本編は、本誌2002年3月20日号から2003年4月20日号まで14回にわたって佐合茂樹氏によって連載された「病院機能評価受審のポイント」の続編として、同氏が触れていない第4領域「診療の質の確保」の中でケアプロセスと称される「適切な診療活動の展開」に関してのポイントである。
医療機能評価を受審することの目的(=戦略)を改めて考えてみたい。
・病院の質をよくするための機会
・受審をきっかけに病院を変える
・受審決定→受審→認可の間の努力が重要
ということが主なものとなろう。これとは別に、診療報酬上のインセンティブによって受審する病院も最近増加しつつあるのも事実かもしれない。しかし、これはあくまでも戦略(目的)であって、受審するにあたっては、評価を得るための戦術も考慮する必要があろう。すなわち、
・オールa、オール5の病院はない=評価調査票は日本の病院の理想像
・自院の強みを印象付ける
・「何もやっていない」はc!⇒的は外れていても何かあることが重要
・他の病院と比較しない
という項目があげられよう。あえて解説するならば、戦術としてオールa、オール5を目指してしょうがないのである。評価事業は資格試験と同じであり、オールb、オール3でも認定といえば認定なのである。認定の過程で指摘された事項を改善していく姿勢が大切なのであるといえよう。また、自院の強みは強調すべきであろうし、少なくとも評価項目の事前の自院での準備段階で、完璧ではなくとも何もやっていないことは無いようにすべきであろう。現状においては、例え付け焼刃的な取り組みであったとしても、今後の継続への決意表明と継続していく仕組みを確立しておくことでc評価は無いものと考えられる。
本誌2002年11月20日号を参照いただきたい。4.20から4.30は、2領域の「患者の権利と安全の確保」とともに今回のver.4.0における目玉である。従来の評価において、部署訪問は診療領域と看護領域は別々に訪問していた。今評価からは、従来と同様な4.15までの部署訪問からサーベイヤーチームを再編し、診療領域担当者と看護領域担当者がチームとして病棟を訪問するものである。
ここでは、入院から退院までの診療・看護を遂行していく過程において診療と看護間やその他チームとの間における業務の伝達プロセスやチーム医療の実態を評価するものとなる。病院の病床規模により2病棟から最大8病棟を評価することになる。評価を受ける側は、病院管理者ではなく、主に現場の病棟医と病棟看護師長が対応することとなる。この部分では、審査区分によって52〜59項目に及ぶ小項目を病棟毎に評価していくこととなる。
主治医が定められ、患者に明示されていることが求められる。ベッドネーム等で確認されることになる。また、「主治医たる資格」を院内で明確に定めておく必要があり、研修医の処遇についても問われることになる。さらに、主治医への連絡方法と主治医が不在の時の体制が問われる。ここで、主治医不在時の体制については、病棟や科単位の把握のみならず、病院組織としてその他部署にまでへ連絡周知するように押さえておきたい。
また、当然主治医による回診は行われていると思われるが、回診の記録やその場における患者の訴えや要望、さらに主治医の説明、判断、指示の記録が必要である。また、診療責任者の回診が行われた場合は、その記録も求められる。
医師の指示が確実に伝達されるかは、病棟において医師・看護師双方から聴取し、書類を確認することとなる。指示書や実施記録のみならず、指示の変更、緊急指示などについてもその過程が評価される。医師の指示書は発生源、かつわかりやすい形式で記載・入力されていることが望ましいことは言うまでもない。さらに、病院内で診療科や病棟ごとに、指示の出し方や受け方を組織として統一しておくことは安全管理上も必須となる。
診療録を記載した場合、記載者のサインが必要となる。その内容で、検査にかかわる所見の記載や報告書のみならず、その結果に対しての主治医の評価・判断の記載が強く求められる。診療録に必要な記録がファイルされていることは当たり前であるが、その記録をファイルしておく場所や順序は病院として統一しなければならない。また、各種記録として医師の経過録、看護記録を中心とした患者にかかわる記録すべてを一体化しておくことが望まれる。
ここで問題となるのが、リハビリテーション記録、薬歴管理記録や栄養指導記録などとなる。これも原則として一元管理とすべきであることを明記したい。例えば、入院中にリハビリ報告書だけを診療録に添付している場合ではa評価は難しい。さらに、退院後の病歴管理でリハビリテーション記録が別保存となっている病院が多いようである。しかし、少なくとも退院後の病歴管理においては、これも重要な患者記録であるという視点から、その他の記録と一体化して管理する必要があろう。
退院時要約の作成率は2週間以内で80%以上が良好とされ、100%に達する時間や努力が評価される。また、その内容については、特に臨床研修指定病院では、上級医による監査・承認が求められる。
ポイント
・医師の指示と実施記録を見直そう。
・診療録に、評価・判断など診察〜治療のプロセスと結果を記載しよう。
・診療録はすべての情報を一体化した管理が原則。
・退院時要約は速やかに書くクセを。
入院の決定から退院後の計画に至るまでの過程で、入院の目的から入院診療計画、そしてその計画の変更時に、適切に患者に説明し、同意を得ているかを記録を通して評価することになる。したがって、これらの過程の記録を整備していく必要がある。
最近、入院時診療計画にクリニカルパスを利用している医療機関が多い。この場合も、バリアンス発生時の適切な説明と計画の見直しの記録を評価することになる。
また、診療計画の見直しの際には症例検討会や複数科による検討会、多職種によるカンファランスなど組織横断的な機会が開催され、その結果をもとに見直していく過程の場の提示とその記録が求められる。
ポイント
・計画の見直しの判断根拠のプロセスを記載しよう。
緊急検査を含む検査ごとの手順書の整備が求められる。また、侵襲を伴う検査については説明と同意(意思確認)を得る必要があるわけであるが、できれば病院全体として同意書を要する検査の一覧を整備し、全病院で周知徹底していく体制を求めたい。また、同意書において、同意しない場合やセカンドオピニオンを求める場合など、患者の意思を尊重する書式であればさらに望ましい。さらに、患者や立会人の署名だけではなく、説明医師に加えて病院側の立会人の署名も望ましい。
検査結果を速やかに入手できる体制では、検査結果を入手・確認できる体制の明文化が望まれ、さらに検査・診断結果の所見から判断・評価が診療録に記載されていなければならない。ここでは、血液や尿の一般検査の結果に対する評価や単純X線写真、心電図などに対する所見の評価の記載が漏れがちであり、徹底を望みたい。
ポイント
・患者の意思確認書式は整えられているか。
・検査結果の評価の記載は忘れがち。
ケアプロセスにおいては薬剤師の病棟へのかかわりが強く求められている。薬剤情報を迅速に、かつ容易に入手できる方策として、医薬品集の病棟配置(毎年改訂ないしは追補が必要。50音別や効能別)、オーダリングシステムや電子カルテシステムから、どこでも容易に検索できる仕組みなどが求められる。また、処方内容の適切さを監査・指導できる対策を薬剤師の関与やITを利用したシステム的な取組みを整備されたい。抗菌薬の使用手順・指針は第2領域の感染対策でも求められ、病院組織として抗菌薬の使用方法や登録制などを確立する必要がある。
病棟における薬剤管理にも薬剤師のかかわりが強く求められている。これは、薬剤師・看護師の本来業務を考えていくうえでは当然の分担と理解していただきたい。具体的には、自己評価表に謳っているような1回量包装から注射薬の個人別取り揃え、さらには在庫管理に関してである。
薬剤投与に関しては、特に向精神薬の一部、血液製剤、抗がん剤などに関して、その投与スケジュール、投与速度、留意すべき副作用の発現等に関しての手順書の整備と周知が望まれる。さらに、服薬指導にあたっては、医師や看護師など病棟スタッフとの意見交換の場の設定と相互の職種においての検討内容の記録が求められる。意見交換の場は、カンファランス形式であっても回診(ウオーキングカンファランス)形式でも、記録が充実されていればよいと思われる。また、緊急時の薬剤投与に関しては少なくとも区分B以上の病院においては薬剤師の当直体制、ないしはそれに順ずる体制が望ましい。
ポイント
・薬剤師の病棟業務への強い関与を。
・薬剤投与にかかわるマニュアルの整備を。
・薬剤師とのカンファランス記録の整備を。
ケアプロセスにおいては手術・麻酔・処置の計画性は患者の背景に個別対応した多職種が参加した検討会の設置が望まれ、その検討会の記録とともに、説明・同意の過程が記録されている必要がある。
特に安全管理(特に誤認防止)の観点から、入退室の手順の整備は必須であり、外科系病棟のみならず緊急時に手術出しの可能性のある内科系病棟においても、その手順の整備と周知が求められる。
ポイント
・術前カンファランスの実施と記録。
・手術室入退室手順の整備と周知の徹底を。
(管理)栄養士の病棟における強いかかわりが求められ、治療の重要なパーツとしての栄養管理に患者を中心とした多職種間での検討の場の設定が望まれる。一つの指標としては栄養指導件数となり、また多職種間の検討会の記録とともにその内容が栄養指導記録のみならず医師の経過録、看護記録へ反映されていることが求められる。
ポイント
・栄養を中心とした多職種カンファランスの開催と記録を。
患者の自立度やADLに関しては、当然評価がなされその記録が求められる。また、患者や家族に対してリハビリテーションの計画が「計画書」などを通じて示される必要がある。特にケアプロセスにおいては、リハビリテーションスタッフと医師や病棟スタッフとの間の検討会の実施とその記録、さらに患者の治療の評価を経過録や看護記録で確認できる体制を望みたい。
前述の4.20で示したように、リハビリテーションの記録とその他の診療録の一体化に向けた工夫は強く望まれる。
ポイント
・リハビリテーションにかかわる評価はリハビリスタッフのみに負わない。多職種の情報共有と検討を。
・リハビリテーション記録と診療録の一体化の工夫を。
ガンなどの緩和医療のみならず、一般的な処置や術後にかかわる患者の疼痛や不快感への対処が求められる。具体的には疼痛のペイン・スケールを用いた疼痛治療ラダー等の手順書の整備とその実施記録が求められる。また、術後に関しては硬膜外持続麻酔チューブの挿入などの取組みにも、病院として統一した適応の明文化を望みたい。
看取り時の、患者や家族への心理的な支援に関しては、精神科医やカウンセラー、さらには宗教家などのかかわりがあればまったく問題ないが、そのような専門職のかかわりがなくとも、主治医や現場の看護師などが実際に臨床で行っている心理的な支援の記録を経過録に記載するよう求められる。
ポイント
・疼痛緩和マニュアルの整備を。
・心理的な支援もきちんと記録を。
薬物によるものを含めて抑制・拘束の方針、基準の手順書が求められる。また、一般病院においても抑制・拘束に対しての医師の指示、診療録への記載が求められる。さらに、患者やその家族から同意書や承諾書を取得する必要がある。
ポイント
・抑制・拘束のマニュアルの整備を。
非常用カートや蘇生装置は定位置に設置すべきである。特に非常用カートは、安全管理・誤認防止の観点から、院内で同型のものにすべきであり、カート内の薬品や器具の配置は院内統一のものにする必要がある。ここで、診療科の特異性がある場合は、院内統一部分とその病棟特異性部分をきちんと分けておく必要がある。また、薬剤の補充状況や期限切れの把握は、誰が、いつ行ったかが分かるようなチェックシートの整備が求められ、カート内の診療材料の配置状況や喉頭鏡のランプのチェックも求められる。さらに、非常用カートは病棟ばかりではなく、内視鏡室やレントゲン室などリスクを伴う検査・処置が行われる可能性のある部署においても統一規格のものの設置が望まれる。
緊急時の手順書と、緊急放送コード(一般的にはコードブルーと呼ばれるものが多い)の整備とともに、現場職員への周知徹底が求められる。
また、緊急時の対応訓練として、診療にかかわる職員だけではなく全病院職員を対象とした心肺蘇生法の訓練の実施が望まれる。
ポイント
・非常用カートは病院統一規格に。チェックシートで確認を。
・緊急放送コードの周知徹底を。
退院後の療養指導は、主治医のみではなく、その患者にかかわった多職種による指導の実施と記録が求められる。また、必要な連携・調整は主治医や病棟師長に委ねられているのではなく、病院組織としてのかかわりが強く求められる。そういった意味においては、地域の医療や介護保険情報などを収集したソーシャルワーカーなどの専任職員の整備が重要となる。また、クリニカルパスなどを通じて、急性期医療が終了後の療養の継続性を患者にあらかじめ示しておく努力は大いに評価される。
ポイント
・病院組織として療養の継続性にかかわりを。
症例検討会に関しては、これまで述べてきたように患者にかかわる複数科、多職種を巻き込んだ検討会とその記録、さらにそれをもとにした診療計画の見直しの記録が求められる。また、CPCの開催や病理解剖が行われていない症例におけるデス・カンファランスの開催などで、病理所見をもとにした検討会の実施も望まれる。
多職種検討会の取組みは、クリニカルパス作成の過程もアピールするには有用である。しかし、その場合もパス適応後のバリアンスの発生に関しても検討会を実施し、その内容を評価する姿勢が望ましい。
治療実績は、病院の質の評価として体系的に取りまとめる必要がある。そのためにも、診療情報管理の分野で求められている病名や処置・手術のコード化は必須のものとなる。 症例データベースから疾患別・手術別院内死亡率や術後合併症・続発症発生率などの臨床指標(クリニカル・インディケーター)を設定することが望まれる。この本来の目的は、経時的に入院中における診療の質の推移を監視するものである。したがって、すべての疾患・手術に適応することは現実的に不可能かつ無意味であり、各診療科において症例数の多い1〜2の代表的疾患におけるデータを継続的に監視する仕組みで十分であると思われる。
ポイント
・多職種カンファランス積極的に開催し、記録する。
・治療成績の取りまとめにはコード化が前提。
・いくつかの疾病だけでもクリニカル・インディケーターの設定を。