ゲシュタルト心理学者ヴェルトハイマーは、短い間隔で二枚の絵を見せた時、そこに「運動」の知覚が現れることを発見しました。これを「仮現運動」といいます。上のアニメーションでは、133MHz以上のマシンを使った場合、最初の図は二本の線分が同時に見えてしまい、最後の図は「動き」に見えにくく、二番目の図が最も「運動」らしく見えると思います。
これは重大な事実を含んでいます。つまり、われわれ人間は、「動いているもの」を正直に知覚しているのではなくて、実は、「動きの知覚に合致する対象」を「動いている」と見なしているのです。世界が私たちに向かい合っているというより、世界は私たちの「視覚のからくり」に従って構成されていると言った方が正確でしょう。世界はもはや「神が作ったからくり」ではなく、「私たちが今も作りつつあるからくり」と言えるのです。
「ゲシュタルト( Gestalt)」とはドイツ語で「形」のことですが、ゲシュタルト学派の考え方からすると、「心の体制」「心のあり方」「心の全体性」とでも訳すべき概念です。
私たちの心が対象に向かう時、単に刺激と反応の関係で対象から刺激を受け取るのではなくて、むしろその対象がわれわれにとって持つ「意味」が対象の捉え方を決定する。ゲシュタルト心理学とは、そうした理論です。この考え方は現象学の哲学者フッサールに大きな影響を与えました。
言うまでもなく、この知覚の性質が「映像のからくり」すなわち「映画」を生み出したのです。その原理は、だれもが子供の頃、つまらない授業の退屈しのぎに、教科書の隅っこに描いた「ぱらぱらマンガ」です。
さらに想像を進めると、もしわれわれの数万倍の速さで動き、生活している種族がいるとすると、同じ地球上に暮らしていても、私たちは彼らの存在を知覚できないことになります。逆に、数十万年の単位で変化する地殻の変動を、われわれは「動き」として実際に見ることはできません。「百聞は一見にしかず」と言いますが、「目のからくり」とはこれほど限定されたものなのです。