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患者さん参加型医療を目指して

月刊「クリニシアン」(エーザイ) 2003年1月号
特集:患者満足と医療サービス−医療サービスをどう実践するか


はじめに

 サービス業としての医療で、一般のサービス業界と同様にあくなき顧客(患者)満足の向上が追求されつつある。しかし、そこでは患者の権利のもとで何が何でも患者の声を聞くという姿勢ばかりではなく、患者側にも自分の病気について情報を収集し、医療者へ疑問を投げかけ、主体的に医療に参加する義務も発生するものと考える。したがって、患者が求める情報を適切に提供できる場の設定に努力することが、真の患者参加型医療の具現化になる思われる。

顧客満足から社会満足〜CRMへ

 顧客満足( CS: Customer Satisfaction )の視点とともに、職員満足( ES: Employee's Satisfaction )、紹介者満足( Dealer's Satisfaction )が等しく機能しなければ十分なものとはいえないであろうし、さらにその上位概念として社会の満足( Social Satisfaction )がなければ、われわれ医療機関の存在意義はなくなるものと考える。もし、社会が医療費抑制を望み、病院淘汰を望むならば、われわれはそれに従うことが最大の顧客満足につながっていくということになるかもしれない。
 さらに、従来のすべての顧客に対する満足を追求する姿勢から、よりインターラクションを図れる顧客、すなわち優良顧客をひきつけ、差別化したサービスを提供して収益機会を増やそうというCRM( Customer Relationship Management )の考え方が必要になってこよう。もちろん公共性の高い医療においては、あまねく共通のサービスを提供することが原則であることはいうまでもない。しかし、資源に限りがある以上、どこかでサービスの差別化を図る必要がある。そういった意味ではCRMの考え方は十分承知すべきものと思われる。

満足の座標

 顧客満足と職員満足との間の座標軸を示してみたい(図1)。この中で業務の効率化や見直し( Re-engineering )によって、職員が本来業務( Core Mission )に集中すればするほど、医療の質の向上が図られ、しいては顧客満足につながっていくものと思われる。このように、これら二つの満足の間で、相互にリンクする図式が考えられるのである。また、電子カルテシステムをはじめとした医療の電子化は、職員にとれば情報共有の有力な道具であり、患者にとれば医療の透明性や医療情報の多施設間連携を求める有力な道具になるものと考える。

当院における取り組み

 前述の満足の座標に沿って、当院で取り組んできた事例を図2に示す。特に本題である患者参加の取り組みとしては、インターネットを利用したホームページ、メールマガジンの定期発行のほか、お見舞いメールを台紙に貼り付けて入院患者に届けるサービスや入退院時の宅配荷物をあらかじめ受け付けるサービスなどを行っている。特に、ホームページ( http://www.keiju.co.jp )は約20MB、画像を含めて約1,300ファイルより成り、病院の取り組みのほかに患者からの要望や質問などにも応え、積極的に情報を開示している。また、電子カルテシステムや電子クリニカルパスシステムは、診療情報や日々の経過に加え治療計画などを医療者はディスプレーを介して患者と供覧でき、患者参加のための強力な道具になるものと思われる。
 さらに、CRMを推し進める意味で、介護保険制度が開始された直後の平成12年6月に「けいじゅサービスセンター」という電話サービス窓口(コールセンター)を設置した。コールセンターは急性期病院としての当院と、関連する療養型病院、診療所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設や在宅系の施設の患者情報を一元管理することを目的とした。病院と関連施設の利用者は、だれでもコールセンターに電話すれば、予定の確認や予約、相談が可能となる。コールセンター運営の基盤として、院内LANとすべての関連施設間WANを利用したオンラインデジタルネットワークを利用している。オンライン上を走る電子カルテを中心とする医療データベース、ケアプランに関する介護データベース、特別医療法人業務としての物販データベースの中からコールセンターの目的に必要な情報を参照できる専用ソフトウェアを利用している。コールセンターでは5人の専任オペレーターが対応に当たっており、われわれの医療・介護・福祉にかかわる知識を集積し、患者が自らの処遇に最大限参加できる仕組みとしている。

おわりに

 患者の参加というキーワードに対して、参加できるに足りる場を設定するためには、自らの経験知を集積し、整理して形式知として提供するというナレッジマネジメントの考え方が必要であると思われる。そして、病院管理者は、その場の設定に努力するべきであろう。その基盤としてのIT化は必須であり、それが今後の病院淘汰の時代の差別化戦略の道具となっていくものと思われる。


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