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医療法人は経営情報を開示すべきか

月刊「ばんぶう」(株式会社日本医療企画) 2002年4月号
今月の争点


 厚生省の「これからの医療経営の在り方に関する検討会」では、医療法人運営の透明性や医療法人に対する国民の信頼感を高めるための一案として、医療法人にも株式会社と同様の経営情報開示を求める声が上がっている。現在、公益法人・社会福祉法人等においては決算関係書類の積極的開示が講じられており、経営情報開示の機運は高まっているようだが、医療法人もそれに倣うべきなのか。

主張1

PRや資金調達に有効だから
積極的に開示すべき
財務諸表を整備し賢く活用

和光大学経済学部教授 井出健二郎

本誌をご覧ください。

主張2

補助金等を受けた場合は別だが
開示の目的と対象に疑問
株式会社参入への布石か?

特別・特定医療法人財団董仙会 恵寿総合病院 理事長・院長 神野正博

 物事を行うには、目的と期待する成果を明らかにしなければ、誰もが納得して行動に移せるものではない。

 当法人は、昨年度決算から、上場企業と同様に監査法人による「税効果会計にかかる会計基準」を採用した。企業と同様に時価会計を行ったことにより、隠れ債務として退職給与引当金に損金があり、約10億円の一括償却を行った。しかし、本件は上場企業でない以上、一般に公開はしていない。なぜ、このような会計制度を導入したか。その目的は、今後、医療制度の改革によって、他の企業との間での共同プロジェクトが増加し、またそれを模索しなければならないだろうという危機感からである。当方と企業との間で語り合うことができる共通の言語が必要であると考えたからである。

 今回、医療法人、とくに法人税の優遇を受けている特定医療法人の財務の公開が取りざたされている。我々は、要求されれば拒む理由はない。しかし、その目的を明らかにする必要がある。すなわち、誰に向けての情報開示なのか。税務当局は現状でも、各法人の決算を十分把握しているのである。

 患者の病院選びの指標の一つとして考えているのならば、それは少し的が外れていると思う。患者は赤字病院へ受診したくないと思っているのか? それならば多くの自治体病院では閑古鳥が鳴いているはずである。患者にとって、病院受診の目的は「よい説明」「よい治療」「よいサービス」であり、そのなかでの診療情報開示は意義のあることであろう。しかし、病院の経営が悪化しているか否かは病院受診の判断材料とはならないのではないか。日本は国民皆保険制度のもと、原則としてすべて同一の公定料金制である。フリーアクセスも保証されている。赤字の病院だからといって医療費が高くなるわけでも、黒字の病院だからといって安くなるわけでもない。

 私が懸念するのは、患者のために公開した経営情報が第三者に悪意をもって利用されてしまうことである。見る人が見れば、職員数や医師数といった現在公開されているデータと合わせると、一人当たりにどれだけの給与を支払っているかなど、経営上の工夫が一目瞭然になる。医療法人といえども、一般の企業と何ら変わりはない。それぞれが、汗を流すなり、お金をかけるなりして培ってきた経営ノウハウを、無償で横取りされることに抵抗を示す人も少なくないのではないか。

 構造改革・制度改革には戦略と目的が必要であるが、今回の経営情報の一律開示に関する論議は、その明確な戦略と目的が見えてこない。公開せよということに大儀があるならば、病院は上場企業となってしまう。うがった見方をすれば、株式会社による病院経営論議のすり替えに過ぎないのかもしれない。M&Aを行う前提材料に使われてしまう恐れは十分考えられる。

ただし、医療法人といえども、補助金の対象となりうる。何らかの補助金や政府系金融機関からの低利融資を受け取った場合、税制優遇を受けている法人は、公器であるといわざるを得ない。公的資金の注入が行われた場合にその見返りを目的とするならば、納税者に対して当然その使い道や経営情報は公開しなければならないだろう。

主張3

医療法人経営の透明性は
十分担保されている
開示のメリットはどこにもない

日本医師会常任理事 西島英利

本誌をご覧ください。

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