先日、電気店でずいぶん昔に教えていた生徒と出会った。29歳の立派な青年になっていた。聞くところによると、九州では大手の販売店に就職したのだが、会社が倒産しリストラにあったということであった。今はアルバイトとして電気店で働いていると言っていた。高校時代からとてもまじめに何でも取り組んでいた生徒であったので、とても寂しい思いがした。

 日本は本来、組織でみんなをカバーしながら、労使一体で長期的な目標を掲げて頑張ってきたはずである。高卒にしろ、大卒にしろ、会社に入ってから、いろいろな経験を積ませることによって、一人前の社員に教育してきたはずである。最近では「即戦力」とか「実力主義」とか言う言葉が一人歩きして、企業が人材を育成するのではなく、人材を使い捨てにしている気さえする。

 働いている者は男女を問わず、朝早くから夜遅くまで働くことを強いられ、少ない人員でより多くの仕事をこなさなければならなくなった。他の社員の思いやる気持ちや、新人を育成するゆとりも失われているのではないだろうか?その上、家庭においては男女の育児も共同で、火事も男女平等にと家庭でも仕事が増えていっている。日本のサラリーマンに5時に保育園に子どもを迎えに行くゆとりはあるのであろうか?子どもを迎えに行くために毎日5時に退社することが許されるのであろうか?更に政府は、専業主婦まで働かせようと税制をはじめ、年金制度まで負担を増やそうとしている。これでどうやって子どもを育てようと言うのか?

 本来、終身雇用制度も年功序列賃金体系も、日本の社会で子どもを安心して育てられるゆとりのある制度であった。若いうちは一人前でなくても一生懸命安い賃金で働き、家庭を持ち子どもも大きくなってお金がかかるようになった時に、ゆとりが出来る制度であった。

 「実力主義」の名のもとに、年輩の社員は年頃の子どもを持ちながらリストラの不安におびえ、若者はまじめに働きたくても正社員にもなかなかなれない。正社員になったとしても、朝早くから夜遅くまで働き、常に業績を上げなくてはならない。結婚した女性も、安心して子どもを育てられない。バブル崩壊から15年が経とうとしている。今の日本が転換点で、みんな安心して子ども達を育てられる社会が到来することを期待している。

 

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