キーワード:医療法人制度改革 第五次医療法 社会医療法人 非営利性 公益性
要旨第五次医療法改正は医療法人のあるべき姿や新たな類型を誕生させるものとなる。@非営利性の徹底、A公益性の確立、B効率性の向上、C透明性の確保、D安定した医業経営の実現を目指した「社会医療法人」が新たに創設される。医療法人改革の議論の推移の中でこの社会医療法人のインセンティブは大きなものではなくなったかもしれない。しかし、本法人を医療提供者のあるべき姿として捉えるべきである。今後財政面をも含んだ医療制度改革の荒波の中で、民間病院が自らを守り、また国や行政との協働によって活路見出していかざるを得ないとすれば、そこでの選択肢は自ずと見えてくるのではないだろうかと思えてならない。 |
日本の医療を担ってきた医療法人制度は第五次医療法改正に伴って、新しい時代に向けての新たな類型と今後の方向性を変革させていくこととなった。
医療法改正の流れの中で、なぜ医療法人制度を変えていく必要があるのか?医療法人制度はどうなっていくのか?そして、われわれ医療法人は何を目指すべきなのか?を考察してみたい。
今回の医療法改正は、小泉内閣が進める構造改革の大きな柱として医療提供体制と医療保険制度の両面を同時に改革しようとするもののようだ。昨年8月の郵政総選挙での自民党圧勝は、本来的には選挙での争点とはならなかったはずの医療にまで「構造改革」の嵐を吹き込んだものといえよう。
特に医療提供体制は、まず03年8月に、厚生労働省より「医療提供体制の改革のビジョン」が策定された(図1)。その後、それに沿って社会保障審議会の医療部会が04年9月から議論を開始し、昨年12月8日に医療提供体制に関する最終意見を取りまとめている(図2に中間とりまとめ)。この中で、特に医療法人改革は04年10月より05年7月まで厚生労働省において「医業経営の非営利性等に関する検討会」が設けられ、重点的に検討されてきている。そして、この検討会の報告書は「医療法人制度改革の考え方〜医療提供体制の担い手の中心となる将来の医療法人の姿〜」という副題の通り、あるべき医療法人の姿としてまとめられている。
一方、構造改革の全体像については、05年10月19日に厚生労働省は「医療制度構造改革試案」を提案し、議論を経てから政府・与党は12月1日に「医療制度改革大綱」を取りまとめている。
これら一連の改革は、医療計画の見直し、医療情報提供の推進、医療法人制度の見直しというものを柱として第五次医療法改正に盛り込まれたこととなった(図3)。
ここで、本資料が発表された時点(05年2月)では、新しい法人類型は「認定医療法人」とされていたが、その後の議論で報告書では「公益性の高い医療法人」という名称になり、さらに05年12月に起草された医療法改正案で「社会医療法人」と名称が変遷した。
「認定医療法人」に関しては、認定、非認定は医療法人の構造の問題であるにもかかわらず、その表現が質の高い、低いやいわゆる「お墨付き」と誤認されるという反対意見があったように聞く。また、「社会医療法人」は今後の公益性の議論の中で、公益法人である「社会福祉法人」と対比する意味で、私見ながらも好都合であるように思われるのである。
まず、大きな柱となる非営利性、公益性について整理する。
(非営利性の徹底)
先に述べたように昭和25年来、医療法人は非営利であるはずである。ここで改めて矛盾を解消したい厚生労働省の意志が現れている。すなわち、持分のある社団医療法人については、出資社員への配当まがいの出資金返還は、営利事業として改めて否定するものである。したがって、持分のある医療法人は何年前であろうとも設立時に出資した分だけが持分とする出資額限度法人であるべきであるとされた。しかしながら、この事項に関しては医師団体や一部の病院団体の猛烈な反対によって、最終報告では今後新設される持分のある医療法人はすべて出資額限度法人とするものの、既存の法人については解散時の残余財産の配分に関しては経過措置(ほとんど期限なし)を設けることとなった。
また、特定医療法人(財務省認可、公益性につき軽減税率)、特別医療法人(医療法上の規定、厚生労働大臣が認める収益事業を行える)は、もともと非営利、出資金等すべての財産は既に放棄済みであるために問題は生じないものである。
(公益性の確立)
今回の医療法のもう一つの柱である地域医療計画に従った医療を行うことを公益性と読み替えることができる。表2(リンク先:「公益性の高い医療(活動)として医療計画に位置づけられるもの(案)」参照)に医療計画に位置づけられる公益性が高い医療が例示されている。この表の最下段にあるように、質の評価基準である(1)構造(ストラクチャー)、(2)過程(プロセス)、(3)結果(アウトカム)の3つの角度から公益性を判断するとされ、形だけではなく実態も評価されることになりそうである。また、著者は厚生労働省担当官から、ここに示す以外の医療でも、病院が行政に対して公益性を十分に説明できる医療ならば、認めるといった内容の回答を得ている。