昔は「高校を出たら家を出て一人暮らしを始める」と思っていた生徒はたくさんいた。就職にしろ進学にしろ親元から離れ、誰からも文句言われることなく、自由な生活に憧れたものである。

 高校生が就職を考える場合には、まず地元の企業に就職することを考える。遠方の大企業よりは、近くの中小企業を選ぼうとする。大学進学でもよく「地元志向」という言葉が出てくるが、あれは地元志向と言うよりは、実家志向ということであろう。知人がいるからとか、友達がいるからというよりは自分の家から通った方が都合がいいからである。家にいれば洗濯はしなくて良いし、食事は電子レンジで温めればよい。家賃はもちろん、電気・電話・水道・ガス・新聞、何一つ支払う必要もない。その上、仕事やアルバイトで得たお金はすべて自分のものになる。

 昔は家にいるといろいろ文句を言われ、大学生のような自由人には他の家族と空間を共有する事がつらかった。今は自分独自の空間を持っているし、家族はみんな仕事や学校で家にいないので、あまり顔をあわさなくて済む。生活時間も受験生のときから他の家族と違う時間帯で生活しているわけで、大学に入学してもそのままの生活が続くだけである。

 家族の生活時間がバラバラでそれぞれが顔を会わさない家庭や、お互いが自分のことだけを考えている家庭は、本当の意味での家庭とは言えない。家庭は生活共同体である。個々は家族のためになすべき事があり、それぞれ協力して自分の役割を果たさなければならないはずである。一緒に住んでいることが「家庭」であるという幻想を、無理矢理信じようとする者があまりにも多いようなきがする。     

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