しかし、J.S.ミルが人間精神にも論理的な探求の光を当て、「心の法則」を明らかにすべきだと主張したのは19世紀のことでした。当時発展しつつあった生理学が「生命」を科学的に研究する方法を提供したため、人間という「最後の秘境」にも、ようやく光が当てられたのです。
「心の法則」に目が向けられたもう一つの理由は、哲学の一部に過ぎなかった論理学が数学と接近して、「数理論理学」「記号論理学」「数学基礎論」といった分野が成立したことでしょう。これらは人間の論理的な精神活動を数学的に記述することを可能にし、コンピュータへの道を拓いたのです。
今世紀になって科学の領域が細分化されると、医学自体も細分化されていきました。精神の研究も臨床的な「精神医学」、社会行動に関連する「行動科学」、脳自体を研究する「神経科学」などに分かれていったのです。(最近、人間科学という名前の学部を新設する大学が増えているのは、こうした臨床的な学問分野と旧来の「人文科学」をくっつけようということなのでしょう。しかし、ビジョンがないと、ただ名前を変えただけの文学部になってしまいますね。受験生の皆さんは気をつけてください。)