穴埋め問題攻略法
受験生諸君はよく評論の読解を苦手だと言います。どのように苦手なのか具体的に尋ねてみると、「評論を読み進んでいく内に、前の部分に書いてあったことを忘れてしまう」「内容が難しい場合、どの部分が大事なのかわからない」「設問で問われていることがどこに書いてあるのかわからない」などの答えが返ってきます。これらの疑問に答えることから始めましょう。文章を読み慣れていない人にとって、評論の読解が難しいのは無理もありません。それでも、文章を論理的に読み解くルールを知ることで、読書量の不足は補うことができます。ルールといっても難しく考えることはありません。次に挙げるような表現があったら、そこに印をつけるだけでよいのです。
読みながらこうした要点が出てきた場合には、何か目印をつけておくとよろしい。というのは、そうした重要なポイントは設問で問われることが多く、解答するためには問題文に戻って見直す必要があります。その時に、問題文に目印がついていれば素早く大事な箇所がわかるからです。
- 逆接表現に注意する。
逆接表現とは、具体的に言うと「しかし、けれども、が、だが、ところが、それなのに、にもかかわらず」のような語を用いて、前後の主張が対立の関係になる表現のことです。逆接表現の直後の部分には筆者の主張が強く表われます。だから、「この文章の要点はなにか」と問われてすぐに答えなければならない場合、逆接表現の直後の部分だけを抜き出していけば、とりあえず間違えることはないのです。
- 対立の構造に注意する。
論理的な文章には一定のパターンがあります。それは「普通はこう言われているが、私はそうは思わない」とか「一見こう見えるが、本当はこうだ」などの対立的な形式です。前に述べた逆接表現もその一種であるし、その他「これに対して、一方」などの語、また「対義語」が用いられることも多いですね。どのような点で内容が対立しているかに注意すれば、筆者が何について議論しているのかがわかります。
- 言い換え表現に注意する。
同じ言葉を別の言い方で何度も説明したり、「例えば〜」のように具体例をいくつもあげて説明したりしている場合は、それが問題文の中心となる言葉です。短い語句だけでなく、複数の文で表現される内容が、別の表現で言い換えられることもあります。「つまり、すなわち、要するに」などの語が用いられている文も言い換えです。
- 因果関係に注意する。
文中の「原因と結果」の関係に注意しましょう。問題文の議論を最も単純にすると、必ずこの形にまとめられます。「だから、ゆえに、従って、それで、そこで、なぜならば」などは、すべてこの関係を示す語です。「逆接表現」「対立の構造」「言い換え表現」で筆者の主張の要点がわかったら、次に因果関係に目を向けて議論の構造を理解しましょう。
これらのルールを応用したのが穴埋め問題です。今回は接続詞・副詞の穴埋め問題を解いてみましょう。まず次の問題を読んでみてください。
人々は日常生活のなかでさまざまな技能を学んでいく。技能が比較的単純なものの場合には、他の人がそれを遂行するのをみてすぐまねるとか、やり方をことばで教えてもらうことができる。うまくいかないときには、どうすればよいか、さらにヒントを得ることもできるだろう。
しかしある程度以上技能が複雑なものになると、みようみまねで、というわけにはいかない。このときにはどうしても、自分の技能の獲得をモニター(制御)してくれる人が必要になる。実際にこの技能が使われる場で、技能の習得をはかる、というのが、広い意味での徒弟制である。ここでは親方にあたる人、つまり技能の習得をモニターする人は、同時に、その技能が生産にとってつごうよく遂行されることにも責任を負っている。(中略)
(A)、その技能の遂行によってうみ出された結果に責任をもちつつ技能の習得を制御する、という二重の役割は、(B)容易に果たしうるものではない。(C)、技能の不適切な遂行による失敗がかなり重大な損害をもたらすと思われるようになると、徒弟制をやめて、教習所といった形で、(D)技能の養成をはかることが必要になってくる。(E)、技能が本来使われるべき場からはなれた練習の場が設定されることになるわけである。問 空欄A〜Eに入れるべき語句を次から選べ。ただし、同じ語句を二度用いることはない。
イ 必ずしも ロ しかし ハ そこで ニ つまり ホ まず (武蔵大・経済・平成三年 一部省略、改変)接続詞・副詞を挿入する問題は、問題文を論理的に読めていなければできないので、入試では非常に重要です。解き方をしっかり身につけて下さい。
この問題を解くためには、まず選択肢のそれぞれの語の働きを知らなければなりません。
イ 必ずしも…部分否定です。「必ずしも〜ない」の形で使われます。
語の働きがわかったら、空欄の前後関係を調べます。まず(A)の前後から見ていきましょう。ロ しかし…前後の内容を対立させます。前に説明した逆接表現です。
ハ そこで…条件と結果の関係を示します。この言葉の前に条件が、後ろに結果があるはずです。
ニ つまり…要約・説明・言い換えに使われます。この言葉の前の内容が、後ろの方で短く要約されていたり、よりわかりやすく説明されたりしているはずです。
ホ まず…順序・順番の始まりを示します。
(A)の前には「技能の習得をモニターする人は、同時に、その技能が生産にとってつごうよく遂行されることにも責任を負っている。(中略)」とあり、(A)の後ろには「その技能の遂行によってうみ出された結果に責任をもちつつ技能の習得を制御する、という二重の役割は、(B)容易に果たしうるものではない。」と書かれています。こうした場合、まず「前後が対立関係になっているかいないか」を見分けるのがポイントです。対立関係になっていれば逆接あるいは対立を表わす言葉が入り、そうでなければ答えはそれ以外の言葉です。対立関係は大変見分けやすいので、穴埋めが苦手な人は対立の言葉が入る空欄を探して、先に埋めてしまいましょう。
さて、ここでは「技能の習得をモニターする人は技能の遂行にも責任を負っている」と「二重の役割は〜容易に果たしうるものではない」の関係を考えればよいわけです。前の部分の「責任」を後ろの部分では「容易に果たすことはできない」と言っていますね。つまり、これは対立の関係です。したがって入る言葉はロの「しかし」になります。 (B)はその後ろに「容易に果たしうるものではない。」と書かれているから簡単です。「〜ない」という否定の形に結びつくのはどの言葉だったでしょうか。そう考えるとイの「必ずしも」になります。
どうです。なんだかパズルか推理小説の犯人探しをしているみたいでしょう。現代文の問題は、実はゲームみたいなものなんです。
謎解きを続けましょう。次は(C)です。すぐ前に「〜二重の役割は、(必ずしも)容易に果たしうるものではない。」がありましたね。後ろには「技能の不適切な遂行による失敗がかなり重大な損害をもたらすと思われるようになると、徒弟制をやめて、教習所といった形で、(D)技能の養成をはかることが必要になってくる。」とあります。親方にあたる人が技能の教育と遂行の二つの役割をうまく果たすことができないならば、徒弟制より教習所が必要になる、というわけです。これは「〜ならば〜」の関係です。条件と結果をつなぐハの「そこで」がこれにあたります。
(D)は「徒弟制をやめて、教習所といった形で」と「技能の養成をはかることが必要になってくる。」の間をつないでいます。徒弟制は技能の養成と遂行という二つの課題を同時にこなそうとするものでした。ところがこれがうまくいかないので、「技能の養成」だけを先に教習所で済ませてしまおうというのです。順序に関係がありますからホの「まず」が入りますね。
最後にニの「つまり」が残りましたが、これが(E)に入るかどうかを確かめましょう。穴埋め問題では、最後に残った一つまで、すべての選択肢が問題なく空欄に納まらなければいけません。どれか一つでも不自然な答えを放置すれば、すべての解答がずれてしまう恐れがあります。(これもジグソーパズルなどと似ていますね。)さて、(E)の前に出てくる「教習所」と後ろに出てくる「技能が本来使われるべき場からはなれた練習の場」は同じものであることに気づいたでしょうか。これは後ろの内容が前の内容を言い換えて説明する関係になるわけです。やはりニの「つまり」でよかったのです。
最初に示した文章読解のルールがそのまま問題に応用されていることがわかったでしょう。今まで評論の穴埋め問題になんとなく勘で答えていた人、長い評論文のどこに大切なことが書いてあるのか見抜けなかった人、そして現代文の問題を難しい呪文のように考えていた人は、みんなこのルールを覚えて評論問題というゲームのチャンピオンになりましょう!
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