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地域連携と電子カルテ

隔月刊「DIGITAL MEDICINE」(デジタルメディスン発行) Vol.5 No.6, 2005年7月
特集 電子カルテと地域医療ネットワーク −医療連携の未来のために


はじめに

 昨今の医療を巡る状況において、医療サービスの提供者側と利用者側の意識の間にミスマッチがおきているように思う。すなわち、医療費削減の波は提供者側にコスト削減努力を強いる。これに対して、自己負担率の上昇と今後の混合診療(特定療養費払いの拡大)は利用者側にコスト負担の上昇を強いり、これによってより高い品質を要求させる。この結果として、われわれ医療機関は「低いコストで高い品質」を目指すという、きわめて難しい努力が必要となっているのである。そして、その解決策として業務改善などとともにITの活用が重要な要素となるに違いないと思われるのである。
 地域の連携も、医療資源の無駄を省き、高い品質を求めるという構図は同じであり、電子カルテを中心とした医療のIT化が重要な要素となるものと思われるのである。

「つなぐ」がキーワード〜われわれのインフラ戦略

 ここでは、454床の急性期総合病院を中心として療養型病院、診療所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、身体障害者施設、短期入所施設、在宅部門などを運営するわれわれけいじゅヘルスケアシステム(特別医療法人財団董仙会と社会福祉法人徳充会を総称)におけるITの活用によるインフラ整備の3つの考え方を示したい。
 第1の戦略は制度間をつなぐこと、連携である。すなわち、医療、介護、福祉、保健といった制度は本質的には「健康のためのお世話(=ヘルスケア)」を目的としたものであって同根であり、利用者の視点に立ったときにはどの制度を利用しようが、「健康」すなわち、身体的ばかりでなく、精神的、社会的にいい状態をつくりあげるならば何も問題がないはずである。そこで、ITを駆使して、これらの制度間が垣根なくつながり、連携される仕組みを目指すことは利用者に支持されていくはずなのである。
 第2の戦略は空間をつなぐことである。施設内をつなぐLANから、広域に展開した施設群を専用線でつなぐWANへと発展してきた。さらには、今回のテーマとなる地域の連携医療機関との間をつないできた。今後は、対象として在宅をも視野に入れたいし、地域社会貢献へと拡げた取り組みを担っていきたく思う。
 最後の戦略はアナログとデジタルをつなぐことを挙げたい。いかにIT化を勧めデジタル情報化したところで、患者や利用者の声や連携医療機関からの連絡は、肉声であり、紙であり、FAXであることが圧倒的に多いのである。逆にわれわれのデジタル情報を彼らに知らせる手段の圧倒的多数もまたこれらアナログ情報なのである。そこで、情報の変換点の創設が必要となってくるのである。
 これら戦略を具現化するために、われわれは1995年の院内検査LANシステムの導入以来、オーダリングシステム、関連施設間のWAN敷設、電子カルテ導入、さらには2004年には後述するインターネット回線とVPN( Virtual Private Network )を利用した電子カルテ閲覧システムを導入した。
 また、介護保険制度が施行された2000年には、けいじゅサービスセンター(コールセンター)を開設した。ここでは、5人の専任オペレーターが、多くの施設に分散した医療介護情報を統括して表示するソフトウェアを見ながら、利用者からの連絡や問い合わせに対して応えたり、逆に医療介護情報を見ながら、こちらから利用者に対して連絡や確認をとったりする仕組みとしたのである。すなわち、コールセンターへ先に示したアナログとデジタル情報の変換を担う役割を担わせたのである。現在は、地域連携室と協力しこれらに加え連携登録医からの連絡窓口や連携登録医への連絡窓口としても機能している。

地域医療機関とのITを利用した連携〜現状、問題点、今後

 現在、ITを利用した地域医療ネットワークとして3つの事業を展開している。その各々について、現状を紹介し、問題点、さらには今後を考えてみたい

  1. ASP事業者として
     当方人は非営利である医療法人の中で、収益業務が認められている特別医療法人である。収益業務としては、すでに給食販売、健康・介護用品の物販を行ってきたが、これらに加えて情報管理業を加えた。
     04年5月に当院で使っているものと全く同じ電子カルテシステムを、開発業者と協力して地域の別法人である医療機関に販売した。端末は医療機関(無床診療所)、サーバーは当方人に設置し、ASP( Application Service Provider )として保守管理と職員への使用法の教育を担当した。これによって、回線経費はかかるもののシステムの導入と保守管理費は市販の電子カルテに比して格安のものとなった。
     問題点としては、別法人の管理者である院長の電子カルテに対しての要望と病院内から発生する要望との差異が少しずつ拡がっていることであろう。すなわち、入院との連携を重視する病院側の要望と外来オンリーである診療所側の要望は、そもそも目指すもの自体が異なるかもしれないのである。
     今後拡大させていくためには、診療所向けカスタマイズがやはり必要なのかもしれない。しかし、カスタマイズによる料金のアップとの兼ね合いが問題となっていくことであろう。
  2. インターネットによる電子カルテ閲覧(図1〜3)
     上記と同じく04年5月より、インターネットを利用した電子カルテ閲覧システムを稼動させた。具体的には、当院の電子カルテのすべて、すなわち患者情報から、診療記録、検査記録、画像記録(X線写真はjpg圧縮画像)、処方・注射など指示内容、検温表、サマリーなどを閲覧可能なものにしたのである。
     もちろん、病院側と診療所側との個人情報保護や運用に関わる契約を結んだ上で、患者本人、診療所、病院側(主治医を含む)の三社合意が大前提となるものであり、診療所側は、インターネット経由で病院システムにアクセスすると、上記許可患者の情報のみにアクセスできる権利を有するのである。
     インターネットは公衆回線、閲覧ソフトは一般のものを使用し、セキュリティー対策として、@診療所側コンピュータにVPNソフトのインストール、ASSL( Secure Sockets Layer )による暗号化、B診療所に付与したID番号とパスワードによる認証、と3つの仕組みを利用している。
     また、費用負担は、コンピュータやインターネット回線は診療所側のものを診療所側の負担で利用していただいている。VPNソフトのみ病院負担で、病院職員がインストールしている。もちろん法人側における専用サーバー管理経費やソフトウェア経費は当方の負担となる。
     現時点において、問題としてはこの流れが一方向性であることに尽きよう。共同して診療することを具現化していくためには、かかりつけ医の意見を求めたり、かかりつけ医側から積極的な意見の書き込みなどを求めたりしていく双方向性の確保を目指すべきであろう。この流れの第1段階として、この閲覧システムにメール機能の付与すること、第2段階として、診療録への直接の書き込みができることを目指していきたい。
     さらに、今後は診療所との連携から患者本人や家族との連携に拡がっていくに違いない。すでに、診療情報の開示は行われているが、今後はほぼリアルタイムに病院側と患者側が情報を共有し、疾病治療に協働していく図式が考えられるのである。現システムを全く触ることなく、つなぎ先が患者のインターネット端末となればいいだけのことなのである。
  3. 公私病院間での画像転送連携
     04年9月より、公的病院である市立輪島病院と当院との間で画像転送システムが稼動した。このシステムは奥能登地域の中核病院である輪島病院の診療機能を補う目的であり、同院と金沢大学間、同院と恵寿総合病院間をVPNでつなぐものである。診断に関しては金沢大学放射線科、患者搬送に関しては金沢大学に比して半分以下の距離で搬送可能な当院との連携を強めていくという同院の英断で実現した仕組みである。DICOM画像の転送で高品質な診断に寄与していることが特徴である。
     今後、DICOM画像にこだわらなければ、携帯電話等の廉価なインフラを用いて他の医療機関との間においても画像転送が可能になるものと思われる。

おわりに

 今回電子カルテを中心に地域連携について詳述したが、これ以上に重要なことはface to faceな地域連携であろう。従来型の電話や訪問による連携のほか、魅力ある参加型カンファレンスの開催などが、連携者間の信頼の醸成に極めて有効であることを忘れてはならないだろう。
 すなわち、今回詳述したITを利用した連携システムの基本となるものは、連携医療機関との日頃の信頼関係であり、それはとりもなおさず連携医療機関が、そして患者が満足できるサービスの提供に他ならないと思われるのである。


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