古都奈良の文化財
Historic Monuments of Ancient Nara

 1998年12月2日、ユネスコの「第22回世界遺産委員会京都会議」は、『古都奈良の文化財』の世界遺産への登録を決定した。『古都奈良の文化財』として登録されたのは、東大寺、興福寺、春日大社、元興寺、薬師寺、唐招提寺の六社寺と春日山原始林、平城宮跡の八資産群である。この中には、国宝25棟、重要文化財53棟の建造物が含まれており、対象寺社の境内やは敷地は史跡や特別天然記念物に指定されている。

 これで世界遺産は、計582件、日本では計9件となった。
 
東大寺 華厳宗大本山。聖武天皇の発願により建立。南大門、法華堂、鐘楼、金堂(大仏殿)、開山堂、転害門、本坊経庫、正倉院正倉の八棟が国宝。国宝・盧舎那仏は「奈良の大仏」として親しまれている。
興福寺 法相宗大本山。藤原氏の氏寺として建立。北円堂、三重塔、五重塔、東金堂の四棟が国宝。奈良時代には壮大な伽藍を誇った。
春日大社 藤原氏の氏寺として768年、春日御蓋山のふもとに創建。本社本殿が国宝。
元興寺 平城遷都に伴い飛鳥寺が平城京に移され、元興寺となった。極楽坊本堂、禅室の二棟が国宝。極楽坊五重塔一基が国宝。古い民家などが並ぶ「奈良町」の一角にある。
薬師寺 法相宗大本山。天武天皇が皇后の病気平癒を祈り建立を発願。白鳳建築様式を伝える東塔、東院堂が国宝。金堂や西塔などを復元、白鳳伽藍復興を進めている。
平城宮跡 特別史跡。平城京(710〜784年)の北端に位置する宮城跡。天皇が居住した内裏や、政務や儀式が行われた大極殿、朝堂院などの遺構が確認されており、現在朱雀門などが復元整備されている。
唐招提寺 律宗総本山。唐の高僧・鑑真が759年に創建。金堂、講堂、鼓楼、宝蔵、経蔵の五棟が国宝。金堂は、唯一現存する天平期の遺構として名高い。
井上靖氏の「天平の甍」で紹介。
春日山原始林 特別天然記念物。841年に伐採と狩猟が禁止されて以来、御蓋山とともに春日大社の森林域として保護されてきた。
遺産の価値

 世界遺産としての価値を判断するための6基準のうち、次の三つに当てはまることが認められました。

 ★芸術や技術の発展をもたらした重要な文化交流を示すもの
  中国や朝鮮との交流によって日本の文化が大きく発展したことを示しています。

 ★ある文化や文明の極めて貴重な証拠
 古代の日本の首都に開花した文化を伝える極めて貴重な証拠です。

 ★人類の歴史の上で重要な時代を物語る優れた実例
  日本の国家や文化の基礎が整った重要な時代である奈良時代の様子を伝えています。

 宮殿の遺跡と都に計画的に建設された木造建築群とによって当時の姿を伝えている例は、他にありません。
 遺産そのものも、遺産の周辺環境も適切に保護されています。
(奈良市・「世界遺産 古都奈良の文化財」から)
注目される点

 (1)春日山原始林が、春日大社と一体となって形成される文化的景観の例として、登録されたこと。文化的景観としての登録はわが国では初めてです。

 (2)平城宮跡が、わが国で初めて遺跡の分野で登録されたこと。

 (3)正倉院正倉が国宝に指定され、東大寺の建造物群に含まれて登録されたこと。皇室の財産が登録されたのもわが国で初めてです。
(奈良市・「世界遺産 古都奈良の文化財」から)
世界遺産とは

 1972年11月の第17回ユネスコ総会において、「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」すなわち「世界遺産条約」が採択されました。これは、地球上に存在するさまざまな文化遺産や自然遺産を、ある特定の国や民族のものとしてだけでなく、世界のすべての人にとってかけがえのない宝物として保護してゆこうという考え方に基づくものです。
 世界遺産委員会で、登録基準を満たしていると認められた遺産は、「世界遺産リスト」に登録されます。1998年1月現在で、552件が登録されており、日本では「古都奈良の文化財」の他に、すでに8件が登録されています。(法隆寺地域の仏教建造物、姫路城、屋久島、白神山地、古都京都の文化財、白川郷・五箇山の合掌造り集落、原爆ドーム、厳島神社)

 登録の審査基準は

 遺産の価値−「顕著で普遍的な価値」が十分にあるか−
 他の同種の遺産との比較
 保護状況−適切に保護されているか−

などにおかれています。つまり、世界遺産に登録された物件は、最も代表的な文化遺産や自然遺産の例として認められたということになるのです。
(奈良市・「世界遺産 古都奈良の文化財」から)