★北京春天★1

 久しぶりにGWに連休が取れる、ということが判ったのは4月20日。そ
の夜、酒を飲んでいるうちに、やおら一人旅でもしようか、という気になっ
てきた。そこに居合わせた北京出身の中国人留学生の林(りん)さんが
「それなら北京に行ったらいい!」と笑顔で言うので、その笑顔をみてい
たら、大中国の真ん中に立ってみれば、つきものが落ちるような気がして
いた。翌朝には航空券を予約していた。金はもちろんなかったが、独り身
の気軽さ。もらった給料を大半使う気で、5月4日。前日の同窓会での二
日酔いの頭をたたき起こして中国国際航空機に乗り込んだ。

我想確認座位

 北京空港に降り立って、まずは帰りの飛行機の再予約。頼りにするのは
ただ一冊。JTB発行のひとりあるきの中国語自遊自在」だ。機内で覚え
て置いた文例を何度かぶつぶつ復唱しながら 民航のカウンターを探し出し
て、問いかけてみる。「我想確認一下我的座位!」。意味は通じたようだ。
その証拠に即座になにやら判らない中国語で応酬される。向こうのほうを
指さしている。よくわからないが、ともかくここじゃないらしい。「明白
了!明白了!」(わかりました)と判ったような顔をして、指さす方向に行っ
てみる。「我想確認一下我的座位!」航空券を差し出すと、面倒くさそう
に予約を確認してくれた。「OK」というなげやりな返事を聞いて、ほっ
とした。

去塔園的東門

 空港から西日本新聞北京支局に電話を入れる。以前上司であった下田特
派員がいるのだ。コインを入れてダイヤルという公衆電話ではなく、小さ
なカウンターにニーズ製品の電話機が置いて合って、それを勝手にかける。
料金はあとから払う。ちょっと話して2元だったか。一元は9円ちょっと。
現地の特派員は、とりあえず支局がある外国人居留地「塔園」の東門まで
来い、という。タクシー乗り場で「とうユアン」と言ってみるが、判って
もらえない。塔の字はなんて読むんだったか?「とんユアン」と言っても
通じない。こういうのは手元の「自遊自在」には載ってない。困ったとき
にはメモと鉛筆。タクシー係の兄ちゃんはもちろん、運転手やら客やらが
ぼくのメモ帳に見入る。「去塔園的東門」。あーあーと周囲から声が漏れ
る。判ってもらえたみたいだ。いや、漢字文化は偉大である。あの車に乗
れ、という。乗って運転手にメモを見せるが、なにやらぶつくさと文句を
言っていたが、ぼくにはわからない。通じなかったせいで、こちらも不快
にならずにすんだ。結構結構。何年前のか判らないVWサンタナは全身を
がたがた言わせながら、福岡の都市高速の10倍くらい立派な首都空港高
速道路を時速90キロで走っていった。
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