医療経営Archives

介護保険は過渡的な産物

インタビュー:千葉大学法経学部助教授・広井良典氏に聞く(日経ヘルスケア1996年4月号)より

registration date: 1996.4.9


(前略)

公的介護保険は過渡的な対処法

-−財政面では、今検討されている介護保険が設立されれば、その後で、医療保険制度のあり方はさらに厳しく問われてくるでしょうね。

広井 そうです。今、私が気になっているのは、介護保険に論議が集中しすぎてしまって、本来、既存の制度全体の改革を考えるべき時なのに医療保険制度のビジョンが見えてこない点です。それは供給システムの方のビジョンも同様です。
私は、介護保険に関する議論は過渡的なものにすぎないと思っています。老人医療費8兆円のうち1兆円強が介護の形で抜けても、医療保険制度の抱える構造的な問題は何ら解消されないからです。医療と福祉を含めた制度全体の行き着く先を議論することが重要でしょう。
そうした観点に立てば、大別して二つの道しかないんじゃないかと思っています。一つは老人の医療福祉はすべて公費で賄う税法式にしてしまう。そして、残りの各保険制度は、老人保健への拠出金から開放し、保険原理を純化させる仕組みにする。
無一つは、いわばドイツ型のやり方で、健保組合などが退職者の面倒も見て、やはり保険原理を徹底させる。かつ、低所得者に関しては公費を入れた別の制度でカバーする。介護保険を作っても老人保健制度の矛盾は何ら解決されないと多くの人々が気づき始めています。本当はその先の議論をしないと意味がないわけです。

(広井良典氏:元厚生省社会・援護局更正課課長補佐)


Kanno's Appendix 老人保健法により、老人医療費の公費ならびに各保険者分担が行われている。各保険者に課せられる割合は、老人保健費用の70%であり、これらは各保険者の抱える老人加入率と全国平均値の差額を負担することで公平性を保っている。健保組合の場合、平成5年での拠出金は実に1兆2000億円にも達する。すなわち純然たる保健経営は黒字であっても、老人保健負担が、各保険者の財政に大きな影響を与えている結果となっている。さらに国保において、老人が支払った保険料がそのままプールされ、老人保健の支払いのみが各保険者の割り勘になるというのも制度的に矛盾があると考えられる。

平成6年度主要保険制度の決算状況(億円)
政府管掌組合管掌国保(市町村)
収入63,84353,85470,961
支出66,38754,66968,384
内老人保健拠出金16,11813,30917,143
収支差額-2,544-815-1,360

(MMPG医療情報レポートVol.29より抜粋)


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