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True Northを目指して

週刊「病院新聞」(病院新聞社) 2002年1月1日号
初春を迎えて(所感・随想)


 聖域なき小泉改革はついに医療分野に迫ってきた。「国民にも痛みを分かち合ってもらう」ために毎日のように医療費抑制策が報道発表される。そこでは、従来型の業界団体である医師会や病院団体などの抵抗(?)勢力からの意見は聞く耳もたないといった強力な意思が現れている。

 ここで、医療や福祉はコストなのかという問題に触れたい。コストならば、この経済不況下において削減することが至上命令である。しかし、日本の造船や、鉄鋼、電機、半導体産業が落ち込んだいま、次に日本の経済を牽引する産業はなにかを考えたときに医療や福祉産業なのではないかという意見も成り立つのではないかと思う。産業ならば、振興させるべきなのである。

 確かに保険料の負担に比して受益が多い高齢者医療はコストかもしれない。戦後の日本の経済を支えてきて年老いた高齢者に対してのコストは、公共事業の一環として見ることはできないものか。それに対しての雇用は道路工事以上に確保されるはずである。しかし、保険料を多く負担している若年者はそれに見合う医療を提供すべきなのではないか。また、高度先進医療は日本の輸出産業となりえるのではないだろうか。つまり、質の高い医療が海外から患者を呼び込むことができるはずである。コストに対する国民的合意と産業の振興というめりはりをもとめるべきなのではないかと思う。

 このような真の構造改革議論がなされていない現状に憂慮すべきであろう。もちろん構造改革の根底にあるのは、組織の再構築である。そして、組織は戦略・目的を実行するための手段であることを忘れてはならない。それならば、戦略・目的を持たない構造改革は混乱をきたすばかりであるということを確認したい。

 コンパスの針が指す方向は本当の北ではないという。それはコンパスの差す「北磁極」が「北極点」の位置にはないからである。そのため地図とコンパスで正しい方角に進むには、若干の軌道修正が必要になってくる。進むべき正しい方向を見つけるには、本当の北 True North を知らなければならないのだ。

 情報過多の現代、医療制度についても様々な情報が交錯する。私たちは、True Northを知る必要がある。それは、政府が言う、あるいはマスコミや研究者や無責任なコンサルタント氏が言う医療サービスではない。利用者が真に必要とするサービスなのである。自分達の進むべき道は自分達が考えて、知ることが重要なのである。

 新たな変革の年を迎えたいま、自らの病院のTrue Northが何処なのかを知りえた時、自ずと軸がぶれない病院経営が成り立つものと確信する。


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