山脈から連なる固い岩盤の上にあるため、地下水はほとんど地上に噴き出す事はありません。そこでこの地方では、硬い岩盤を貫く井戸を掘って水を使っています。
地下水脈の水は豊富で、季節や天候によって大きく変わる事も枯れる事もなく、非常に安定した水源となっています。この地方は気候も恵まれています。
夏は海からの風が吹き、やや湿気が多くなりますが、すごしにくいほどではありません。冬は山脈から冷たい風が吹き込んできますが、その多くは森に遮られ、町などがある南の平原までは届きません。
こうして、エクレア地方は、1年を通して温暖な気候になっています。
クリムの北にある森は、多くの妖精族が住んでいるといううわさがあります。なお、カスタード山脈を越えたところ、クラックの町があるスコーン地方の冬は、山脈に当たった風が雪を降らせ、山を越えきれなかった寒気が流れ込む形になってしまい、非常に寒い地域になっています。
○エクレア地方の開拓史 ![]()
タルト大陸を含む三大陸では、長い間カスタード山脈こそが世界の果てだと思われていました。
しかし数年前、三大陸の間でも特に名の知れた魔法学校「クラック魔法学院」から、山脈を越えたところにも平原と海が広がっている事が発表されました。そして、小さな集落もいくつかあることも報告されました。
この話を聞いて、新天地を夢見る者や冒険者などが、このエクレア地方へとやってきました。始めに大陸からこの地にやってきたのは、魔法使いの少女でした。彼女は、単純に魔法で山脈を越えてきました。もっとも、魔法の力を使ってでさえ、その道のりは大変なものだったようです。
しかしそれでも、非常に幸運な事に彼女は山脈を越える事ができました。さらに幸運な事に、小さな集落の1つにたどり着き、体を休める事もできたのです。このとき、彼女が助けてくれた人へのお礼に、魔法で大きな井戸を作りました。水があるところには人が集まります。この大井戸を持つ集落には、やがて大陸からの旅人が集まるようになり、住み着くようになりました。その集落の名前はクリムといいました。
いまクリムの町の中央広場には、おおきな噴水があります。この噴水は、かつて魔法で掘られた大井戸から作ったものなのです。
この地にやってきた魔法使いの少女は、まだクラック魔法学院の学生だったプリムローズです。彼女の報告が魔法学院から発表され、そして大陸に広まったのです。なお、プリム本人はあまり言いませんが、この報告は彼女の“卒論”だったようです(^^;)
また、彼女が助けてもらったお礼に井戸を掘ったのは、当時(今も)攻撃魔法を中心に勉強していた彼女が手持ちの魔法でお礼をするには、ほかに方法がなかったから、というのが真相のようです(^^;)
○エクレア地方と大陸との関係 ![]()
エクレア地方はこれまで大陸とは交流がありませんでした。そのため大陸の戦乱などに巻き込まれる事もありませんでした。
また、険しいカスタード山脈があり簡単にはこの地にたどり着けないため、どの国にも属する事なく、大陸一平和な地域となっています。かつては、大陸とは完全に孤立していたエクレア地方ですが、今では大陸との交易もあります。
交易路はおもに山脈に作られたトンネルです。海も近いのですが、あまり海路での交易はないようです。ジャムの海に魔物が出るといううわさがあるかもしれません。しかし、1度大きく北に回ったあと、折り返してエクレア地方に入る船もあります。また、さらに東の地からやって来た、という船もあります。もっとも、その地域がどこかはわかりません。エクレア地方は開拓者の地だけあって、自給自足が基本となっています。そのため交易品の多くは嗜好品や工芸品です。薬や魔法の道具もあるようです。
エクレア地方と大陸との交易は、おもに個人や小規模な商団の間で行われます。大陸から見ればクリムの町も小さな集落の1つですし、山脈や魔物などの障害が多く危険が大きいからです。
しかし、人間が少なく妖精族が多いエクレア地方では、大陸にはないさまざま魔法の薬が作られ、また、貴重な魔法の材料も取れる事から、危険を顧みず取り引きにやってくる商人もいます。
大陸でいわれている“ジャムの海の魔獣”とは、巨大な海竜です。
かつては“伝説の龍の化身”とか“太古の幻獣の生き残り”とかいわれていましたが……その後、普通の海竜だという事がわかりました(^^;)
もっとも、“ただの”海竜ではなかったようで、人の言葉を話し、赤身より白身魚を好む、ちょっと気弱な海竜です(^^;) もともと地元の漁師達とは仲が良かったようですが、最近はクリムの人とも仲良くなりました。でも、人見知りするほうなのか、大陸の船には辛くあたります(^^;)