お遍路まんだら・6

7月28日(火)雨のち晴れ

 うみがめの町日和佐を出て高知県入り。歩いて県境を越えたいという思いは強いが、が23番薬王寺から24番最御崎寺までは約80キロ、22時間の距離である。全く歩く気はない。きょうの行程はまず二十三番薬王寺で納経帳に記帳していただいた後、室戸岬までJRとバスを乗り継いででかけ、その付近で宿をとるか、時間に余裕があれば25番津照寺まで6・8キロを歩くことにした。寺から寺の間があまりにあいているところや、山道はなるだけ避けようという基本方針のもと、だんだん歩く距離が短くなっていくような気がする。ま、いっか。

  ●雨具と汗の問題

 一泊二食一万五千円の元は取ろうと、朝からホテル白い灯台の展望大浴場に入り、浴槽につかって窓の外に広がる海をながめた後、朝食(特筆事項なし)。さて、出発という段になって驟雨に襲われた。問題は雨具である。雨具に身を固めるか、多少濡れてもいいとしてやりすごすか。あるいは小型傘でしのぐか。用意しているのは雨具上下。ゴアテックス製の上下で、いくら蒸れない素材とはいえ、やはり蒸れることは蒸れる。おまけに黄色を選んでしまって、たいへん目立つ。第三者からみると「黄色い人」と呼ばれそうな有様である。しかしそれだけじゃないのだ。ザックを覆うザックカバーも黄色を選んでしまった。雨の日はブルーならぬ、全身黄色なのである。

 これまで徳島市内で雨に襲われた時に使ったが、目立つ目立つ。そして使用後、歩行途中で脱いだときに、濡れたまましまわないといけないことになる。さて、結局雨具に身を固めることにしたが、しばらくすると止んでしまった。中はぐっしょりだ。

 話はかわるが、Tシャツなどはウィックロンという吸水性もよく、しかも速く乾く繊維。浸透圧の関係で水分は外に外に出ていく。上に綿シャツなどを羽織っていると綿シャツはびしょぬれだが、中はさらっとしている。上に羽織っていないとズホンのほうに水分は移動し、見た感じは、ほとんど「アテント」状態になってしまう。なおかつズボンの替えは送り返してしまったので、ここ三日ばかりはき続けているが「臭い!」。ちょうど福岡では金鷲旗、玉竜旗大会が行われている(終わった?)と思うが、あの会場の臭いを彷彿とさせる。そのほか、お遍路さんのユニホームである白衣にも汗は移動しているし、首から下げている輪袈裟にも汗が吸着され異臭を放つことになる。結局、輪袈裟は絹かなにか知らないが、強引に水洗いし、白衣については、この着用を廃止することにした。

●よせばいいのに登山

 さて、日和佐から甲浦(かんのうら)までJRおよびローカル線の阿佐海岸鉄道に乗っていく。日和佐では華奢な17−8歳の若者が頭にタオルを巻いて汗を流しながら歩いていた。列車が一緒になったので声をかけてみようかと思っていた。若者よ、何に悩んで歩いているんだいーっ。甲浦の駅からバスになる。また、たぶん一緒になるだろう。連絡が悪いので、1時間半くらい待たなければならない。車両は別々だったが駅の待合で一緒になるだろうな、などと思っていたわけです。

 甲浦駅で、彼は彼女と一緒に降りてきた。あらま。そういう旅行ですか。健康的でいいというか何というか。もちろん姉弟かもしれないから、何も推測しないことにした。私は彼との対話モードを直ちに解除して、食事モードに。駅の売店のおばさんは「幕の内弁当なら、ここでとれるよ」と言ってくれる。いやー駅の待合室に出前を取るなんて考えてみたら他ではできないほどすごいんだが、大阪南港−足摺岬を結ぶ室戸フェリーの中継港なども見てみたくなり、食堂などが並んでいる所まで20分ほど歩いてでかける。海水浴場のビーチのそばにある小洒落たホテルのレストランでハンバーグランチ1500円。彼と彼女もバスの時間を確かめていたが、バスには乗り合わせなかった。どうしたのかなあ。

 中岡慎太郎像がスックと立つ室戸岬に到着。よせばいいのに登山道を登る。約800メートルの道程ということで登り始めたが、だって岬じゃん。傾斜きついんだよね。ひいひい言いながら登る。このあたりは熱帯性の植生がみられるというが、なんとなくジャングルっぽい道を登る。足もとで虫やら小動物が走る。目の前5メートルくらい先で鳶(と思う。7−80センチの猛禽だった)が飛び出したり、迫力満点。立ち止まると即座に「ぷぅーーん」とヤブ蚊が飛んでくるので、立ち止まれない。言ってみればヤブ蚊のおかげで一気に登ってしまった。

 参拝して下ろうとすると、彼と彼女が手ぶらで登ってくるではないか。推測すまいと思いつつ、たぶん彼と彼女は甲浦駅からタクシーに乗ったのだろう。バス代が1500円だから、1時間半もあるし、二人ならタクシーでも悪くないということだろう。室戸岬について食事でもして、宿に荷物を置いて登ってきたんだろう。山からの下りも一緒になったが、彼らは「青春謳歌してますー」って感じで、うれしそうに下っている。かたや私は汗だくだくで一心不乱に下る。だってそばにいたら悪い感じなんだもん。

●遍路宿で夕食抜き

 山を下りた時には4時半だったが、勢いでその後6・8キロを歩いて室戸の町まで出た。薬屋をみつけたのでサロンパスを購入し新グロモント一本を飲む。「歩いて回るのかい」と聞かれ「半分くらい歩いてあとは電車です」と言ったら店のおやじに「高知は鉄道の便は最高に悪いよ」と言われる。「人が減るから鉄道がなくなる。だいたいこのあたりもマグロ漁業の町だけどね、昔は栄えたがいまは漁業がだめだ。それに乗るやつがいない。そこの水産高校だってインドネシアからいっぱい来てるよ。そいつらがマグロ船をささえてるんだよ」と世間話。宿を決めていないと話したら「隣の隣が遍路宿だよ」と教えてくれる。

 ここ太田旅館は、昔ながらの商人宿って感じの旅館。いぜん私の親戚が福岡の大名でやっていた旅館を思い出させる。ホテル白い灯台では20畳くらいのツインに一人で泊まったから、どんなとこでもいいやと思っていたが、悪くない宿だ。ただし6時すぎに到着したので夕食は外でということになった。私は宿につくなりズボンの臭いが気になっていたので洗濯を始めた。風呂に入り、さて夕食に出ようかと思ったら、ズボンがないじゃないか。大失敗。浴衣で出てもいいんだろうが、前日に食べ過ぎたし、この日も昼食が遅かったので夕食はとらないことにした。足にサロンパスをべたべた貼って寝る。明日は土用丑の日。どこでうなぎを食べようか。そんなことを考えながら、早く寝よう。