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医療のデフレ下における対策−顧客管理(コールセンターの開設)

月刊「病院」(医学書院) 2003年2月号
特集:デフレ下における病院


 世の中デフレの時代だ。物の値段が下がり、給与所得も下がろうとしている。また、診療報酬改訂でわれわれ医療機関の収入もデフレ基調となった。
 100円ショップや衣料品、電化製品などデフレを引っ張ってきたものはいずれも、海外の安い労働力をはじめとしたコスト削減と画一的大量生産によるものであった。一方、ハイクオリティを標榜するホテルやブランドショップは高い値段をとりデフレとは無縁の状態である。五つ星ホテルは、徹底した個別対応によって顧客の満足を追求し、ブランドショップもまた高級感と希少性ともに、質での安心感で顧客に迫っているのである。
 顧客は医療においても、大量生産と画一的なサービスを求めるのであろうか?ここで受益者にとっての医療費は自己負担増という「値上がり」=インフレベクトルがかかっていることを忘れてはならない。したがって、受益者は、高コストに見合う個別対応とブランドを求めているものと考えなければならないだろう。医療は今後は個人の特質に合わせたテーラーメイド医療へと向かうという。ただ、その前に個人のニーズに応え、それを満足感に変えていくという個別の対応が求められ、それこそが患者にとっての「医療の質」の大きな要素を占めるように思われてならない。
 個への対応、質の確保を求められる一方での医療機関にとっての医療費デフレ、この二律背反のなかで、いかに対応していくか・・・。われわれは今まで以上に知恵を絞らなくてはならない時代を迎えようとしている。

CRMということ

 世はCS( Customer's Satisfaction )、ES( Employee's Satisfaction )を追求し、より高度な満足を目指す。さらに、経済界ではCSから一歩抜きん出、CRM(Customer Relationship Management;顧客を軸にした統合的な事業改革活動=お得様を徹底的に大切にする)といった考え方が出現している。すなわち、顧客情報と顧客に対する積極的なかかわりによって、得意客をますますファンとして惹きつけていく試みであるといってよいだろう。そのために、先進のITを利用した取り組みが一世を風靡しているのである。
 医療はもちろん公共性を追求する。しかし、すべての患者に等しく最高の満足を提供することは、実際問題として困難であるといってよいだろう。ここでも、得意客に対してよりきめの細かいサービスを提供し、ファンを惹きつける努力をすることは競争社会では当然のことであると認識すべきであろう。

コールセンター設立の背景となるインフラ

 当法人においては1994年から診療材料のSPD( Supply Processing Distribution )化から、順次臨床検査部門、薬剤管理部門とモノを管理するためにIT化を進めてきた。さらに、1997年におけるモノの管理の統合を第一の目的としたオーダリングシステムKISS( Keiju Information Spherical System )導入した。その後順次サテライトクリニックからオンライン化を進め、2000年の介護保険導入までに、1市4町にまたがる32の医療福祉にかかわる施設、事業所間のオンライン化を完成させた。これにより、医療系の部署では、KISSにより部署・施設間で患者情報を共有することができた(2002年5月からは、恵寿総合病院で電子カルテが稼動)。また、介護・福祉系の施設や部署では介護保険に対応する評価やケアプランなどの情報を共有するシステムを導入した。さらに、2000年6月に特別医療法人の収益業務として直営の健康介護ショップを開業し、担当部署・施設で発注、在庫情報を確認できるシステムも立ち上げてきた。
 このように、当法人および関連法人を総称する「けいじゅヘルスケアシステム」において約550台におよぶ端末によるオンライン上で、KISS、介護保険システム、物販情報システムといった業務系システムが稼動していることとなる。さらに、伝達の簡素化と知識の共有を目指したメール・文書サーバーシステム( Microsoft Outlook (R) を利用)がオンライン上に稼動している。

コールセンター設立の目的と戦略

 上述のごとく、当法人グループ;けいじゅヘルスケアシステムには医療・介護・福祉施設が混在する。しかし、一患者ないしは一利用者という立場で見た場合に、これら制度・施設利用を明確に線引きすることは難しい。すなわち、時間軸である時には医療を利用し、ある時には介護を利用するということは実際問題として多々存在するわけである。さらに利用の場も一ヵ所であることはなく、複数の施設や事業所を同時期にまたいで利用することは日常のことである。
 そこで、患者・利用者という軸に立って、一元管理するシステムが重要となる。当グループの利用者であるならば、どういうサービス形態であっても情報は管理され、新たなサービスを提供できる仕組みの確立を目的とした。
 そのためには、患者・利用者ばかりではなく、職員の業務連絡もすべて一箇所に集中させ、情報を管理することこそがカギであると判断した。情報集中の場としてのコールセンターを設立することで、ここに管制塔の役割をもたせ、患者・利用者、その家族、さらに職員はコールセンターを利用すればすべての用が足りる体制を目指した。
 この目的は、2000年4月の介護保険導入後に、様々な業界から参入してくる介護保険事業所との間の差別化戦略に他ならない。すなわち、急性期総合病院を中心に据えた医療・介護・福祉複合体だからこそできるサービスの差別化の柱として、全施設の情報をオンライン上で管理できるコールセンターの設立を目指したのである。

コールセンターの実際

 約半年の準備期間の後、2000年6月に恵寿総合病院内にコールセンター「けいじゅサービスセンター」が生まれた。5人のオペレーターを配置し、新たにKISS、介護保険システム、物販情報システムから電話対応に必要な情報を抽出し、閲覧するためのソフトウェア( 4優:for you )を開発した(図)。
 「4優」では、介護保険利用者に関しては介護基本情報の他、介護サービス提供の履歴や予定、物販履歴、さらに気付き情報やクレーム内容の入力とともにその履歴と解決策などを一覧できる。医療保険のみの利用者ではクレームや質問内容とその解決策、物販の入力と履歴を閲覧でき、さらに検査予約の確認や受診勧奨を行うことが可能になっている。そして、各部門の代表による月に1回のコールセンター会議で、これらの情報が徹底的に討議されている。
 コールセンターはすべての施設や事業所の利用者共通のものであり、どこを利用している患者・利用者でも、コールセンターの電話番号さえ知っていれば、すべてのサービスに応えるものとした。コールセンター側は、患者・利用者からの情報をそのログを残した上で適切に電話ないしはオンラインシステムを使って各担当部署に知らせることとなる。
 表にコールセンターの業務内容を示す。「コール」は実際の患者や利用者との間での電話による連絡・確認であり、「事務」はデータ入力センターとして職員に対してのサービスということになる。例えば、訪問やデイケア・デイサービス利用者に対しては、キャンセル・変更受付の他に、訪問前確認(アウトバウンド)の電話を必ず入れることとしている。また、日次の実績入力は、在宅の現場へ行ったヘルパーからのメモ書きや電話による報告をコールセンターで定型書式にデジタル入力するものである。これによって、ヘルパーなど訪問系の職員の事後報告書の手間を大幅に削減し、本来業務に集中させることができる。現在、月に8,000件程度の業務量となっており、その中で実際に患者・利用者との電話によるかかわりは1,000件程度であり、その他はアナログデータをデジタルデータに変換する実績入力部分が主となっている。

おわりに

 医療費削減の流れの中で、CRMの具現化としてのコールセンターの設置は、病院というブランドを背景に持った個別対応への取り組みに他ならない。医療収益の減収の中で、介護保険部門、特に在宅部門は年率10%を越える増収基調にある。この部門と医療を適切につなぎ、個に対応するツールとしてのコールセンターの意義が見出されるものと思われる。

 コールセンターの業務内容

相談受付 ・一般利用者からの問合せ相談受付 日次 コール
・クレーム受付対応 日次 コール
各種照会業務  ・関係部署への情報提供 日次 コール
介護保険業務支援 ・医師の意見書入力 日次 事務
・加算状況確認 月次 コール
・担当者会議開催スケジュール調整 月次 コール
・利用票・見積書の出力〜準備 月次 事務
・提供票・提供票別表の出力〜発送 日次 事務
・訪問前確認 日次 コール
・キャンセル・変更受付 日次 コール
・実績入力 日次 事務
・実施入力 (ケース入力) 月次 事務
・保険外費用入力 月次 事務
・請求発送準備 月次 事務
・サービスカレンダー出力 月次 事務
診療支援 ・連携医からの診療予約 日次 コール
・検査予約確認 日次 コール
・遠隔患者監視システムサポート 日次 事務
・健診データ入力 月次 事務
物販支援 ・カタログ・DM発送 不定期 事務
・注文受付  日次 コール
・商品問合せ受付 日次 コール
福祉用具対応窓口 ・問合せ受付 日次 事務
アンケート ・満足度調査 不定期 事務・コール

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